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兄弟杯オータムハンデキャップ #兄弟杯AH

カクヨム競馬場、天候は晴れ。
馬場状態は芝ダートともに良の発表となっております。

本日のメインレースは〝兄弟杯オータムハンデキャップ〟
兄弟杯の部分はケイテイハイと読んでください。

今回はカクヨムWeb小説短編賞の開催期間と被せたので、短編賞の規定に合わせての400から10000文字以内としました。

『兄弟は左右の手なり』

『魏志』王脩伝

前回自分が主催した自主企画の『第二回アキノテンノウショウ(偽)』に続いて、今回も『(原則は)カクヨムに掲載している作品の番外編(スピンオフ、本編のifもしくは続編)』の新作(2023/12/1以降にカクヨムで公開されたもの)という条件としました。理由としては主催の自分が自作品の番外編を書くのが好きだからです。

テーマは兄弟ケイテイ杯に因んで「麗しき兄弟愛」としました。

自由な発想とシチュエーションで「自分の考える最高の〝兄弟愛〟」を描いた珠玉の10作品が揃っています。
みなさまご参加ありがとうございます! 𝑩𝑰𝑮𝑳𝑶𝑽𝑬

また、アキテン(偽)との相違点として

闇のbotさん

高砂さん

俗に〝18年帝大〟などと称される旧帝大の中でもランクの低い文学部で言語学(環ユーラシア大陸)を専攻し、現代で言うところの大規模言語モデルの礎を研究の後、エンジニアに転向。旧態依然としたメインフレームやDOSクライアント機などからスーパーコンピュータや中央集中管理のできるシンクライアントなどへの置換を得意とし、これらの功績からシンガポール共和国栄誉市民、朝鮮民主主義人民共和国革命闘士などの一般に役に立たない称号を持つが本当に役に立ったことがない。世界130カ国程度の訪問歴を持つ。2Dイラストを自然な3Dトゥーンアニメーションに見せかける基礎技術の研究開発や音響技術に関するエンジニアリングに携わった後、2mスパンからの墜落事故により腰骨を4本骨折し神経を損傷したことから車椅子生活になった。趣味では変わったガジェット類や機械式腕時計を愛し、イラストを描く。主な著作に『MobileGear CompleteBook』(1998年・秀和システム)。なお、評者には姉弟のように育った幼馴染と弟のように可愛がってくれた先輩、兄のように慕ってくれた後輩はいますが、兄弟はいません。

高砂さんのプロフィール

のお二人からも感想をいただいております。
ご両名とも、お忙しい中ご協力ありがとうございました!

レギュレーションは以下の通り。

・関連する作品のURLを必ず紹介文に入れてください(複数作品の場合は特にイチオシのものを載せてください)。長編の場合は作者のお気に入りポイントを書いていただけると嬉しいです。関連作品は完結済、連載中を問いません。

・関連作品と同一世界観である必要はございません。異世界ファンタジーの学園パロディや現代日本設定でも構いませんが、同一人物であることがわかるように特徴を明記してください。

・二頭出し(※こちらの自主企画に二作品で参加すること)はおやめください。

・新作のみを受け付けます。公開日が12月1日以前の作品は「出走条件を無視している」として競走除外(=主催権限で削除)いたします。ご了承ください。

・フルゲートの16作品が集まった段階で早期締切の可能性がございます。ご投票はおはやめに。

・レギュレーション厳守です。企画に追加されてから24時間以内に紹介文へ関連作品が記入されていなかった場合も競走除外させていただきます。

・下部にテンプレートを用意してあります。こちらに沿って入力していただけると嬉しいです。

・完結済になったものから受付完了といたします。受け付けたものは秋乃晃が作品フォローしにうかがいます。

自主企画の概要欄より

自主企画ページはこちらになります。


さて、本題に入っていきましょう。


兄弟杯オータムハンディキャップ

アキテン(偽)系の自主企画では参加順ではなく、毎回枠順抽選を行い、内枠(1枠1番)から紹介しています。


・1枠1番 scute

抽選の結果、一番打者はフカさんになりました。

フカさんはpatriotでの『俺』を今作でも視点人物に据えて、マダラとワニの兄貴(!?)の短編を書いてくださいました。patriotは『俺』の父親が亡くなり、その『俺』とマダラと周辺人物の人生が大きく変わっていく物語となっておりますが、scuteはその物語が始まるだいぶ前の『俺』が九歳だった頃、マダラと出会った時のエピソード。長編の過去編、好き。

マダラは本当にいいやつなんだけども、仕事が出来すぎてしまってちょっぴり劣等感を抱いている『俺』がいいキャラをしている。ワニの兄貴が一体どういう意味合いなのかは本作を読んでいただくことにして、自分は

