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改心した友人

小学生の時、印象的な友人がいた。

彼は少々自己中心的で、
その性格が災いし、
六年生になるころには
僕以外友人がいなかった覚えがある。

さて、これから彼の話になるのだが、
彼の家庭は今思えば
少々特殊だったと言える。

フィリピン人の母親と
日本人の父親をもつ、
つまりハーフで、兄、弟、妹がいた。

ここまでは問題ない。

しかし、彼から聞く父親の話は
なかなか過激だった。

確か小学四年生のときに、
彼はこう言っていた。

「昨日父さんとケンカしたんだけどさ、
父さんがブチぎれてやばかったんだよ~」

どんなふうに?
と僕が聞き返すと
彼は笑いながらこう答えた。

「言い返したら一回父さん
台所まで戻ったんだよ、
『あれ?もう終わったかな?』
て思ったんだけどさ、

父さん包丁持ってきて、
ぶん投げてきたんだよ!」

前から彼の父親が短気で、
怒ったらとんでもない人に
なるのは知っていたが、
ここまでヤバい人なのは知らなかった。

僕は恐ろしさと好奇心にかられ
「その後どつなったの?」
と聞いたところ。
もう、わぁぁぁぁ!って必死に逃げた、
と彼は語っていた。

だが、彼は父親のように
あまり暴力を振るうタイプではなく、
一緒に遊んだときは非常に楽しかった。

ゲームをしたり、
公園のジャングルジムを使い、
足を地面についてしまったら
問答無用で鬼になってしまう
「アスレチック鬼ごっこ」
なる遊びもした。

色んな遊びをしたが、
中でも一番印象的なのは
小学四年生の時、
僕と彼を含め、四人で
少し遠くの公園まで遊びに行った時、
なぜか彼の母親がいて
(妹の保育園のお迎えに行っていたのだとか)彼の母親は僕たちを見た数秒後、
財布から千円札をだし、

「これで何か買って食べなさい」

と言い、僕らに渡してくれた。

僕たちは当時小学四年生、
千円なんて大金を使うのは
夢のまた夢だったのだ。

僕らは歓喜し、
「ありがとうございます!」
と彼の母親に礼を述べ、
近くのスーパーでアイスを買い、
余った百円と数十円をどうしようかと
迷っていたら一人が
ガチャガチャを指指しながら

「これ回そうぜ!」

と言った。

そのガチャガチャは
某アニメキャラが
恐れおののいた表情をしながら
明後日の方向を向いている絵と
共にこう書いてあった。

「闇ガチャ」

左上に小さく
※表示されてるキャラクターとは
違うものがでる場合があります、
と書いてある、
明らかに某アニメキャラを使い、
子供からお金を巻き上げる
悪質なガチャガチャだったのだが、
僕らは好奇心にかられ、
回してしまった。
そしてでてきたものをみて、
ついこんな声を漏らした。

「は?」

でてきたのはピンク色の小さな、
三歳に満たない小さな女の子が
はめるような指輪だった。

その指輪は「妹にあげよ」
言って彼が持って帰ったが、
僕はこれ以来怪しいガチャガチャは
回さないようにしている。

この他にも色々遊びをしたのだが、
僕は彼の自己中心的なところに
振り回されるのがだんだん嫌になってきて、遊びの途中、一人帰ることもあった。

そして、月日は流れ確か小学六年生の夏至、彼は学校の廊下で僕にこう言った。

「俺は自己中を治した」

彼がなぜ自分が自己中心的な人物で
あるということに気がついたのは
わからないが、
僕はとても嬉しかったのを覚えている。

しかし、
回りの人物に彼が
自己中心的であることを
撤廃するのは少し遅すぎた。

彼は自己中心的で
最低な人間という
イメージがつきすぎていたのだ。

そう、彼は長い間
自己中心的だったため、
回りの人にもうそんな人間ではない、
と言っても信じてもらえず、
いまだに彼が最低な人間だと
思いこんでる人は多い。

僕はひどく絶望した。

人はなんて愚かな、
悲しい生き物なんだろうと。

彼が残りわずかな
小学校生活をやり直そうと
しているのに、
周囲の人間はその
やり直す権利すら与えないのか?

そんなのひどいじゃないか。

彼は自分の罪にようやく気がついたのだ。

それなのに、それなのに。

彼の声に耳を
傾けすらしないのか?

ここで僕は気がついた、
これは今の日本にも当てはまる
ということに、
一度マスメディアが


○○さんはこういう容疑をかけられています、


と報じればほとんどの人が
○○さんは犯罪者だ!
と思いこむように

人は思いこみが
ひどすぎる生き物なのだ。

一度誰かが、
中でもマスメディアが、
そうと言えばほとんどの人は
それが真実だと思うだろう、
誰もその情報が真実だと保証できないのに。自分の目でみていないのに。

その結果、
被害者(容疑をかけられた人)は
社会復帰が難しくなる。

この場合の被害者は彼だ。

彼はその後の学校生活で
孤独に過ごしていた記憶がある。

僕もあまり遊ばなくなった。

なぜかは忘れてしまったが、
学校で会話はするものの、
放課後遊ぶことが無くなった。

そして、そのまま卒業した。

その後、
もう会えなくなると思っていたが、
一度、再開をはたした。

いつかと言うと、
卒業アルバムを取りに
小学校へ訪れた時、偶然再開した。

確か僕らは語り合い、
しばしの間再開を喜んだ。

短い時間だったが、
思い出に残し、
お互いのことを忘れないように
するのには充分な時間であった。

僕は彼を忘れない。

これからも、ずっと。

彼が改心した優しい人間であることを。


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