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【短編小説】明るい未来にするために
あたしは今日神社に行った。ある人が死ぬように。あんな別れかた、最悪。
彼の部屋に行ってみると女の喘ぎ声が聞こえてきた。え、まさか、そんなわけない。でも、あたしの願いは届かなかった。玄関から入り、声のする寝室に行ってドアを開けてみると彼はあたしの友だちを抱いていた。しかも裸で。
あたしは頭に血が昇ったのと同時に、友だちの留美子を睨んだ。彼も親友だと思っていた有理香もひどすぎる。あたしを裏切った。
あたしは部屋を飛び出し、号泣した。ヒックヒックと嗚咽を漏らしながらあてもなく走った。しばらく走って公園についた。そこにはカップルや子どもを連れた夫婦は幸せそうに休んでいた。
あたしはなるべく人目のつかないような場所のベンチに座りスマートフォンを眺めていた。すると電話がかかってきた。彼からだ。彼の名前は 桜井純という。いつもあたしは純と呼んでいた。あたしより二つ年上の二十七歳。付き合って三年になる。
純はいいわけをしたいのか、なかなか電話を切ろうとはしない。あたしも今は彼とは話したくない。頭を冷やして欲しい。なぜ、あたしの親友の 留美子を抱いたのか。
彼女も彼女だ。なぜ、彼を受け入れた? あたしの彼氏だって知っているのに。誘われても拒否して欲しかった。留美子は純のことをどう思っているのだろう。もし、恋愛感情があるなら、あたしは引き下がる。浮気をした彼や友だちとはこれ以上付き合いきれない。
あたしはだんだん純や留美子が憎くなってきた。殺すのはあたしが罪人になるからしないけれど、自殺か病死してほしい。せめてもの罪滅ぼしに。
あたしの名前は浅田さくら。二十五歳。自分のことは不細工だと思っている。でも、何故か町で男性に声を掛けられる。
どうせヤりたいだけだと思うけれど。確かに胸は大きいしウエストも引き締まっていて自分でもスタイルは良いと思う。この体を狙って男どもは寄ってくるのか。いやらしい。
あたしは性行為はあまり好きじゃない。相手が好きな人なら我慢は出来るが、そうじゃなかったら無理。
それでも子どもは欲しい。旦那はいらないけれど。三十歳くらいまでにいい人見つけて子どもを作って、ある程度成長したらあたしが働いて子どもと二人で生活する。旦那とは別れて。
楽しいだろうなあ。子どもと二人だけの生活。
今の彼氏とは別れる。留美子とも友だちの縁を切る。二人とも信用出来ない。折角出来た彼氏と信用していた友人に裏切られてあたしの心はズタズタに引き裂かれた。
それからのあたしは、悲しみに暮れた。仕事も行けなくなってしまった。女性の上司から心配のメールが届いた。
〈最近休みがちね、何かあったの?〉
あたしは正直に打ち明けた。他に相談出来る相手もいないし。すると上司は、〈それは酷いめにあったわね。彼氏と別れるのと友だちと縁を切るのも貴方のしようとしていることは間違いじゃないと思うわ〉
〈ですよねえ……〉
あたしは自宅で独りまた涙を流していた。
〈でも、厳しい事を言うようだけど、公私混同しちゃだめよ。仕事は仕事、
プライベートはプライベートよ〉
あたしはそれには返事はできなかった。あまりにも厳しすぎる言葉だから。
公私混同。やっぱ駄目だよな。でも、ちょっとくらい公私混同したっていいじゃないとあたしは思った。どうせバイトなんだし。まあ、でも、いずれは正社員にならないか? と上司から言われていて、あたしも慣れた仕事だから正社員になってもいいかな、なんて軽い気持ちでいる。
でも、今は……今は仕事が出来る精神状態じゃない。そこは分かって欲しい。中年の女性上司に分かって貰えるかな。気持ちはグチャグチャ。仕事に友達に彼氏に……どれも上手くいってない。あたしの目にはまた涙が溢れてきた。