> ヒトの記憶や魂は

のくだりが好きですね。諸行無常。結局みんないなくなってしまうのは、patriotの本編とも通じてくる一節。終盤に、

> 兄弟じゃなくて、別のものがやりたい、と思った。

と『俺』がひとりごちているのも味わい深い。兄弟として連れて来られたマダラと『俺』との関係性が『俺』の中で変化しつつある過程で、一頭の鰐が素知らぬ顔をしている……。(秋乃晃)

フカさんの作品です。本編は『patriot』です。兄弟杯大賞です。これは噓です。こういう企画でこういう話を読めて嬉しいという気持ちがあり、奥歯を砕けそうなほど噛みしめています。冗談ですよ?

 マダラの名前の由来が初めて判明するんですが、その由来が『俺』(視点人物)の下にくるときに見たアニメのキャラが由来なんですよね。こういう馬鹿馬鹿しい軽薄な空気と暴力と死の臭いが隣り合わせになっている小説良いですよね。

 あとマダラ兄を食べたワニを兄として扱うところもけっこう良いですよね。考え方が独特で。(闇のbot)

ワニと人間の、夢うつつに観るような不思議なお話。途中、4年の空白があくが同じようなことが繰り返されていたのだろうと想像できる。食物連鎖を連想させる話や4年の空白の間に現世から消えていった人物がおり、うっすらと輪廻転生のことが思い起こされる。魂の救済という意味では、これは救済になるのだろう。一方で、救済されなかった人たちが多数いることも想像できる内容で、彼らの話に関しては相当薄い。銃殺や虐殺されるよりも重い原罪とはなんだったのか、もう少し深掘りがほしかったところではある。文体としては一定しており、主人公の心情が大きく揺れ動く場面が1シーンあるが、ここでも一定している。〝兄〟の心情の動揺表現として、乱れ動く感情を表す文章表現が見られると、もっとこの物語の世界観に引き込まれるのではないかと思った。(高砂)

・2枠2番 最後の夏に見えた夢

こむらさきさんからは不死身でイケメンな魔法使いのカティーアさんとめちゃくちゃかわいい不遇少女のジュジちゃんが旅をしていくザ・現地主人公モノ異世界ファンタジーな『不死の呪いと魔法使い』のChapter3に登場するジェミトさんの過去編が提出されました。不死魔はいいぞ。

途中からでも読めます、とアナウンスなされていますが個人的にはカティーアさんとジュジちゃんの二人の仲が単なる師弟関係から恋愛関係に発展していくこのプロセスが好きなので、できればChapter1から物語を追ってほしいなー! もっと読まれてくれー! と思っています。

村の跡取りとして選ばれているけども……弟のほうが俺より優れているし……チラッチラッな兄のディレットさんが主人公。ヤバい女さんのカンターレに溺れていく様子がえっち。物語の結末部分には触れないようにしたいので直接は触れないのですが、自業自得とするには悲しすぎるオチでしたね。これもこれでまた新たな味わいとして本編に遅効性の毒のように効いてくるわけですねわかります。本編への引きが上手い。

ヤフタレクからしてみたら助けてくれって言われても「いや、知らん」という感じではありそうなんですが、ヤフタレク的にはどう? ヤフタレクもおもしれー女さんにズブズブ沈んでったタイプな気がするけど、どう? とツイートしていたらこむらさきさんがしんどみの増す魔の三角関係のイラストを投下していました。ヤフタレクおまえ……。罪なやつだなあ!(秋乃晃)

これはですね。数々の川系講評付き自主企画の主催者であるこむらさきさんの小説です。これも本編は未読だったのですが、楽しく拝読させて頂きました。歴戦の文章力を感じて自分の中でも高評価です。大賞候補ですね。

 弟に報われて欲しいと自分が得るはずだったものを譲った兄が同じ女(妖精)と付き合ったりします。穴兄弟ですね。

 異界に連れていくのは俺にしてくれと言う兄、麗しい兄弟愛ですね。このあと致命傷を負いますが兄の方はどうなるのか(本編に続く)

 自分としてはこういうファムファタル的女性キャラ好きなので、かなり面白い小説だと思います。あと定命の人間が用意した罠でも鉄だからカンターレに効くとかもファンタジー的なロジックで良かったです。あと神獣ヤフタレクが凄い話の通じる人外で面白かったですね。こういうタイプの人外でここまで融通が効くことあるんだと思いました。(闇のbot)

