見出し画像

【短編小説】性(さが)

#短編小説 #一次創作 #ゲイ #性

 僕はあいつのことが好きだ。あいつと言っても女性じゃなく、男性だ。あたしはゲイだ。でも、それを認めたくない。普通に女性を好きになりたい。でも、それはあくまで理想であって現実は違う。

 自分がゲイだと気付いたのは20歳の頃だと思う。僕は奥手なタイプで自身の性に気付くのが遅いと思う。

 あたしの名前は長谷川未知留はせがわみちる、25歳。職業はゲイバーで働いている。毎日、筋トレをしており、腕立て伏せ、腹筋、スクワットをしている。おかげで筋肉がついた。身長は160センチくらいで体重は75キロくらい。身長の割に体重が多いのは多分、筋肉がついたからだろう。

 あいつというやつの名前は田畑洋介たばたようすけ、24歳。こいつは多分、ゲイじゃないと思う。それが残念でならない。洋介君のどこを好きになったかというと、イケメンだし、体型も細くて長身。それに、優しい。優しいところが1番好き。

 職業は保険会社で勤務している。あんな難しい仕事をよくできるなと思っている。車の保険に生命保険。難しい、あたしにとっては。だから、洋介君のことを尊敬している。

 彼は僕のことをどう思っているだろう。ゲイじゃなければ、人間性を好きになってもらうだけでも嬉しい。いずれは、こちらの世界に引きずり込みたい。

 自分のことを言う時、相手がゲイか、自分のことをゲイだと知っている人の前では「あたし」。相手がゲイじゃなく、自分のことをゲイだと知らない人の前では「僕」と呼ぶようにしている。

 洋介君は、あたしが彼に好意を持っていることはしらないはず。だから、もっと仲良くなったら告白しようと思っている。

 そもそも、田畑洋介君と知り合いになった場所は職場。事務系の仕事でチラシやフリーペーパー等を作っている。ユーザーのお店をそれらに掲載していてチラシは週に1回、フリーペーパーは月に1回、発行している。あとはTシャツのロゴの印刷、などなど多岐にわたる。

 あたしはそういった仕事が好きだし得意なので、メキメキと頭角を現した。今は主任という地位にいる。でも、威張ったりはしない。性格上、そういうことは出来ない。

 ゲイの友人があたしには何人かいる。ネットで知り合った人もいれば、リアルで知り合った友人もいる。その内の1人に体の関係をもった相手がいる。名前は高坂敦こうさかあつし、31歳。あたしは彼を
あつしちゃんと呼んでいる。彼は、両親に自分はゲイであることをカミングアウトしたらしい。すると父親は、
「嘘をつけ! そんなはずはない!」
 と理解を示してくれなかったらしい。母親は、
「気持ち悪いねぇ、やめてよ」
 両親揃ってわかってくれなかったらしい、可哀想。敦ちゃんは、それ以来、両親と会っていないらしい。それもそうだろう、そんな環境で一緒にいられないのは物凄くわかる。だから、一人暮らしを始めたと言っていた。職業は土木作業員。男がたくさんいる職場がいいようだ。このなかに1人でもゲイがいないかなぁと思っていて、探してみたら2人、ゲイがいたという。
 敦ちゃんにはもちろんゲイであるということはその2人には伝えてあるので、連絡先を交換して3人でご飯を食べに行ったという。中華料理を食べたと言っていて、割り勘だったそうだ。

 今夜は敦ちゃんとラブホテルに行く予定。ムラムラして堪らない。早く敦ちゃんに触れたいし、ハグしてもらいたい。

 時刻は19時頃。何時頃会うつもりなのだろう、メールを送ってみた。
<敦ちゃん、何時に会う?>
 だが、1時間経ってもメールがこない。あたしはイライラしてきたので電話をしてみた。7回ほど呼び出し音がなっていて、繋がった。
『もしもし』
「もしもし、メール見てくれた?」
『え、見てない。あ、そういえば今夜、未知留ちゃんと会う約束してたね。ごめん、忘れてた』
 あたしは、そう言われて腹が立った。
「ちょっと、敦ちゃん! 忘れないでよー……。悲しいよ、あたし」
『ごめんね、明日でもいい? 今、彼氏が来ていて』
「え。彼……氏? いつできたの?」
『言ってなかったっけ? 先週だよ』
「そうなんだ、知らなかった……。じゃあ、あたしとはもう会えないね?」
『そうだねえ……。ごめん!』
「ちなみに相手はゲイなんでしょ?」
『そうだよ』
「そっかぁ……。寂しくなるね」
 あたしは目に涙を浮かべた。好きな人は別にいるとはいえ、疎遠になるのはやっぱり悲しい。
『そうだねぇ』
「2人がいいのであれば、今度3人でご飯でもどう?」
『うん、訊いてみるね。あとで、行けるか行けないかメールをするよ』
「わかった、待ってるね!」
 敦ちゃんと繋がりが切れたわけじゃないと思えたので気分が上がった。
 電話はそこで終わった。

