告白

死と出会い 20話 告白と質問

僕は親友にカミングアウトされた。意外だった。でも、丁重にお断りした。悲しみを堪えている様子の彼女に、勝手かもしれないが友達でいて欲しいと伝えると、このままで関係が終わるのは嫌、という彼女の発言に助かった。

#死と出会い #20話告白と質問 #小説 #いじめ

愛理が僕に話したことは、カミングアウトだった。
「私ね……秀一のことが……好きなの……」
僕は驚いた。それは予想していなかったから。
「え……。本当に?」
彼女は少し黙っていたが、口を開いた。
「嘘言ってどうなるの……?」
「いや……そうだけど。でも、正直……」
愛理は僕を見詰めている。答えを待つかのように。
「親友のままでいたいな」
一瞬、彼女は泣きそうな表情になったが堪えたようで、
「そっかぁ……。フラれちゃったなぁ……」
「ごめん。でも」
「うん……?」
「僕の都合だけど……友達でいてくれないか?」
愛理は笑顔になり、
「もちろん。これっきりだなんて、嫌だよ」
「そうだね。僕も同じ。だから、これからもよろしく」
「こちらこそよろしくね」

 愛理のショックの度合いは分からないけれど、心の中では泣いているのかもしれない。でも、ここで僕が自分の気持ちを偽るつもりも無いし、麗香先輩の存在もあるし。これで良かったんだと思う。

 丁度その時、予鈴が鳴った。なんていうタイミング。まるで計ったかのようだ。僕等は顔を見あわせ教室に戻った。愛理の表情を見るとショックの色を隠し切れずにいるようだ。でも、仕方ないとしか言いようがない。

 僕は四時限目の授業が終わって休憩時間に愛理の席に行った。
例の「いじめ」の話をしに。
「なあ、愛理」
「うん?」
「下川原君が受けているいじめの話だけど愛理はいつ篠原先生に話すつもり?」
「そうねぇ。早い方が良いから今日の放課後か、明日の放課後だと思う」
彼女は真面目な顔をして言った。
「そうなんだ。僕はいつ下川原と話そうかな」
「早い方がいいよ」
「だよねぇ.。僕も今日か明日訊いてみるかな」
愛理は頷いた。
「昼休みまだ残っているから3組に行って下川原に会って来る。多分いると思うんだ」
「行動早いね」
僕はそう言われ嬉しくなった。
「ありがとう。行って来る」
「結果聞かせてね」
「わかった」
言った後、僕は教室を出た。3組に向かい、教室の中を覗き見た。窓側の一番前の席に独りで座って俯いている。彼は友達がないのだろうか。僕は入って行き、下川原君の元に向かった。周りは数名の男子と女子がトランプをしているのが見えた。僕は彼に声を掛けた。
「下川原君」
彼はゆっくりとこちらを見た。
「君は……?」
「僕は2組の外川秀一っていうんだ。君に訊きたいことがあって来た」
下川原君の表情は目が虚ろで決して明るいとは言えない。やはり、いじめが原因か。
「何だろう……? 答えられる範囲でなら」
「下川原君、いじめ受けてない?」
彼は僕から目線をずらした。
「僕、見ちゃったんだ。上級生にカツアゲされてるところを」
下川原君はその場で固まっている。僕は嘘は言ってないから当然だろう。
「……それがどうかした?」
「2組に僕の親友がいて、君のことを話したんだ。そしたら助けようって話になってね」
「いや、気持ちはありがたいけど大丈夫だよ。あの時だけだから……」
僕は咄嗟に思った嘘をついているんじゃないかと。
「本当にあの時だけ? 前にもあったんじゃないの?」
彼は黙った。なぜ、黙るのか。きっと、本当は以前にもあったのだろう。でも、どうして嘘をつくのか。
「外川君には関係ないだろ」
「そんなことはないさ。だって、同じ同級生で仲間じゃないか」
下川原君は笑っている。
「仲間? 笑わせないでくれよ」
僕はそれを聞いてムッとした。何ていうことを言うんだ。
「どういう意味?」
あえて質問してみた。
「仲間なんて上辺だけだろ。信用できないから」
呆れた。
「そんなこと言ってたら友達なんかできないよ」
「いなくていいんだ」
「それで学校生活楽しい?」
下川原君はまた黙った。都合が悪くなると黙る。彼の悪い癖だ。認めたり謝ることをしない。
「学校なんか単位とるために来てるだけだ」
「でも、この先もいじめ続けられるのは嫌だろ?」
僕は諭すように言った。
「それは……まあ、そうだけど。でも、仕方ないよ」
「どうして仕方ないの?」
壁掛け時計を見るともう少しで昼休みが終わる。
「奴らはボクの親がお金持っていること知ってるからさ」
「だからって、下川原君をカツアゲしていいってことないだろ?」
その時、予鈴が鳴った。
「またくるからね」
彼は黙っていた。まるで地蔵のようだと思った。ムッとした表情で。

 僕はとりあえず時間なので自分の教室に戻った。あと五分くらいで授業が始まる。その前に愛理の席に行きチラッと話をした。
「下川原君、なかなか僕の話に応じてくれない」
「そうかぁ。難しいね」
うん、と頷いてから僕は自分の席へと戻った。

 五時限目が終わりの休憩時間は十五分ある。今は時間が無いと思ったので二組へ行こうとはしなかった。すると、愛理がやって来た。
「さっきの話だけど、話しの流れを聞いてる限り今日は先生にチクらない」
「その方がいいね」
愛理は頷きながら、
「じゃあ、私授業の支度するからまたね」
僕は、愛理をフッてから彼女が少しよそよそしくなった気がするのは気のせいだろうか。もし、そうだとしても仕方がない。

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