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【短編小説】遊び好きな彼と一途なわたし

#短編小説 #一次創作 #誕生日

 俺には交際歴二年の彼女がいる。出会ったのは同じ会社で、俺はダンプの運転手をしており、彼女はそこの事務員をしている。
俺は煙草も吸うし、酒も呑む。ついでに女好き。俺の名前は、
只野末弘ただのまつひろ、二十三歳。性格は自覚している範囲では、気性が荒く短気。ちょっとした事で友人や彼女と喧嘩になる。さっきも彼女と喧嘩をし、今、苛々している。なので、彼女の頬を張った。彼女も気が強く、泣きながら俺の顔を拳で殴った。流石に拳は痛いので、もう一発頭を叩いた。週に四~五回は喧嘩をする。
俺の体格は痩せてはいるが身長が高く百九十センチくらいあり骨ばっている。
彼女は大田凛子おおたりんこといい、二十一歳。俺と同様、気が強い。でも、一途な女で俺一筋だ。逆に俺はいろんな女と遊びたいので、凛子には内緒で友人と若い女がいる飲み屋に頻繁に行っている。
凛子は背が低く百五十センチに未たないだろう。煙草は吸わないし、酒も呑まない。だから俺に禁煙しろとしつこいくらい言ってくる。でも、俺は禁煙する気はない。凛子が言うには、
「副流煙の方が害があるんだからね!」
 と言われたが、副流煙の意味が分からない。なので、
「何だよ、それ!」
 そう言うと、凛子は、
「もしかして副流煙の意味が分からないの? 頭悪いね」
 馬鹿にして笑っている。それにも腹が立って尻を蹴った。すると拍子で前のめりになり、転んだ。今度は俺が笑う番。
「ギャハハハッ!」
 と笑ってやった。
 こんな喧嘩ばかりの仲でも別れないでいる理由は体の相性が抜群に良いから。こんな女はなかなかいない。それでも俺は他の女と内緒で遊ぶ。凛子以外の女と遊びたいし、凛子も大切にしたい。失いたくない。勝手な俺かもしれないが、これが本音。友達と呑みに行った時、この話しをしたら、
「勝手だし、失いたくないなら凛子ちゃんだけを見ろよ」
 そう言われた。俺はその言葉に腹がたった
「そこまでお前に言われたくない!」
 こいつは俺と中学校時代からの友人。腐れ縁だ。
「でも、おれの言っていること間違ってないだろ?」
 こいつは旧友で山崎豊光やまざきとよみつという。
「ちっ! 間違ってねーよ! 畜生!」
 フフフッと山崎は不敵な笑みを浮かべていた。相変わらず負けず嫌いなやつだ、俺もだけれど。こいつは身長が低く、百六十センチくらいしかない。それに、太っている。それでも、動きは機敏だ。歩くのも早いし。だから、土木作業員という職業は合っているのかもしれない。今は彼女はいないようだ。山崎には悪いがこの顔とこの図体では彼女も出来ないだろう、ブ男というやつ。でも、良い奴だ。俺もだが、かなりの女好きで毎月風俗に行っているらしい。俺は自分の彼女以外ともやりたいので、たまに山崎と一緒に風俗に行ったり、ナンパして引っかかった女を相手にしている。
 今日は十二月六日。凛子の誕生日だ。ピアスでも買ってやるか。あとネックレスも。俺がプレゼントする時、どんなもの良いか訊かずに、彼女が好きそうなものを俺が選んで渡す。なので、仕事が十八時で終わった後に一人で買いにデパートに行く。
 予定通り仕事を十八時に終え、事務所に戻り、タイムカードを切った。帰ろうとした時、営業部長に呼ばれた。
「社長が呼んでるぞ。社長室に行ってくれ」
 因みに凛子はパートなので十六時には退社している。
 俺は言われた通り社長室に向かった。一応、ノックをして社長が、
「はい」
 と返事をしてからドアを開けた。俺は挨拶をした。
「社長、お疲れ様です」
「おう、お疲れ。お待ちかねのボーナスだ」
 社長は笑顔を浮かべている。封筒に入った書類を受取った。
「ありがとうございます」
 俺はお辞儀をした。社長室から去ろうとした時、話しかけられた。
「最近は随分と仕事頑を張っているようだな。君の彼女の大田も頑張ってるぞ」
「有難うございます。そうなんですね、凛子も頑張ってますか」
 社長は立ち上がりながら言った。