 愛しの田畑洋介君は何をしているのかな。もしかして彼女といたりして。メールを送った。
<こんばんは! 何してたの?>
 スマートフォンを弄っていたのかな、メールはすぐに来た。
<こんばんは、どうしたんすか。今、パチンコしに友達と来てますよ>
 そうなんだ、パチンコするんだ。賭け事はしないと思っていたけれど。意外。煙草を吸うとか、お酒を呑むとかは知っているけれど。結構、遊び人なんだな。意外な一面を垣間見たような気がする。でも、そんなことで洋介さんを嫌いになったりはしない。あまりカタブツよりはいいかもしれないし。
 あたしも行ってみようかな、彼と同じパチンコ屋に。でも、やったことがないから教えてもらわないとできない。
<そうなんだ。僕も行ってみようかな。洋介さんと同じパチンコ屋に>
 少ししてから洋介さんからメールがきた。
<長谷川さん、したことあるんすか?>
<ないよ、ないから洋介さんに教えてもらおうと思って。駄目かな?>
<ダメではないけど、俺いま出てるんですよ。だから、暇なときならいいっすよ>
<そう。残念。じゃあ、今日は無理ってこと?>
 それからしばらくの間、メールはこなくなった。出ているからメールどころではないのだろう。そう思うと、ちょっと悲しい……。

 仕方ない、今日のところは無理かもしれないから、諦めよう。もしかしたらと思っていると、焦れるから。

 今夜は仕事。お客さんはどれくらい来てくれるかな。ゲイバーだからゲイのお客さんが多いけれど、ノンケのお客さんも来てくれる。むしろノンケの女性のほうが楽しんでいってくれているような気がして嬉しい。

 あたしは支度を始めた。まずはシャワーを浴び、白いワイシャツにジーンズを履いて、食パンを2枚食べた。お酒を扱う仕事だから、空腹ではすぐに酔ってしまい、仕事にならなくなる。
 不意にメールがきた。開いてみると、洋介さんからだ!
<今、パチンコ終わりました。今なら暇だからパチンコ教えますよ?>
 あたしはすぐに返した。
<嬉しい話だけれど、今日、これから仕事なのよ。ごめんね、せっかく教えてくれるっていうのに>
<いや、いいんすよ。じゃ、また>
 本当に残念な気分。彼の隣で教えてくれたら、洋介さんの匂いとかかげるのに。仕方ない。
 そう思いながら出勤した。

 今夜はそれほどお客は来なかった。平日だからというのもあるのかもしれない。まあ、そういう日もあるだろう。あたしはこの仕事を5年近く続けている。しかも同じお店で。だから、店長には信頼されているように感じる。店長は1回変わっている。従業員はあたしを含め5人いて、仲が良くない店員もいる。そいつはあたしより年下で20歳だったはず。名前は、
大矢海路おおやかいじという。もちろん、ゲイだ。始めの内は仲が悪くなかったけれど、あたしのお客さんを横取りしてから嫌いになった。もしかしたら一方的に嫌いなのかもしれないけれど。辞めたら負けだと思っているので絶対辞めないつもり。給料だって、毎年アップしてるし。だから退職するのはもったいないというのも理由の1つ。

 ゲイバーの閉店時間は午前3時。結構遅くまでやっている。でも、今夜はお客さんがあまりいないので午前2時で店を閉めた。うーん、給料が減る。でも、人件費を削らないと、店の経営が苦しくなるから仕方ない。やはり、仕方ないという言葉を使ってしまう。

 帰宅途中にお腹が空いたので、牛丼屋に寄って大盛りの牛丼を食べた。美味しかった。

 夜中に食べるのが良くないのか、最近、胸やけがする。昼間に薬局に行き、薬を買うことにした。病院に行くことを職場の仲間に勧められたけれど、病院は嫌い。だから、行かない。
「頑固だなー、そんなに嫌いなのか」
 と仲間は言う。あたしは尋常じゃないくらい病院が嫌い。注射は痛いし、検査も苦しいだろうし。でも、数人の仲間は言った。
「検査して、異常なければ安心するじゃん」
 まあ、確かにそうだ。でも……でも、嫌なものは嫌。別に意地になっていいるわけじゃない。院内のアルコールの臭いのも嫌だし。病院に行くメリットがない。病気は治るかもしれないけれど。

 この話は、田畑洋介君には絶対言わない。好きな人に病院に行け、と言われたら行かない訳にいかないから。行かないと、人の言うことをきかないやつだと思われたくないから。せっかく、良い感じで接してくれているから尚更だ。

 だが、胸やけは酷くなるばかり。胃酸が上がってきて胸やけが起きるとネットには書いてあった。アパートに戻り、胸が気持ち悪いので、ベッドに横になった。だが、今日、飲食したお酒やおつまみなどが戻ってくるので起き上がった。相当酷いのでは? と思った。
 結局、眠れずに朝を迎えた。
 
 9時になり、ドラッグストアの開店時間になった。車でそこに向かった。胃腸のコーナーを見て回った。見つけた。でもどれがいいのかな。薬剤師に訊いて選んでもらった。この薬を飲んで治らなければ、病院に受診することを勧められた。やっぱり最後は病院か……。まずはこの薬を買って飲んでみよう。良くなることを祈る!