最後の夏にたどり着くまで、どれほどの時間があったのかもわからない。しかし、運命は最初の段階で決まっていて、最後だけ選択を大きく誤ったということなのだろう。主人公たちの暮らす村は狼の化身に護られており、人を惑わす妖精という存在もいる。兄は譲らなくてよかったものを弟へ譲り、譲った後でそのことを悟る。人ならざるものと一線を越えてはならないという村の禁忌も破り、弟もそれを破っていたことを後で知る。兄は冗談めかして言ったことを本当に食らって見事〝死亡フラグ〟を回収するが、この回収だけ少々急いてしまった感はあった。全般的に言えるのは兄が全面的に悪いわけではないということである。弟の行動はおそらく村の長となる兄の負担を減らすためのことであったし、兄はそれを単に弟が優秀であると取り違えてしまった。そういう点では悲しい事故でもある。妖精は人を惑わせ、最後に自らの業を追うことになる。弟がどう生きていくのかというその後の本筋は、本編を参照したい。(高砂)

・3枠3番 汀に遺せしもの

※ごもじもじさんのお子さんによる『汀に遺せしもの』のファンアートです。七枚のイラストで、本編の内容が描かれています。力作!

ごもじもじさんからは『汀に遺せしもの』という昔々の物語を書いていただけました。ごもじもじさんは生物学に明るい方なので、その知識を作品に活かしていくと唯一無二な素晴らしい作品が出来上がるのではないかと期待しています。本作品の関連作品ではないのですが『黄昏の子ら』が個人的には好きです。ポストアポカリプス的な雰囲気もあってよい作品になっているので、そちらもご一読ください。

『水底に棲まうもの』は兄弟の仲を引き裂く美しい人魚の物語でしたが、今回の『汀に遺せしもの』は過去編。兄のことが大好きな弟と幼い弟のことを気にかけている兄。弟のことは兄が迎えに来てくれたけど、兄は……。この二作品、どちらかだけでも大変よく出来ているのですが、両方読むとより深みが増すので、できれば両方読んでいただきたいところですね。時系列としては『汀に遺せしもの』から『水底に棲まうもの』になるわけですが〝汀=波打ち際〟から〝水底〟に、生きている人間の居場所から人間でないものの居場所へと移動しているこのタイトル。ワザマエですね。

兄弟愛とは関係のない部分ですが、龍の描写がめちゃくちゃよかったです。実在しない生き物をあたかも実在しているかのように描写するためには、やはり現実に存在するものの質感や前提となってくる汎用的な知識が試される箇所だと思うので。これからも不定期でいいので小説を書いてほしいです!(秋乃晃)

 『黄昏の子ら』というSF短編小説が印象的なごもじもじ/呉文子さんの小説です。これは本当に弟が湖まで遠出して兄が迎えに来てくれるというだけの話なんですが凄い良いんですよ。『水底に棲まうもの』と絡めて話すことになるんですが、これだけ弟や父に対して献身的な兄が……というところが良いんですよ。これ単独の評価ではないですね。

『水底に棲まうもの』で描写されたように兄は献身的な側面があり、それが身内を対象としているか女を対象としているかなんですよね。女と出会って優先順位が変わってしまったというか。これは『最後の夏に見えた夢』でも書いたんですけど、ファムファタル的女性キャラに自分弱いんですよね。恐らく。あと個人的に気になっているんですが『水底に棲まうもの』で兄が豹変した責任って女にあるんですかね?これは弟からはそう見えるということだと思うんですけど(自分の読みに自信がない)

 兄弟杯のテーマは麗しき兄弟愛なんですけど、別にそれが本編でも現在進行形である必要なんてないですからね。これは『トロワゼトワル』にも通じる話ですが。(闇のbot)

他愛のない子供の行動、と言ってしまえばそれだけの話である。だが、冒険譚や伝説の生き物にワクワクした経験はどんな男子にもきっとあるものであろう。兄が言った、雷を標しに天へ昇った龍の遺した伝説の湖は、現実にはあまりにみすぼらしい水たまりであった。雨が降れば水が溜まるような溜め池が山をひとつ越えたら大きな湖だと言い伝えられているようなことは、大昔にはきっとたくさんあったのだろうと想像できる。近所の子供たちが鬼ごっこに興じる程度だというサイズ感がより、この物語のリアリティを深くしている。龍の痕跡を探しに行こうと決意したときにはすでに最初の雷への恐怖など忘れているし、帰りにはもう龍の爪も髭も鱗のことも何もかも頭から消えているところも、子供の心理描写として非常によいと思う。夜も興じて心配した兄が迎えに来て何も言わないところなど、シンプルながら非常によく兄弟愛というテーマに沿っていて読了感があった作品である。(高砂)