「これからも君達のような若い人材に期待しているぞ!」
「はい! 頑張ります」
 俺は立ち上がり、
「失礼します」
 と言って社長室を後にした。
 俺はボーナスの事は頭に無かったので嬉しかった。自分の車に戻り封筒を開けた。書類を見てみると二十万だった。やったぜ! と思わず一人でガッツポーズをした。これで凛子の誕生日プレゼントが少し高めのを買える。喜ぶ顔をみるのが楽しみだ。
 仕事帰りにこの町で一番大きなデパートに向かった。そしてアクセサリーを売っているテナントに行った。予定していた、ピアス、ネックレス、リングを見て回った。素材はプラチナにしよう。だいたい予想通りの値段だった。それから食品売り場で生寿司も買った。凛子は寿司が大好物だから。もしかして、被っていたりして。確認してみようかな。彼女に電話をかけて訊いてみると、唐揚げとビールしか買ってないらしい。なので、言った。
「生寿司買ったから」
「え! ホント? ありがとう」
 嬉しそうだ声色だ。勿論、アクセサリーの事は言っていない。驚く顔が見たいから。それから帰宅した。料理は俺のアパートで作ってくれているはずだ。俺の部屋の合い鍵は渡してあるから、いつでも入れる。逆に俺も凛子の部屋の鍵を持っている。俺は言っていないが、同棲したらどうかと思うけれど、俺もたまには
一人で居たい時もあるから打ち明けていない。凛子は同棲の事を考えたことはあるのだろうか。分からないけれど。とりあえず今はこのままで良い。俺のアパートに着いたのは十八時半頃だ。俺は生寿司をテーブルの上に置いた。生寿司は三人前を買った。何故、三人前かと言うと俺が一人前で足りないから、俺は二人前で彼女は一人前にした。凛子にそう説明すると、それで良いと言っていた。
 俺は生寿司のパックを買い物袋から三つだした。凛子が見ると、
「ワーオッ!」
 と声を挙げた。
「旨そうだろ」
 俺は得意気に言った。
「お寿司食べるの久しぶりだわ」
「だよな」
「それと、」
 俺はラッピングしてあるアクセサリーを早速出し、凛子に渡した。
「なあに、これ」
「開けてみろよ」
 彼女はゆっくりと開封し、テーブルの上に挙げた。
「え! ネックレスとピアス。指輪もある! 高そー!」
「誕生日プレゼントだ。気に入るかな」
「へー! 可愛い! 有難う、末弘! 嬉しい」
「喜んで貰えて良かったよ」
「うん、勿論!」
「じゃあ、早速食うか。俺はビールを飲むけど」
 冷蔵庫に行き、三百五十ミリを三本持って来た。さっき凛子が買ってくれたビール。
「凛子も呑むか?」
「うん! 一本だけ貰おうかな」
「まあ、一本とは言わず祝いの日だから沢山飲めよ」
「いやあ、一本だけで十分だよ。ありがとね!」
 その時、俺のスマートフォンが鳴った。誰からだろう? 見てみると友人の山崎豊光からだった。何だ、こんな時に。
「もしもし! どうした?」
『最近連絡ないからどうしてるかなと思って電話したんだ』
「そんなことか! 今日は凛子の誕生日で今からお祝いをするんだ」
『お! マジで? おれもお祝いしたいな!』
「え? 今日は二人にさせてくれ」
『じゃあ、プレゼントだけでも買って渡してくれないか?』
「それだけならいいぞ」
『わかった。今から買って行くわ』
 全くこんな時に。まあ、すぐ帰るからいいけれど。それを凛子に伝えた。
「そうなんだ。律儀な人ね」
 彼女は笑っていた。
「俺の親友だから凛子のことも気遣ってくれるんだと思う」
「それは有難い話しね」
「だろ? でも、すぐに帰るけどな」
「あら、そうなの」
「うん、二人にしてくれと言ったんだ」
「そうなんだ、何か可哀想」
「そうか? じゃあ、居て貰うか?」
「どっちでもいいよ。祝ってくれる人が増えるのは嬉しいから」
「なるほどな。じゃあ、ビールも買って来て貰うように頼むわ」
「うん、わかった」
 俺はテーブルの上に挙げておいたスマートフォンを取り、LINEをうった。
〈今、凛子と話したら山崎が居てもいいらしい。どうする? いるか?〉
 山崎からのLINEは三十分くらいしてから来た。
〈居てもいいならいるよ〉