もう……いや! 思い出したくない! あんな光景! 彼氏と友だちにメールで別れを告げよう。まずは彼氏から。
〈あんな光景見せられて交際を続けるのは無理。だから、別れよう。さようなら〉
友人にもメールを送った。
〈あなたとは一生の友だちかと思っていたけれど、あたしの彼氏を寝とるとは思わなかった。金輪際、連絡してこないで。それと、あたしの前には二度と顔を見せないで! あなたとは友だちの縁を切る!〉
そんなメールを二通送った途端に涙が溢れてきた。本当は……本当は二人とは交流を続けたい……。でも、こんな事になってしまった以上、付き合いは出来ない。
……裏切られたから。
親友とは言えないけど、仲の良い男の呑み仲間がいる。
名前は、安西輝彦といい、職業はとび職。気性は荒く、口が悪い。過去に酔った勢いで抱かれたことがある。その一度だけだが。
輝彦に愚痴って慰めて貰おう。だからと言って抱かれるのが目的ではない。
話を聞いて貰いたいだけ。お酒を呑みながら。なので、メールを送った。
〈今度、久しぶりに会わない? 聞いて欲しい事があるの〉
すると快く受け入れてくれた。
〈おお、良いぞ。いつにする?〉
〈行動が早いね。さすが輝彦。あたしは今週なら土日が空いてるよー〉
〈そうか、おれは日曜日が休みだ。日曜日にするか?〉
〈そうね、現地集合にする?〉
〈迎えに来いよ。話し聞いてやるんだからよ!〉
相変わらず口調が荒いなあと思った。ちょっと怖い。
〈分かったわよ。もっと優しい言い方してよ〉
そして上司にも言われているし、悲しい気持ちはまだ消えてないけれど無理矢理出勤した。
勤務中は本当に辛くて、何度も早退しようと思った。でも、結局は最後まで我慢して働いた。
明日は土曜日。あたしは明日と明後日が休み。日曜日は輝彦と会うからいいけれど、明日が暇。何しよう。
図書館にでも行って来ようかな。旅行雑誌とかを見に行こう。たまに旅行をするのも悪くない。図書館は朝九時から、夕方六時まで開館している。図書館のレンタルカードはあったかな。財布の中を見てみた。ない。もう一つの財布を引き出しから出して見てみた。「あ、あった!」カードには浅田さくら、と書かれている。
着替えてから行こう。この前買ったピンクのセーターに黒いミニスカート、ベージュのブーツを履いて歩いて行った。あたしのアパートからそんなに遠くない。
何冊か借りるのに、ピンクのトートバッグを持って行く。家の鍵と財布とスマートフォンを持ってそれらをピンクのポーチに入れて部屋を出た。部屋の鍵をかった後、歩き出した。外は少し寒いくらいだ。ミニスカートだから太腿が冷たい。とりあえずあたしは歩いた。十五分くらい歩いただろうか。着いた。去年建て替えられたばかりの図書館。かなり大きい。壁はグレーで駐車場も広く、二十台くらいは停められるかもしれない。入り口は階段とスロープになっている。
初めて館内に入った。右に行けば図書館があり、左に行くと博物館があるようだ。案内板に書いてあった。
図書館で本をゆっくり探すのは後にして、まずは博物館を見に行く事にした。無料で見られるようだ。動物のはく製や、原始人の生活を載せた模型が置かれていた。小学生の頃、見学旅行で地方の博物館を見に行った記憶がある。あの時は子どもでまだ見た事が無い事が多かったから大いに驚いた。
そんな思い出があることを思い出した。それと共に懐かしさを覚えた。何だか胸が熱くなった。
小学校四年生の頃、あたしは同じクラスの男子を好きになった。初恋というやつ。体育や、それ以外の教科の成績も良かった。だから、クラスの中では人気者だった。
そんな人気者の彼が体育の時間にフォークダンスを一緒に踊った。心臓の鼓動が高まった。嬉しくもあった。
でも、彼は登校中に横断歩道を青で渡っていた。そこに、赤で進入して来た大型トラックにひかれて即死した。あたしは学校に着いてからそのことを知った。
