見出し画像

【連載小説】僕の好きなこと 5話 母の大人な対応

#連載小説 #日常 #僕の好きなこと #父からの叱咤

 辞職して僕は自宅に帰って来た。母が僕が帰って来たから驚いた顔をしている。
「哲太、どうしたの? 具合悪くて帰って来たの?」
 母は心配そうに言った。
「いや、辞めて来た」
「え! 何で? お父さんは知ってるの?」
 母は驚きを隠せないでいる。
「まだ、言ってないよ。辞めるって先に言ったら、反対されるに決まってるからね」
 母は黙っていた。図星だからだろう。
「父さんは仕事でしょ?」
「そうだよ。無断で辞めて叱られるよ、いいの?」
 少し間を置き、
「うん、限界だから。人間関係も上手くいかないし」
 母はため息をついた。
「困ったわね、前の職場も人間関係が上手くいかなくて辞めたよね。それはどこに行っても付きものよ。まあ、限界っていうなら仕方ないけれど」
 僕は母が呆れているように感じられて不快になった。
「母さん。僕が無断で退職して呆れてるんじゃないの?」
 僕から目をそらし、
「そんなこともないけどさ、ただ、もう少し我慢強くならないとね」
 そう言われ僕は腹がたった。
「僕なりに我慢してきたんだ! 母さんは僕の気持ちがわからないんだよ!」
 早口で母をまくしたてた。
「そんなに怒らなくてもいいじゃない。お母さんからのアドバイスなんだから」
「アドバイス? そんなアドバイスいらない!」
「あっそう! 何でそういう言い方しか出来ないのかねえ」
「母さんがそういうこと言うから、僕も腹がたつんだよ!」
「はいはい、すみませんねえ」
 いつものように面倒になると無理矢理話を終わらせようとする。母の悪い癖だ。僕は居づらくなり、自分の部屋に行った。

 会社での話や、母との言い合いで少し疲れてしまった。僕はベッドに横になった。そして眠りについた。

 目を覚ましたのは昼の12時30分頃だ。お腹が空いた。母は何をしているのだろう。さっき、言い合いをしたから気まずい。僕も珍しく感情的になって少し言い過ぎたかな。様子を見にキッチンに行ってみた。母は昼ご飯を作っているようだ。
「母さん」
 母は玉ねぎの皮を剥きながらこちらを見た。
「お昼はカレーよ。あんた好きでしょ」
 母はこんなに僕に文句を言われても怒っていないのかな、さすが、大人。
「さっきは言い過ぎたよ、ごめん」
「その気持ちは大事よ、あんたも少しは成長したんじゃない。前なら謝らなかったから」
 確かにそうかもしれない。なんとなく、昔の僕とは違う気がする。
 父には謝罪しないとな、父の顔に泥を塗る結果になってしまったから。そう思い、リビングにあるソファに座った。

                                  つづく……

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?