 俺はLINEが来ている事に気付かずに一時間くらい経過していた。二十時三十分ころになっていた。
「あ! 山崎からLINE来てた。送っとくか。この時間だから来るかどうか分からないけど」
「そうね」
〈返信遅くなって悪い。今からでも良いなら来ないか?〉
 すぐにLINEは来た。
〈行くわ。ちょっと待っててくれ〉
〈ああ。わかった。悪いんだけど、ビール買って来てくれないか?〉
〈了解!〉
 それから約三十分後――。
 アパートのチャイムが鳴った。山崎がやって来たと思う。この時間に来る奴はさっき連絡をとった山崎しか居ないだろう。俺は玄関に向かって叫んだ。
「はーい!」
「おーう! 只野―! 入るぞー!」
「いいぞー!」
 凛子が玄関に行ってくれた。
「悪いな、凛子」
「ううん、良いよ」
 彼女は相変わらず優しい。
「山崎さん、鍵開いてますよー。どうぞ」
 ガチャリとドアが開いた。彼は凛子に挨拶をしていた。
「こんばんは! 凛子ちゃん」
「山崎さん、こんばんは! 久しぶりですね」
「そうだね。元気だったかい?」
「はい、元気ですよ。立ち話も何なんで上がって下さい」
「ありがとう」
 そういう二人のやり取りが聞こえてきた。そして山崎は言った。
「お邪魔します」と。
 彼は頼んであったビールを片手に持って入って来た。俺も挨拶した。
「オスッ!」
 山崎は手を挙げながら言った。
「ウィッス! まあ、長居はしないよ。これ、ビール。凛子ちゃん、誕生日おめでとう! 凛子ちゃんにとって良い一年になりますように! それと、これ。何が良いか分からないから、スイーツを買って来た。食べてね、凛子ちゃん」
 彼女は満面の笑みを浮かべて言った。
「ありがとうございます。今年で二十二になります」
「そうかぁ、只野やおれの一つ下かぁ。二人は結婚は考えているのか?」
 俺は答えた。
「まあ、まだお互い若いからおいおいだな」
「わたしはそのつもりだけど」
 山崎は彼女の発言に反応した。
「お! 凛子ちゃん、一途だな! 素晴らしい」
「おいおい山崎。俺だって凛子しか見てないよ」
 山崎はいやらしい顔をしながら俺を見ている。
「なんだよ山崎、その顔は」
「いや、別にぃ」
 彼は俺が風俗行ったり、ナンパしたりしていることを知っているからそういう顔で見てきたんだろう。山崎の態度で凛子が変に思わなければいいが。大丈夫だとは思うけれど。俺も凛子に向けて言った。
「凛子、俺からも。誕生日おめでとう! これからもよろしくな。良い一年になるようにお互い頑張ろう!」
 彼女はまた笑みを浮かべて言った。
「ありがとう! 頑張ろうね」
 俺も笑みを浮かべて彼女を見詰めた。
「ああ、山崎。立ちっ放しだったな。まあ、座れよ」
「うん、サンキュ!」
 彼はカーペットの上に胡坐(あぐら)をかいた。
「帰りはタクシー代行で帰れよ。呑もうぜ!」
「あ、ああ。呑む気は無かったけど、凛子ちゃんの折角の誕生日だからお祝いに呑むか!」
「お! その意気だ」
 凛子も言った。
「山崎さん、祝ってくれてありがとうございます!」
「いえいえ、友達の彼女だからね」
 俺と凛子は笑っていた。
「山崎、ホントありがとな!」
「いやいや、そんな大したことは言ってないよ」
 凛子が話し出した。
「山崎さんは彼女いないんですか?」
 彼は困ったような感じで言った。
「うーん、好きな人はいるんだけどね。今の所、彼女はいないよ」
 凛子は微妙な表情で喋った。
「そうなのかぁ、山崎さんなら優しいからモテると思うんだけどなぁ」
「だと良いけどねえ。それがそうでもないのさ。誰かいないかい? 凛子ちゃん」
 そう言われてわたしは考えた。誰かいるかなあ。女友達は数人いるけど、彼氏もちが多いかもなあ……。あ! あの子なら良いかも。
「訊いてみないと分からないけど、彼氏がいないかもしれない子が一人います。今、LINEしてみますか?」
「え! いいの? 何か悪いなぁ……」
 凛子は手を左右に振って否定した。
「いえ、悪くないですよ! 誕生日のお祝いもしてもらったし。そのお返しです」
 山崎は顔を歪ませて言った。
