見出し画像

4.さて何から始めればいいんだろう?

座学的なものはこのくらいにして、少し実践編というか、実際の額装の流れを見ていくことでおぼろげでも額装の全体像をつかんでみたいと思います。額装なんて作らないよという方も、額装の舞台裏みたいなものを知ることで、街の様々な場所で見かける額装された作品を見たときにきっと何か感じてもらえることがあると思います。

どういうところから額装を始めるのですか?そんな感じの質問を以前受けたことがあります。いざ額装を作ろうと思っても、何から手をつけたらよいのかどこか雲をつかむような感じであるのはたしかです。猫の絵をデッサンするわけでもないし、今年の漢字を書にしたためるわけでもないのでぱっと見て何から始めればよいのかよくわからない。本当にどこにスタート地点があるのか。いくつも額装作品を作った経験のあるぼくもなにから始めようかな?と考えあぐねることがあります。これまで制作のプロセスをフリーペーパーなどでも書いてきましたが、毎回自分がどうやって作っていったのかきちんと把握できないことの方が多いです。よくわからなくてやっているの?と思われそうですが、ほかの多くの創作という行為と同様に、あれこれ試しているうちになんとなくうまくいったというケースがほとんどです。

とはいえ、何かとっかかりとなるテーマとか頼まれものだとかプレゼントだとかの明確な理由づけがあることの方が多いと思います。バースデーカードを入れたいというときなんかはカードに合う紙を用意して、額縁やテクニックをあれやこれや考えながらしだいに額装のかたちに整えていく。お祝いの作品なのだから明るい感じにしようとか雰囲気や方向性がゆるく決まっていきます。あるいはこんな感じのテクニックで作りたいとか、もらった素敵なカードを額装にしたいとか、蚤の市で見つけたヴィンテージのフレームがきれいだからこれに何かを入れて部屋に飾れるようにしたいとか 。そんな起点というかきっかけのような最初の一歩があると、わりとするすると作りたい作品が思い浮かんだりすることがあります。

ひとつ断っておきますが、本来の"額装"というものは(なんだか堅苦しい言い方ですが)、なかに入れる作品が主役で、その主役に合わせて脇役的にマットを製作し、そのできたマットに合わせたフレームを額縁屋さんでオーダーするというのが基本的な流れになります。額装というものは本来縁の下の力持ち的な役割なので、あくまで作品が主体であり、額装はいちエキストラにすぎないからです。脇役ごときがでしゃばってはいけない。どこかそんなところがあるような気がします。そして額をオーダーすると決まっている場合、額装の技法による装飾や余白なんかのサイズはまったく気にすることなく額装を施すことができるので、それが正しいというか本来あるべき手順なのだと思います。

ただ作る作品も決まっていないのに額をオーダーするというのはちょっと敷居が高いし、お値段もお高いかもしれないし、出来上がりにどんなフレームがつくのかちょっと想像がつかない、そんな不安もあると思います(オーダーの場合、額縁の一部がカットされたサンプルで判断することが多いですが、実際の大きさなどのイメージはなかなかつかみにくいところがあり、出来上がりを見ると印象が変わることがしばしばあります)。なので趣味で額装をする場合においてですが、わりと既製のフレームを使うことも多かったりします。というかぼくの場合は既製の額縁でだいたいのイメージをつかむケースがほとんどかもしれません。既製品なら完成時の目安となるサイズを把握することができ、額の色や材質に合わせて装飾に使う紙やマットに貼る紙を選ぶことができるというメリットもあります。あくまで本来のやり方から離れた方法ですが、なんだか巡り合わせのように偶然ぴったりと合う額縁が見つかったりすることもあるので、ぼく個人に関していえば既製の額を使う方法が好きだったりします。

文章だけだとわかりにくいのでここから少し実際の制作の過程を見ていきたいと思います。

画像7

たとえばこんな感じの古い外国の切手ってありますよね。遠い国の言葉や見慣れない消印がついていて、小さいのに手に取るだけでほんの少し異国の空気に触れた気分になるそんな不思議な雑貨です。そんな古い切手を額装したいなと思ったとします。

この場合とっかかりとなるのはこの切手です。ここから紙や額装の技法を考えてもいいのですが、今回は額を選ぶところから考えてみましょう。

画像8

手元にある額縁から切手のサイズに合いそうなものを探していきます。普通は手元にないと思うので、額縁がたくさん置いてあるところで比べてみるのもありだと思います。まずはこんな細い木製の長方形の額を置いてみます。細い華奢な印象がきれいで、なかに入れる切手の縦横の比率が同じくらいなので一見使いやすそうですが、ちょっと頼りない気もします。

画像9

次に選んだのは少し幅のある小さい正方形の額。切手なんかを入れる場合、こんな正方形の額の方が中に入れるものの輪郭がくっきりと浮かぶのでいいかもしれません。

画像10

先ほどよりは少し大きめのアンティーク風に加工した額。隙間が空いている感じもしますが、この余白の部分に額装の技法を入れることができるので、これくらい余白があっても問題はありません。

画像11

今度は同じ小さいタイプでフレームの色がブラックの少しモダンな額。なかに入れる切手のウサギ(小さくてわかりにくいですがウサギの絵です)が黒い線で描かれているので、心なしか黒の色が強調されてきれいに見える気がします。

画像12

同じブラックのフレームの少し大きめのサイズ。余白が広いのでなかに入れる切手が小さく見えると思います。

画像13

これに額縁に付属されていたマットを裏返しにして置いてみるとこんな風に。少し見え方が変わったと思います。なんだかいい塩梅になったかも、そう思たら額装の出来上がりにほんの少し近づけたのだと思います。

こんな感じであれやこれや試しながら飾りたい作品のイメージに近づけていくのがぼくの考える額装です。ここでは切手というとっかかりから額をいろいろ試してみましたが、起点となるものはなんでもよいです。クリスマスが近いからサンタクロースの額装を作ろうとか、もらったお菓子のパッケージがとてもかわいらしいからそれを飾ってみたいなとか。作品が完成したとき最初に考えていたものとまったく異なるものが出来上がるなんてよくあることで、作りながらたのしめればなんでもありだと思っています。こんな感じで日常にあるあらゆるものの組み合わせを試しながら、額のなかに装丁していく。そんな風に考えているので、いつも何から始めたかについてよくわからなかったりしてしまうのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?