・4枠4番 柳生十兵衛を待ちながら

筆開紙閉さんは人外の一族と成り果ててしまった柳生一族の物語の一端であるところの『柳生十兵衛を待ちながら』で参加していただけました。敬愛する兄上の影として生きる弟。しかし兄弟には末の妹さんもいらっしゃったのです。なんということでしょう。柳生一族の物語の中でも今作品はビギニングといいますか、物語の発端の部分が描かれているのが興味深いですね。ちなみに自分は日本史に明るくないので実在の柳生一族がどのような偉業を成し遂げたのかは存じ上げません。とはいえ歴史とは勝者が作るものであり、歴史書に載っていない事件や小競り合いは数多あったでしょうし、ひょっとしたら柳生一族がこの日本列島を統一していた時期があったやもしれない。柳生朝大日本帝国、めっちゃかっこいい。

終始シリアスな中にも「こうはならんやろ」のニュアンスとカッコイイバトルを混ぜ込みながら独自の世界観で進んでいった『柳生十兵衛を待ちながら』ですが、関連作品な『柳生十兵衛は二度死ぬ』では初っ端から超々巨大複合商業施設『日本』という胡乱なものが登場します。そういえばこちらはショッピングモール伝奇企画の作品でもありましたね。こっちになると柳生一族の野望はさらなる加速を見せていて、柳生電光騎士やらホームズやらが出てきます。まるで某ソシャゲのようなお祭りっぷりです。ブリテン柳生やソビエト柳生といった独自のワードも詰め込まれています。そんな中でも十兵衛さんはハワイで浮かれて買ったアロハシャツがお召し物なのが素敵。

楽に死なせてやるのも愛の形であり、十兵衛さんのために最期まで、死んでからも力となるのがこれもまた愛。影として生きる男の武士道を見せていただきました。(秋乃晃)

 自分からは特にありません。
 強いて言えば死体を甦らせてもう一度殺すような姿勢は好ましくありません。(闇のbot)

江戸期から明治期における架空の歴史物であるが、それだけに人物像ひとりひとりに重みがある。父の暴虐によって殺害された兄の復活のため、挺身する弟の物語である。世間として見て悪性である柳生の血において、兄である十兵衛には一定の善性があった。だからこそ十兵衛の復活を待ちながら物語は進んでゆく。兄の影として育てられた弟は、妻子を殺し仏門に入るなど一見すれば滅茶苦茶な行動をしているが、すべて兄のためにやっていることである。まるで自害するかのように切り捨てられた弟には、兄の足りない体のパーツとなる覚悟があり、そのつても作っている。そうして復活した兄・十兵衛がその後どのような圧政を強いていくのかは本作では語られないが、圧倒的な力を得た柳生一族の手腕に関しては想像が尽きない。メートル法での表記や西暦換算での表現など時代設定的には若干不自然な部分があるが、里厘や太陰暦で表記した場合の注釈を考えるとこのほうが合理的なのかもしれない。(高砂)

・5枠5番 兄の発熱

一番槍として出走登録していただき誠にありがとうございました。嬉しい嬉しい。惣山紗樹さんからは共依存な兄弟愛『兄の発熱』を応募していただいております。ブロマンスではなく、はっきりとBLとあるのでボーイズなラブですね。兄弟愛の企画を立てておきながらブロマンスとBLの違いがよくわかっていないのですが、肉体関係があるのがBLという解釈でいかせていただきます(間違っていたらすいません)。

こちらの兄の伊織と弟の瞬は紹介文に書かれている苗字が違うので、本編を読む前から「おや?」とは思っていたのですが、一行目からこの兄弟が異母兄弟であると明記されています。親切仕様で助かります。

とはいえ、この短編だけだとどうしても兄が悪いやつに見えてしまって、どうして弟がこの兄の世話を焼いているのかの共感ができなかったのですが、きっと二人にはこういう関係性が構築されるまでの一言ではまとめられない深い物語があるはずです。弟には兄を突き放せない事情があるはずなんや……。その深い物語であるところの関連作品の『血の鏡』ですが、カクヨムでは警告を受けてしまって削除されてしまっているそうなので、教えていただいたアルファポリス版のリンクを貼ります。

リンク先、バッチリR18なので、18才以上の方だけお読みください。
カクヨムで生き残っている改訂版の『血の鏡』はカクヨムコン9のホラー部門に参加なされているので『兄の発熱』が刺さった方は読みに行きましょう。自分もじっくり読ませていただきます!(秋乃晃)

