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偏見まみれのミュージカル入門

私の広く浅い趣味の一つに、映画鑑賞がある。私はその中でも特にミュージカルに傾倒している。
小さいころからディズニー映画を繰り返し観ていた私の中には、ミュージカルの世界観をすんなり受け入れるための土壌が自然と形成されており、ミュージカル鑑賞の際にネックとされる「急に歌いだす」という違和感を感じないまま生きてきた。というか、ディズニー映画がミュージカル的であるという意識すらなかったのである。
私が見てきた、あまり多くはないミュージカル映画の中でも、比較的抵抗感を持っている人が見やすいのではないかという作品を紹介していく(ディズニー作品以外)。判断基準は、完全なる独断と偏見である。

『チャーリーとチョコレート工場』

初めてディズニー以外のミュージカルに触れたのはおそらくこの作品で、本当に何十回と繰り返し観た作品でもある。観ていた当時はこの作品がミュージカルであるという感覚が全くなかった。
おそらくこれは、この作品の世界観のなせるわざであったのだと思う。ミュージカルは現実離れしているとよく言われるが、そもそも『チャーリーとチョコレート工場』に関しては主人公チャーリーの実家からして現実離れしている。唐突に歌いだしても妙に納得してしまうのである。

若き日のジョニー・デップやヘレナ・ボナム=カーターなどのそうそうたる出演者や、ティム・バートン監督作品らしい怪しげなわくわく感を楽しめる作品なので、観たことのない方にはぜひ視聴をお勧めしたい。

『レ・ミゼラブル(2012)』

2012年、何度も映画化されてきたヴィクトル・ユーゴーの代表作『レ・ミゼラブル(悲惨・哀れな人々の意)』(邦題は『ああ無常』など)がまたもや映画化された。
より正確にいえば、2012年のトム・フーパー監督の『レ・ミゼラブル』は小説ではなく、小説を原作としたミュージカル(舞台)の映画化にあたる。

ミュージカル『レ・ミゼラブル』は、たとえば任意のミュージカルっぽいディズニー映画に比べ、歌っている時間の割合が非常に大きいのが特徴である。割とずっと歌っている(分量から言えば「みんながいきなりしゃべり出す」という表現のほうが適しているまである。曲だけ聴けば物語の筋もわかる。)がゆえに、「いきなり歌いだすのはちょっと…」とミュージカルに抵抗感のある人にはある程度おすすめできるが、別のネックポイントがあるのもまた事実である。
まず第一のネックポイントは何といってもその長さである。舞台の上演時間は休憩含めて3時間ほどで、2012年版の映画は約2時間40分である。小説本編のことを考えれば、あらゆるところを削った結果かなり短くなっていることがわかる(この場合レミゼ原作の「本質的な」部分はほとんど削られていることになる)。しかしそれでも気持ち長めであろう。
第二のネックポイントは映画のラストシーン。2012年版はミュージカルの映画化らしく、いままで登場してきた人物たちが大集合する(舞台の演出そのままだと思われる)。映画としてはあざとすぎるお涙頂戴感が満載で冷めてしまう人もいるかもしれない。
第三のネックポイントは、あんまり歌が得意じゃなさそうなキャストが(メインキャラで)出演している点。ミュージカル舞台で活躍するキャストが多く出演していることも相まって、歌の「棒読み」感が否めない場面が多々ある。

しかしそうはいっても、2012年版は見所が多い。ヒュー・ジャックマン、アン・ハサウェイ、ラッセル・クロウ、エディ・レッドメイン、ヘレナ・ボナム=カーターなどの豪華キャスト、後録りではない歌声、実際の舞台に出演していたキャストたちの出演など、挙げだせばきりがない。とくに、登場人物の一人で学生グループのリーダーであるアンジョルラスが、今までの「天使」としての彼や「革命を率いるにふさわしいリーダー」としての彼とは違い、一人の青年として描かれているのが見所である(私見)。また、珍しくビジュアルも原作に寄っていて、若きカリスマの苦悩を見ることができるのも素晴らしい。
ミュージカルに苦手意識を持つ人に張り切っておすすめするのは難しい映画だが、これを冷めずに最後まで見ることが出来ればある程度はミュージカルに対する苦手意識は克服できたといえるのではなかろうか。

『CHICAGO』

アメリカ合衆国イリノイ州の都市シカゴが舞台のミュージカル作品。「この街では、銃弾一発で有名になれる。」がキャッチコピーの作品で、殺人の罪を犯したシカゴの女たちの物語である。
出演キャストは レニー・ゼルウィガー、リチャード・ギア、キャサリン・ゼタ=ジョーンズと非常に豪華である。衣装や音楽も非常におしゃれで、頭を空っぽにして楽しめるタイプの映画だ(全体的に人命が軽んじられている節があるので、それが受け入れられない人には向いていない)。

この作品内のミュージカルナンバーは、数曲がショー・ビジネスの描写として歌われ、残りは主人公の頭の中で起こっているあれこれを表現しており、現実の出来事を描いていないのが特徴である。故に「いきなり歌い出すやばい人々」はこの作品には(基本的には)出てこない。間男の命や旦那の命よりも、自分の夢、女としての意地、男としての意地、そういったものに固執する人々がたくさん登場する作品なので、倫理観のぶっ飛びの方がやばいし、そこが最大の見所ともいえる。
ぼーっと見ていたら終わる作品なので、ミュージカルに抵抗感がある人でもノリと勢いで見切れるのでは、と思う。ただ女の強さを向こう見ずな暴力性で(しかもハッピーに)表現しているように受け取る人もいそうなので、そういう雰囲気が苦手な人にはおすすめしない。

最後に

本当はディズニー映画の『魔法にかけられて』に触れたかったのだが、この作品に関しては小一時間話せるので今回は割愛する。
そもそも苦手なものを克服する必要もないし、今回紹介した三作品のうち二作品は原作小説も存在する。『チャーリーとチョコレート工場』はロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』、『レ・ミゼラブル』はヴィクトル・ユーゴーの同名小説を原作としている。ちなみにレミゼの題名は、古くは『噫(ああ)無情』と訳されていた。レミゼは再三アニメ化もされていて、抄訳もたくさんあるのでぜひ好きな媒体で触れてみて欲しい。

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