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【連載小説】一途な気持ち 3話 誕生日

#連載小説 #一次創作 #一途な気持ち

 律子はたまにレストランに友達と行っていると言っていた。そこで俺は言った。
「たまには俺も誘ってくれよ」
 彼女も言った。
「友達と行く時は無理よ。いろいろな話しをするから」
 もしかして、と思い切って言った。
「俺の悪口とか言っているのか?」
 律子は動揺しているのか、
「ま、まさか、そんなこと言うわけないじゃない」
 どもっている。これは言っているな。まあ、いい。俺の耳に入ってこなければ何を話してもいい。気にはなるが。

 そんなことを話しながら、律子に道を案内してもらいレストランに到着した。それは黄色っぽい壁で、駐車場には数台、車が停まっていた。俺と律子は車から降り、先に彼女が歩いて行った。入ったことがないので、俺は着いて行くかたちにした。

 中はガラスの自動ドアで仕切られていて、お客さんはまばらだ。白いエプロンをしたウェートレスが近づいてきた。
「いらっしゃいませ。2名様ですか?」
「はい」
 律子が答える。
「お煙草は吸いますか?」
「いえ、吸いません」
「では、お席の方までご案内しますね。こちらへどうぞ」
 俺らはウェートレスの後を着いて行った。そして、二人用の席に案内され、向かい合う形で座った。律子が目の前にいる。恥ずかしい。それだけ好きだということだ。赤面しているのが自覚できる。
「大輔、顔真っ赤よ? どうしたの?」
 そんなこと訊かないで欲しい。決まっていることだけど、彼女は俺の気持ちに気付いていないようだ。長い付き合いだというのに俺は未だにカミングアウトできないでいる。意気地なしな俺。高校生の頃から好意を寄せていて、今、お互い26歳。10年近く片思いが続いている。何で俺の気持ちに気付いてくれないんだ。まあ、いい。今日は律子との食事を楽しもう。

 彼女の質問にはあえてスルーした。ウェートレスは、
「こちらメニュー表になっておりますので、お決まりになりましたらそこの赤いボタンを押して下さい。参りますので」
「わかりました」
 律子は慣れた様子で接している。俺は初めて来たので緊張している。
「今日はわたしがおごるよ。おめでたい日だから」
 それを聞いて嬉しくなった。
「いいのか? 何だか悪いな」
 彼女は得意気になっているように見える。
「何言ってるの。長い付き合いじゃない。それに、毎年のことだし」
「まあ、確かに」
 
 去年、俺は律子の誕生日にスワロフスキーが施されたシルバーのネックレスをプレゼントした。とても喜んでくれて、こっちまで嬉しくなった。

                             つづく……

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