「麗しき兄弟愛」というテーマの本企画で、一発目は直球の兄弟BLでした。

 腹違いの兄弟の兄が発熱して弱るというファンディスク的な内容ですね。

 我儘な女キャラに振り回される的なもののBL版ってこうなるのかという学びがありました。自分はBLに詳しくないのですが、こういう我儘な兄の方が受けの方なんですね。あと兄弟の両方が喫煙者だとベランダでタバコ吸うというシチュエーションが出来て嬉しいですね。ここで言う嬉しいというのはキャラ設定によってシチュエーションの幅を広げられているという意味です。

 あまり本編の方は読めていないのでこうファンディスク的なキャラ同士の日常回から旨味を得られる段階に自分はないなと思いました。シリアスでソリッドな本編『血の鏡』との温度差があり、本編を追っている読者の方だと嬉しい内容だと思います。あと『血の鏡』、旧バージョンと新バージョンで兄と弟の初セックスの受け攻めが逆になるんですね。

 自分の中にBLを消化する酵素がほぼない関係で講評として適切な評価を下せているかは分かりませんが。(闇のbot)

異母兄弟の(非常に)ソフトなBLもの。風邪かインフルエンザにかかってしまった兄を看病する弟の献身的な描写が続くが、最後に弟へ病気が〝うつる〟(※原文では〝移る〟であるが、仮名書きか〝感染る〟という表記が本来であるとされる)のもお約束である。兄は3日で治ったのできっと単なる風邪だったのだろう。しかし、この兄、わがままな性格の上に病院も薬も嫌いである。体温も39度以上あったのだからきっと看病する側の弟としては大変だったのだろう。〝挿れるなら座薬のほうがいい〟という言葉がすぐに出てくる切れ者でもある。短いながらも兄弟の性格の差がよく描写されており、短編として非常によくまとまっていてBLと聞いて〝エッ〟となる層でもさらっと読み切れる作品であった。(高砂)

・6枠6番 ニコイチツインソウル!

クリザリド魔法学校ではお世話になっております。雨坂のいづさんからは『ニコイチツインソウル!』が出走登録です。こちらの『ニコイチツインソウル!』の『組織に所属する能力者のお仕事モノ』という点では自作品(※秋乃晃名義の作品)のパーフェクトシリーズと近しい雰囲気を感じていて、関連作品の『全世界記憶喪失』のほうはゆっくり読ませていただきたいと思っております。一人の人間に一つの固有の能力、いいですよね。

こちらの能力者は素質のある人間がアセンションすることによって覚醒することで生まれます。レストレーショナーという固有名詞がついております。能力者を能力者と言わずに作品特有の名称がついているの、めっちゃかっこいい。固有名詞があるとそれだけで世界観にグッと引き込まれる。多すぎると読者が置いてけぼりになってしまうので、その辺の匙加減が難しいんですが……。

魂の双子、いい言葉ですね。出会ったその日に意気投合して、それから世界のために戦っていく二人。大変良き。最強になっていきましょう。(秋乃晃)

クリザリド魔法学校企画という自作キャラ作成企画を主催されている雨坂のいづさんの小説です。クリザリド魔法学校は終了したのですがそのうち2も開催されるそうです。あとそのうちクリザリド魔法学校2のPicrewも公開されるみたいです。

 本編は現代異能もの長編『全世界記憶喪失』ですね。本編の主人公は凄い強力ですが運用の難しい能力者です。

 自分は正直BL消化酵素がないので、甘々なBLばかりが出走したらどうしようと思っていたのですが、爽やかな現代異能ものが出走登録されて良かったです。

 本編はあまり読めてないのですが、兄弟杯出走の本作はやり取りが恋愛的な距離感じゃなくて自分的には読みやすかったです。バトル展開にも尺取っていましたし、兄弟杯の中でも異色のような気がします。BLオンリーではないという兄弟杯の性格を示せたのではないかと思います。やっぱり超能力者も身体を鍛えませんと……

 そういえば作者のXアカウントに静の逆バニーイラストありましたね。(闇のbot)

異能力バトルものであるが、表向きはふつうの出版社・裏では異能力者の秘密結社という、二重生活となっているところは特徴的である。霊能力者めいた先輩に〝魂の双子〟(ツインソウル)と呼ばれる2人のお話である。主人公はバックアップ部隊のひとりであるが、エース部隊のひとりと組んで訓練をしており、〝似ている〟と評されるようになった。友人としても仲がよく、ふたりとも座標系の能力なので相性もよい。そんなふたりが社のトップサイキッカーである社長と練習試合をすることを持ちかけられるところから話が動き始める。様々な作戦を考案し練り上げたふたりと対峙した社長はやはり一段上手で、主人公たちは結果的に判定負けしてしまうのだが、その連携能力から〝俺たちこれからもっと強くなっていけるよな!〟という爽やか青春もの的な体で結末を迎える。〝ツインソウル〟である理由などは本文では明かされないのだが、相性の良さやバトルでの動きの良さの描写など爽快感があり、本編への誘導力が高いと感じた。(高砂)

