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エリザベスタウン


「エリザベスタウン」
2005年
監督:キャメロン・クロウ 
主演:オーランド ブルーム キルスティン ダンスト


なんでこの映画が好きなんだろう。
特別に派手な出来事があるわけではなくて、
ロマンチックやスリリングが詰め込まれているわけじゃないのに。
けれど映画の中にはたくさんの音楽が流れていて、 果てのないアメリカが、わたしの好きなアメリカの空がたくさん映っている。

家族とアメリカへと旅をした。
青くて広くて手が届きそうに低い空。
突然の雨が車窓をたたいた。
天気雨だ。
晴れているのにどんどんと落ちてくる雨粒。
カーペンターズが流れはじめる。
パパもママも弟も一緒で、わたしは安心して大きな空を見上げている。
窓に打ち付ける大粒の透明な滴をみている。

映画の主人公の車はタイムマシーンになった。
突然知らさせた父親の死、主人公の失業。
父親の故郷へと亡くなった父を迎えにいく旅。
エリザベスタウンという片田舎で、
親戚や近所の人たちと父を忍ぶ。
連鎖する命の中で生きているという小さな誇りを感じ、粉になった父親を助手席に乗せて帰る。
アメリカの大きな空を仰ぎ見ながら主人公はひたすら走る。
現在と過去をいったりきたりしながら、
死にたくなるような仕事の大失態を思い出してうなだれたり、父親との思いでに涙を流したりしながら広大な大地をひた走る。

ドラえもんはいらない。
ひとりひとりに埋め込まれたタイムマシーンは
あら不思議、車にのると起動してしまうらしいから。
流れる車窓からの景色はどらえもんのポケットの中身だろう。
タイムマシーンは過去をひたはしり現在をひたはしり未来へと進む。

いつか死ぬときがきたらわたしはきっと思い出すだろう。
異国の大きな空の下雨粒から守ってくれた車の中で聴いていたカーペンターズと空の青さを。
そのときの幸福の安堵感を。
真四角のフロントガラスが、映画のスクリーンみたいに景色を映し出して流れては消えていく、その様を思い出すだろう。
わたしの身体の中には頑丈なタイムマシーンがいつもきちんとセットされている。

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