あたしは物凄い衝撃を受けた。悲しみも一気に押し寄せ、涙が滝のように流れた。その場であたしは大声を上げて泣き出した。担任の先生がやって来て、保健室へと連れて行かれた。
保健室の女性の先生は話を聞いてくれ、
「ベッドに横になって、一眠りしてから教室へ行きなさい」と言った。
あたしはその通りにした。
眠りから覚めた後は、気持ちが少し晴れていた。そして保健室の先生に、
教室に戻る事を伝えて保健室を出た。
そんな事を思い出しながら、あたしは図書館の方に来ていた。入って右手に雑誌類が並べてあった。旅行の本もあった。それらを暇つぶしにペラペラとめくって見ていた。
北海道旅行の雑誌や沖縄県の観光スポット等が載った雑誌を見ていた。興味を惹かれる。行ってみたい所が沢山ある。
あたしは北海道で生まれ育ち、今でも北海道に住んでいるが、行ったことのない所が沢山ある。友達を誘って行こうかな。女子の友達が良いと思った。スマートフォンの電話帳を見た。幼馴染の 平山景子を誘ってみよう。彼女は北海道警察で警官。背は人並みで鍛えているので、筋肉質。柔道や剣道を得意とする。綺麗な顔立ちをしているが、沈着冷静であまり笑わない。さすが警官だけのことはあって正義感は強いと思う。以前、あたしが男子に苛められているところを助けてくれた事がある。当時は中学一年生だった。
北海道の旅行雑誌を見ていると、美瑛町の「青い池」というのが載っていて興味をひいた。ここに行きたい! と思った。来月辺り景子と都合が合えば行きたい。
今は午後三時前。彼女にメールを送る事にした。
〈こんにちは。景子、久しぶり。来月って暇な日ある?〉
彼女は今日仕事だろうか、それとも休みかな?
〈こんにちは。久しぶりだね。夜勤だったから今は休んでいたよ。来月? 来月の何日?〉
来月かぁ、そういえば来月のシフトはまだできてないなぁ。希望休はまだとれる。なので、
〈景子の休みに合わせるよ。美瑛町の「青い池」見に行かない?〉
〈青い池! 気になってたんだー。行こう! 十五日までに希望休出せるから決まったら教えるよ〉
〈わかった。因みにあたしは二十日までに来月の希望休出せばいいから間に合うね〉
楽しみだー! 十一月だから寒いかもしれないな。防寒して行こう。
住所をスマートフォンのメモに書いておこう。きっと、あたしの車で行くと思うから。カーナビに住所を登録して行かないと、道が分からない。
明日は安西輝彦と会う約束をしている。多分、あたしの愚痴で話しは終わると思う。
翌日。あたしは輝彦にメールを送った。
〈何時頃から会う?〉
暫くメールは来ない。一時間くらい経過してからメールが来た。見てみると、輝彦からだった。
〈いつでもいいぞ。今からでもいいし〉
〈今からはちょっと……。何も用意していないし〉
今の時刻は午後一時半頃。
〈じゃあ、三時は?〉
〈そんなに時間かかるのか!〉
〈かかるよ! あたしだって一応女なんだから!〉
〈全く! しゃーねえなあ〉
〈用意出来たらメールするから〉
〈電話でいいぞ。ちまちまメールするの面倒くさい〉
〈わかった〉
あたしはシャワーを浴びて、その後着替えて、歯を磨き、メイクをして完成。
時刻は、十四時半頃。予定より早く支度が出来た。あたしは輝彦に電話をした。数回呼び出し音がなり繋がった。
「もしもし、輝彦? 今から行くよ」
『ああ。早く来てくれ。寝そうだ』
「寝ないで待っていてよ」
『ああ! 良いから早く来い!』
「はいはい」
そう言ってあたしは家を出た。彼が寝てしまっては困ると思って、急いで向かった。だが、急がば回れ、と昔の人は言ったものだ。角を曲がる時、ハンドルを切るのが早すぎて電信柱に車をぶつけてしまった。
「ヤバイ! やっちゃった!」
勢い余って電柱を倒してしまった。
あわわわ……。どうしよう……!