・7枠7番 献杯

黒井咲夜さんからは『かみよも』の作者公認の過去編の『かみもよもきかず外伝 いまはむかし』こと『いまむか』の主人公の父世代にあったバトロワの話。木戸家は『かみよも』だと書道家としても活動している大学生の木戸清森さんから見ると祖父にあたる人たちの物語ですね。家督相続バトロワ。デスゲームなんてやらないほうがいいよ……殺し合いからは何も生まれないから……なんで戦わなくちゃいけないんですか!!!!!!!!!

『いまむか』が『かみよも』と同じ世界観で過去軸の物語なので、こちらのほうが世界観としては現代寄り。現代寄りだからってバトロワが許されるわけではないのですが〝強い血を後世に残す〟という意味では「最後まで立っていた人間の勝利」というバトロワ形式の跡目争いは理にかなっているのかもしれない。……本当にそう思いますか?

血生臭い戦いの中でしか生まれない兄弟愛がある。生き残ったからこそ、背負っていかないといけないものもある。そこまで気負わずに生きていける人もいるのかもしれないけど、やっぱり気になっちゃうよね。もし戦いがなければ他の人たちも生きていたかもしれないと思うとどうしても滅入ってしまう。でも言霊師のことだから生き残っていたとしても結局争いがあったかもしれない。複雑な気持ち。(秋乃晃)

本編は『かみよもきかず外伝 いまはむかし』ですね。自分は外伝もかみよも本編も読了済みですので、一切前提知識がない状態での評価ではないとご了承ください。

 木戸家という霊者の一族の跡目争いでバトルロワイヤルするという話でした。大河という凄い善人の兄が良い人間のままぶれずに死んでいくのが良かったですね。

 逆にあそこまでいくと好感が持てるというか牙竜も影響を受けていますし。

 本編帰読者としてはいまむか本編ではかつて木戸家でこういうことがあったと語られただけの事象を牙竜視点で読めて良かったという気持ちがあります。それと個人的な興味なのですが名無しって何者なんですか?自らが何者であるかそれを戦いでしか語らないと神の視点以外でそのキャラが如何なる存在かいまいち分からないというか。Xの方でキャラのことをポストしてくださると読者的には嬉しいところがあるので是非語って欲しいなと一人の読者的には思います。よろしくお願いいたします。(闇のbot)

異能を持った異母兄弟10人を集め、勝ったものに全財産を継がせるという父親によって兄弟間バトルロワイヤルさせられるお話。戦いたくないもの、戦わないものもいる中、戦況はどんどん悪化していく。主人公は遠く拠点から戦況を窺っていたが、あるとき何の異能も持たなかった〝おにいちゃん〟が情報屋的な人物を連れて現れる。機を窺い本家筋を攻めるが惨敗した主人公は〝おにいちゃん〟に本家筋へ付けと言い残して拠点を離れ、彼はその言いつけを守らなかった。主人公は本家筋にいないことに気付き、拠点へ戻るが〝おにいちゃん〟はすでに瀕死だった。背負って本家筋へ戻り、治してくれと懇願するも〝死者は生き返らせられない〟と言われ、父親を倒そうと持ちかけられる。父を倒した3人しか残らなかった兄妹はそれぞれの道へ進み、主人公は年に一度、神社で弔いのを傾けるのだった。全体として弔いの盃から始まる回想シーンとなっていて、生者死者の概念や主人公が神職になっているなど、日本の(吉田)神道に造詣があるとより物語を楽しめると感じる。物語が進むにつれタイトルの意味が伝わってくる、不思議な感覚を得る作品であった。(高砂)

・7枠8番 恋の季節

千桐加蓮さんからは『恋の季節』というストレートなタイトルの作品をいただきました。複雑な感情と三角関係が助走をつけてパワフルに殴り込んでくる作品です。関連作品の『恋して、愛しています』のその後の物語となるようで、登場人物の関係性を整理しながら読み解いていきました。恋愛感情、難しいぜ。