 久しぶりに、敦ちゃんからメールがきたのですぐに開いてみた。
<こんにちは! 未知留ちゃん。彼氏と話してみたんだけど、今度3人で食事しに行かない?>
 すごくうれしいメールだけれど、同情されているのかな? と思うとなんだかがっかりする。でも、せっかくだからお言葉に甘えよう。でも、何でそういう経緯になったのだろう。
<いいね! 誘ってくれてありがとう! 嬉しいよ>
<わたしが長谷川未知留ちゃんていうゲイの友達がいるんだ、という話しをしたら隆文、あ、彼は前沢隆文まえざわたかふみっていう名前なんだけど、彼が未知留ちゃんに会ってみたいって言うの。だから、誘ったのさ>
<へー、そうなんだ。意外。てっきり、敦ちゃんが誘ってくれたのかと思った>
<うん、実は違うのさ>
<前沢さんていう彼があたしに会ってみたいって言った時、敦ちゃん、嫉妬しなかった?>
 あたしはズバッとストレートに訊いてみた。
<まあ、何も感じなかった訳じゃないよ。もし、未知留ちゃんと隆文が仲良くなって、わたしが捨てられたらどうしようとか、考え過ぎかもしれないけれど正直そう思ったよ>
 あたしは複雑な心境になった。あたしが敦ちゃんを裏切るとでも思っているのかな。前沢さんもしかり。それをメールで送ってみると、
<いや、そういう訳じゃないけれど。……でも、やっぱり、そう思っちゃったかな。ごめんね>
<そうなんだ、そういうことは無いと思う。だから、安心して>

 実際、そういうことが起きた訳じゃないけど、やっぱ、疑っちゃうのは分からなくもない。あたしが逆の立場だったら、不安だし、疑うかもしれない。いくら仲の良い友達でも。
 メールはここで途絶えた。その方が良い。敦ちゃん、気分を害してなければいいけれど。でも、これ以上この話はしない方が良いと思ったからメールは送らなかった。

 そういえば、日程はどうするんだろう、と思った。余計なことは言わずに日程だけ決めよう。敦ちゃん、日程のこと抜けているけれど、忘れているのかな。あたしはメールを送った。
<敦ちゃん、3人で会う日程を決めよう?>
 だが、この日はメールが来なかった。何でだろう。忙しいのかな。

 翌日の朝8時過ぎーー。
 あたしは寝ていたがメールの着信音で目覚めた。敦ちゃんからだろうか。開いてみるとやはりそうだった。本文は、
<メール遅くなってごめんね。気付かなかった。未知留ちゃんの休みはいつ?>
 あたしは眠い目を擦りながらメールを打った。
<明日だよ。月曜だから暇なんだ>
<そうなんだね。隆文ちゃんにも訊いてみるよ、明日でいいかどうかを>
<そうだね、わかった。どうなったか連絡ちょうだい?>
<わかったー! 今、メールしてみるね>
<よろしく!>

 それからあたしは眠くなり寝入った。その間にチロリンという音が鳴り、それに気付かずにあたしは寝続けた。
 それから更に1時間くらい寝て目覚めたのは午前10時頃だった。怠い体をゆっくりと起こし、スマートフォンを見た。メール1件、と表示されていた。敦ちゃんからだ。そして、開いてみた。
<明日でもいいらしいよ、隆文ちゃん。因みにわたしは大丈夫だよ>
 あたしは敦ちゃんに質問した。
<隆文ちゃんって、苗字は何ていうの?>
 メールはすぐに来た。
<前沢だよ、前沢隆文ちゃん>
<そうなんだ、教えてくれてありがとう!>
<いや、大丈夫だよ>
 あたしは更に訊いた。
<何時頃会う?>
 敦ちゃんは答えた。
<わたしは夜7時くらいが良いな、未知留ちゃんは?>
<あたしも7時で良いよ>
<じゃあ、後は隆文ちゃんに訊いてみるね!>
 一旦、そこでメールは終わった。