まずは輝彦に電話をかけた。
『もしもし! どうしたんだ? 早く来い!』
「事故っちゃった、どうしよう……」
『はあ? マジか、お前! どんな状況だよ?』
「電信柱倒しちゃった……」
『あっははは! 何やってんだよ。警察呼べ、まずは』
「嫌だ、周りに誰もいないから逃げる」
『おお、そうしろ!』
そう言って電話を切った。
今日はお父さんが休みで家にいるから相談してみよう。
破損した車で自宅まで走った。
家に着くと外にお父さんがいた。
家の前に壊れた車を停めた。外にお父さんがいた。
「おお、さくら」
「お父さん、車ぶつけちゃった、どうしよう……」
「何? どこにぶつけたんだ?」
「電柱にぶつけて倒しちゃった」
「え! そりゃやばい! すぐに警察に言わないと」
「やっぱり、警察に言わなきゃ駄目? あたし捕まりたくないよ」
あたしは泣きそうになった。
「まずは逃げるのはまずいからお父さんが電話してやるよ」
「うん! お願い」
お父さんは質問してきた。
「どこの電柱だよ?」
「そこの道路を曲がった所」
「あ! ホントだ。ここからでも見える」
お父さんは優しいから怒らないので好き。
でも、お母さんはすぐ怒る。嫌いではないけれど、好きでもない。ヒステリーでも起こしているんじゃないかと思うくらい。どちらにしろ今まで育ててくれたのは間違いないから感謝はしている。
事故った事がお母さんの耳に入ったようで、凄い剣幕で玄関に来た。開口一番、
お母さんは、
「さくら! あんた、何やってるの! 電柱を直すのにいくらかかると思ってるの!」
あたしは頭ごなしに言って来るお母さんに腹が立ち言い返した。
「お母さんに払ってって言ってないじゃん!」
「何言ってるの! 払うお金もないくせに!」
「分割なら払えるもん!」
「好きなようにしなさい! 後から泣きついて来ても知らないからね!」
「お母さんの世話にはなりませんー!」
そこにお父さんが介入してきた。
「おいおい、お前たち。喧嘩はやめろよ。さくらもあんまりお母さんに立てつくな。お母さんも頭ごなしに言うこともないだろ。お互い様なんだから」
お母さんはお父さんを睨みつけた、そして、こう言った。
「お互い様ってことないじゃない! 悪いのは事故ったさくらなんだから」
お父さんも負けじと言い返した。
「確かにそうだけど、お母さんの言い方の問題だ。もっと優しい言葉で言えないのか!」
お母さんは黙った。
さすがお父さん。お母さんを黙らせた。
「さくらはまず、警察を呼ぶんだ。話はそれからだ」
「わかった。一一〇番でいいの?」
「ああ。それでいいと思う」
あたしはすぐにかけた。
電話をし終わってお父さんに報告をした。
「今、この町の警察が来るって」
「そうか。じゃあ、現場で警察が来るのを待っていなさい」
「うん、わかった。車は置いて行くね」
そう言ってあたしは徒歩で現場に向かった。
歩いて数分で着いた。それから数分でパトカーが来た。警察官は二人乗っていた。
三十分くらいで現場の処理を終えた。コンクリートの電信柱なので八万円、設置に約三十万かかるらしい。電力会社にも連絡しないといけない。
「あー……。面倒くさい。もっと、慎重に運転すれば良かった。失敗した……」
もう輝彦に愚痴を言う気もなくなった。
四十万近くの貯金なんかない。なのでクレジット会社から借りる事にした。高い金利で。でも、仕方ない。自分で仕出かした事だから。お母さんにもデカイ口叩いちゃったし。
頑張って働いて借金返さなくちゃ。それと、平山景子に伝えないといけない事がある。それは、車を買うまで美瑛町の『青い池』には行けないこと。はー、ホントあたしってドジなんだから。早速、メールを送ろう。
〈景子、謝らないといけないことがあるの。それはね、事故って車乗れなくなったから新しい車買うまで行けない。ほんとごめんね〉
夜になり、メールが来た。景子からだ。本文を開いた。
〈え! 怪我しなかった? 大丈夫? 青い池はいつでもいいよ〉
相変わらず優しい言葉を掛けてくれる景子。嬉しい。そんな彼女があたしは人として好き。恋愛感情ではなく。すぐにメールを送った。
〈怪我はしてないよ。電柱倒しちゃった。その弁償をしないといけない〉
〈え! そうなんだ……。電柱高いでしょ? うちのお母さんも前に前方不注意で電柱倒しちゃって、何十万もしたって聞いたことあるからさ〉
あたしは支払額を教えるかどうか迷った。
そして結局。金額は教えなかった。景子のお母さんから訊けば分かるだろうし。
これからは、もっと慎重に行動して、頑張って借金を返していこうと思う。明るい未来にするために。
終
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