> 「好きに理由なんてありますか?」

あるんですかね……あったとしてもそれが正解なのか一生悩みそうではある。その場で用意した答えが必ずしも正解であるとは限らないし、恋は盲目とも言いますしね。人間が人間として生活していく中で、男女であろうと男男であろうと女女であろうと、恋愛感情が芽生える時が遅かれ早かれ来たり来なかったりするわけで、そこに理由を求めてしまいがちなのが人間だけども、正確な答えは本人の中にもないんじゃないかなと思ったり思わなかったりします。自分もそのうち恥じらいを捨てて恋愛小説と向き合ってみたいですね。(秋乃晃)

兄弟BL二本目ですね。これは人間関係が複雑で、本編を濃縮した旨味だけを味わってしまって申し訳ないという感想がまず浮かびました。ちょっと講評のために本編読めてないので申し訳ないです。

 旨味というのは弟の妻である茉裕は昔主人公のことが好きだったとか茉裕の弟である望と主人公は付き合っているとかです。人間関係のもつれがたぶん本編で色々あったと思います。こういう企画を使って本編の面白い要素をお出しできているので本編の方も気になりますね。新規読者に優しく本編への導入にもなる良い短編だと思います。(闇のbot)

兄弟のどちらも好きで、最終的に弟を選んだお嫁さんの話であるが、兄は同性愛者・弟は異性愛者であり、兄と弟に一定の距離感がある。その一定の距離感がありながらも互いに話をすることで物語が進んでいく。兄には同性の恋人(弟の嫁の兄、という複雑な関係)がおり同性愛者であると名言しているのに、弟にはいつか自分から離れて兄のほうへ行ってしまうのではないかという不安や嫉妬があるので、この確執がなかなか埋まらない。この先も埋まることはないのだろう。だからこそ話を面白おかしくしている。〝好き〟には種類がある、という多様性を認めるか認めないか、という話にもつながってくる内容で、その点では弟のほうが頑固なのだろう。行き過ぎてしまった過去があったにせよ、これが兄弟愛の一種であることに変わりはないと思えた。(高砂)

・8枠9番 トロワゼトワル

秋乃晃さんからは『トロワゼトワル』という短編が出走登録されました。タイトルの意味はフランス語の〝三つ星〟だそうです。カクヨムという小説投稿サイトでは読んで「おもしれー!」と思った作品に星を入れることができるのですが、タイトルで「三つくれ!」の意思表示をしていますね。たぶん違います。ちなみにレビューの催促はカクヨムの規約で禁止されているので、みなさん気をつけましょうね。星で伝えきれないぶんはレビューを書くと喜ばれるようです。

関連作品の『パーフェクト・アブダクション』の一部分である『A (in)PERFECT HERO』に登場する兄の篠原那由他を視点人物として、弟の篠原幸雄との関係性を描いた作品となっていますが、何も考えずに読むと「1話目で死んでるじゃんか」になってしまうんですが、1話目が現在の話になっており、2話目で小学生時代にまで戻っている。何一つとして正しくはない『君の知らない物語』がいいですね。弟はおそらく兄に一生懸命に話しかけているんですけど、兄はテトリスに夢中なのがこの二人の将来的な関係性を示唆していて嫌な感じがします。

月が怖い。とある仮面ライダーに「世界は俺が中心に回っていると考えたほうが楽しい」みたいなセリフがありますが、無意識にソレを展開していくバケモノは怖いんですよ。こいつの印象が強くて「兄弟愛どこ……?」になりかねないところがちょっぴりネック。(秋乃晃)

主催者である秋乃晃さんの作品です。この作品に出てくる兄の那由他は『One-Sided Game』に登場する十文字零というキャラの伴侶で、弟の幸雄は『パーフェクト・エディション!』の主人公です。まあ既に確定した過去というか現在の話であり、一時でも二人の間に兄弟愛が存在したという意味で非常にこの兄弟杯が様々な性格の作品の出走を歓迎しているということを表しているようではありませんか?自分の考え過ぎだと思います。

 時よ止まれと聞くと、幸雄の能力である【疾走】を連想しますね。

 ちなみに香春隆文について詳しくは『パーフェクト・アブダクション』と『かつて青く、いまとなってはさびついた宇宙船に』を参照ください。(闇のbot)

星の話をしていたら月の話になっていた。小学時代、星好きな弟とゲーム好きな兄、そこに弟のクラスへ転校生がやってくる。先に言っておくと兄弟も〝イケメン〟なのである。しかし、転校生は次元が違う美しさを持っていた。弟の興味は星からすっかり転校生へと移っていた。だからこその月なのだろう。だが、学校中の注目を集めた転校生は〝家庭の事情〟でまた転校してしまう。話を現代に戻すと、兄は元プロゲーマーである。そして、今まさに母親から弟が死んだという連絡が入っている。何があったのかは本文では触れられない。兄弟愛という観点では小学時代の視点でしか描かれないので、現代における心情は知るよしもないが、兄は弟の相手をすることが好きで、弟は兄に覚えたことを披露するのが楽しくて、という一般の兄弟愛ではあったように思う。それだけに兄へ何の予兆もなく死んでしまった弟のことが気になる作品である。(高砂)