 隆文ちゃんからのメールが来ないからなのか、敦ちゃんからメールが来ない。そう思っていると敦ちゃんからメールが来た。
<遅くなってごめんね。隆文ちゃん、寝てたみたいで。彼も午後7時でいいみたい>
 あたしは言った。
<そうなんだ。何食べたい? あたしは、ハンバーグがいいな>
 敦ちゃんは答えた。
<わたしも肉がいいな。ハンバーグが食べれるところなら、きっとステーキもあるはずだよね?>
<多分、あると思う>
<また、隆文ちゃんにメールしなきゃね>
 あたしがそう言うと敦ちゃんは、
<うん、そうね。隆文ちゃんに何度もメールしてるから面倒と思われてなきゃいいけど>
 そう言った。
<大丈夫じゃない、だって彼氏でしょ。それくらいで怒らないんじゃないの?>
 あたしがそう言うと、敦ちゃんは言った。
<それならいいけどね>

 再度、敦ちゃんは隆文ちゃんにメールを送った。内容はこうだ。
<隆文ちゃん、何度もごめんね。夕ご飯食べにいくけど肉がいい?>
 少ししてからメールがきた。開いてみると、相手はやはり隆文ちゃんだったようだ。
<肉でもいいよ~、ていうか何でも食べるよ>
<お、未知留ちゃん。隆文ちゃんからメールきて、何でもいいって>
<そうなんだ。じゃあ、肉にしよ>

 あたしはもう1人一緒に連れて行きたい人がいる。それは、田畑洋介君。でも、彼はノンケ(普通に異性が好き)だしな。どうしよう。敦ちゃんに相談してみよう。
<敦ちゃん、敦ちゃん。ちょっと相談したいことがあるんだけどいいかな。電話が良いんだけど>
 少ししてメールが来た。敦ちゃんからだ。
<電話でもいいよー。かけてきて?>
 あたしは敦ちゃんに電話をかけた。呼び出し音が数回鳴って、繋がった。
「もしもし、敦ちゃん?」
『うん、わたしだよ』
「もう1人連れて行きたい人がいるのよ」
『え? 誰?』
「敦ちゃんは知らないと思うけど、男性であたし、彼のことが好きで……。この話しは、したことなかったよね?」
『うん、初耳』
「だよね。でも、彼はノンケであたし達はゲイだから、どうしようかと思って」
『彼は未知留ちゃんが好意を寄せていることは知ってるの?』
「知らないと思う。それとゲイだってことも知らないと思うの」
『そっかぁ。そういうことなら2人で出掛けた方がいいかもね。今回は3人だけで会った方が良いと思う』
「やっぱ、そうだよねえ……。ごめんね、変なこと言い出して」
『いやいや、全然変じゃないよ』
「ありがとう!」
 あたしは敦ちゃんの優しさに感謝しているし、嬉しい。
 今度、あたしの方から洋介君を誘ってみよう。

 土曜日になり、敦ちゃんと、隆文ちゃんと、あたしの3人で居酒屋で呑んだ。美味しい食べ物もたくさん食べたし、自分のことや、恋愛のことを話した。あたしは名前は出してはいないけれど、洋介君の話しをした。敦ちゃんと、隆文ちゃんはラブラブな感じで仲の良さをアピールしながら、各々の過去の恋愛話を聞かせてくれた。敦ちゃんはいずれは籍を入れたいと話していたけれど、この小さな町で果たして婚姻は認められるのだろうか。でも、隆文ちゃんは、その話しを初めて聞いたようで喜んでいた。2人の未来が明るいものになるといいな。

 でも、あたしは……。ゲイのあたしと田畑洋介君は良い仲になれるだろうか? 彼はゲイじゃないし。あたしには明るい未来は巡って来ないような気がする。

 居酒屋から帰宅したのは、夜中の12時30分過ぎだった。タクシー代行で帰って来た。車はあたしが出した。何だか無性にムラムラするのはお酒を呑んで好きな洋介君のことを考えたからかな。性欲を我慢していたが、いずれ我慢出来なくなり、あたしは下着の中に手を入れた。そして、気持ちの赴くまま、行為に至った。彼を思いながらの行為は凄く気持ち良かった。

 あたしは傷つくのが怖い。結果は見えている。洋介君に告白してもフラれるのが落ちだ。だから、あたしの気持ちは伝えず、今まで通り、たまにカラオケや、食事、温泉などに2人で行った方がいいだろう。そう思い、田畑洋介君との交際は諦めた。その内、別に好きな人が見つかるだろう、ゲイの相手が。そう思い直すと気持ちが楽になった。今までは、やきもきしていたから、それも薄れたし。
 ゲイはゲイ同士がいいんだと思う。それか、相手がバイセクシャルか。あたしだって幸せになりたい。この気持ちは忘れちゃいけない。前向きにこれからも過ごしていきたいと思う。

                              (終)

 




 

 


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?