「ああ。そいつは有難い。じゃあ、訊いて貰えるかい?」
「はい、お安い御用です!」
 凛子は俺のスマートフォンと並べて置いてあったそれを手に取った。そしてLINEを打ち出した。出来上がったLINEの内容を俺に見せた。
〈こんばんは! 幸代(さちよ)。久しぶり。元気してる? ちょっと訊きたいことがあるんだけど、幸代は今、彼氏いる?〉
 俺は読み終わったのでスマートフォンを凛子に返した。
「良いと思うぞ」
「良かった。駄目だし食らうかと思った。こういう文章苦手で」
「え? そうなのか。充分な出来だと思うけど」
「ホント? ありがと」
 彼女は喜んでいる、可愛い奴だ。
「その子はいくつ?」
「十九ですよ」
「未成年か! それは犯罪だよ。ヤバイって」
「え? そうですか? 別にイチイチ警察に年齢を報告するわけじゃないから
大丈夫じゃないですか?」
 山崎は困った様子だが、
「それはそうだけど、うーん……。まあ、大丈夫か」
 何とか納得したようだ。
 時刻は二十二時頃。LINEはあれから三十分経過するが来ない。凛子はなかなか来ないLINEを気にしている様子。
「寝たかな? 寝るには早いか」
 山崎は話し出した。
「凛子ちゃん、焦らなくてもいいよ。彼女は欲しいけど、焦ってないからさ」
「そうなんですか?」
 山崎はうん、と頷いた。
「いや、待たせて悪いなあと思って」
 そう言うと、山崎は噴き出した。
「そんな事気にしなくて良いよ」
「そうですか? ありがとう」
 山崎はまた笑い出した。凛子は不思議そうな顔つきで山崎を見ていた。
「凛子ちゃんって律儀だな」
「そうかなあ、自分では分からないや」
 と、その時。スマートフォンが鳴った。凛子はビクッとなった。
「びっくりしたあ」
 LINEだ、幸代からだろう。画面を見てみたらやはりそうだった。本文を見てみた。内容はこうだ。
〈元気だよ。彼氏はいないよ。どうして?〉
 凛子はすぐに返事を打って送った。
〈実はね、わたしの彼氏の友達に幸代を紹介しようと思ったんだけど、どう? 会ってみない?〉
 幸代は黙った。男性に強い興味を示さない事は知っている。だから無理強いはしない。そんな事をして怒らせても嫌だし。
〈どんな人?〉
 お! 食いついてきた。
〈良い人よ、優しいし〉
〈そうなんだ、いくつなの?〉
〈彼氏と同級生だから二十三よ〉
〈へー、若いんだね〉
〈うん、わたしたちより一つしか違わないからね〉
〈そうだね〉
〈じゃあ、会ってみる?〉
〈あ、どんな見た目?〉
 わたしは山崎さんを見て笑顔を浮かべてから、LINEを打った。
〈男性にしては背は低めで太っているかな。顔は決してイケメンとは言えないけどね〉
 暫くLINEは来なかった。余計な情報を送ってしまったかな。もう少し待ってみよう。わたしは時間を潰す為に、スマートフォンを弄(いじ)り始めた。
 約三十分後、LINEが返って来た。
〈外見は気になるけど、会ってみるよ〉
 気になるけど、とはどういう意味だろう? それも訊いてみた。すると、こういう内容だった。
〈顔も好きになる対象だからさ〉
 やはりそうか、言わなければ良かった。でも、嘘ついてもまずいし。わたしは悪くない。
 わたしは彼氏の末弘に訊いた。
「いつにする? 山崎さんと幸代が会うの」
「俺はいつでもいいぞ。凛子はいつがいいの?」
「わたしは土日のどちらかがいいな」
「そうか。山崎は?」
「おれもいつでもいいよ」
「じゃあ、あとは幸代の都合を訊くだけね」
 凛子はまたLINEを打ち出した。
〈幸代はいつなら都合がいいの?〉
 少しして彼女からLINEが来た。
〈私は土日がいいな〉
「よし、じゃあ土曜日にしよう!」
 末弘と山崎さんにそう伝えた。もちろん、幸代にも伝えた。
 山崎と幸代さん、上手くいくといいなあ。俺は心からそう願った。
 山崎も機嫌が良さそうで、凛子も気分が上々に見える。皆の幸せを祈る。
 
                              終

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