・8枠10番 いつかかならずころしてやるからな。

大トリの鳳繰納さんは『いつかかならずころしてやるからな。』で鳳大仁さんの過去編を書いてくださっています。なお、この掲載順はルーレットにより決定したものなのでわざと大トリにしたわけではないです。タイトルだけ見ると「殺伐とした兄弟愛の物語なのかな」と身構えてしまうのですが、中身を紐解いていくとモノノケのいる世界=かみよもワールドの不条理が展開されていて、なんともやりきれない気持ちになりました。弟の奏助を死に追いやることが本当に彼にとっての幸せになるのかどうかも含めて、考えさせられますね。時を戻すことはできないんですか。タイムベントは!?

和風伝奇ファンタジー『かみよもきかず〜言霊師の怪異調伏活動及びそれに関する事柄の記録〜』が関連作品。大仁さんは、五行家に協力する政府寄りの組織のイケおじです。初登場時に寿司を奢ってくれるので、自分は「寿司を奢ってくれるイケおじ」の印象が強かったのですが、今作品を読んで本当にすまんかったと思っています。モノノケを口説き落とすイケおじ。

『かみよも』はモノノケを調伏する一族たちの物語と、モノノケと出会ってしまったことにより人生が変わっていく男子高校生の物語の両方が楽しめる傑作です。完結済みになっているのでとっつきやすい。個人的には次回作というか、続編というか、他の一族の物語も読んでみたいな……なんて思っていますが、どうでしょう鳳さん。(秋乃晃)

 『かみよもきかず〜言霊師の怪異調伏活動及びそれに関する事柄の記録〜』でご存知、鳳 繰納さんの作品です。本企画にかみよも関連作品が二本も出走することになり、こんなに喜ばしいこともないですよね?

 鳳家のことは本作で初めて知りました。大仁さんのことは知っていたんですがパーソナルなことは何も知らなかったんですよね。かみよもの世界観は伝奇に真面目というか血統主義的なんですが、本作における鳳兄弟の覚醒は元々の資質+暗殺事件なので珍しい気がしますね。だいたいかみよものキャラは最初からスペックが決まっているように思っていましたので。

 弟を思うがこそ、不死の病を治すには殺すしかないというの良いですよね?

 大仁さんが神殺しを探している理由は不死を殺す手段ということだと思うんですが、やはりかみよも世界における一般的な神々って不滅の存在なんですかね?一読者として気になります。(闇のbot)

家柄自体が呪われているような、伝奇譚のような不思議なお話。父と母は視ると呪いをかけてしまう体質となり、子に離れへ火をつけるよう懇願し、自死同然の死に方をした。そして遺された子、幼い兄弟は親類に引き取られ、兄は勉学の才覚を発揮しながらも従弟には嫌われ、せめてそれが弟へ行かないよう必死だった。兄は大学へ、弟は高校へ進んだある日、兄弟は呪いの銃弾を受け、互いが異能を持ってしまう。兄は傷や怪我の自己転移、弟は再生能力であったが、治す方法は兄が10年放浪しても見つからなかった。弟に傷を与えると治癒するまでは再生能力が衰えることなどはわかったが、対処療法でしかない。そこでタイトルに繋がってくるわけである。超常現象が日常に存在する世界観設定で、警視庁捜査一課の刑事ですら妖怪の仕業!と言い出す世界である。非常に強い兄弟愛で結ばれた兄弟なのだが、タイトルのように幸せになれる日はやってくるのだろうか。(高砂)


・まとめ

見えないものを見ようとしたら、さまざまな角度から見て「答えなどないのだ」と気付きました。愛にはそれぞれの形があって、どれもが尊いのだと思います。

正直自分にはブロマンスやBLの理解が浅く、その美味しい部分をうまく味わえていないので、今回の企画をきっかけに見識をより深めていけたらいいですね。人生は一度きりなので、楽しめる幅は広いほうがいい。というのが持論です。

特に縛りは入れなかったのですが兄か弟のどちらかが落命するパターンが多かった気がします。

次は第三回アキノテンノウショウ(偽)でお会いしましょう!


2024/02/06追記
今回の自主企画に参加していただいた作品を紹介するライブ配信を実施しました!

みなさま、ご参加ありがとうございました!

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