見出し画像

牛丼肉抜き

 「牛丼」ってからには牛肉入ってなきゃダメだろ、というのはただの固定概念で、実際には牛丼から牛肉抜いて、タマネギと米とツユだけの丼を食べても「これ肉、入ってないけど牛丼だな」とみんな思う気がする。思わないのは牛丼をそもそも食べたことがない人で、そんな人に「牛丼だよ」って言って牛肉の入ってないものを渡しても、これは何かのとんち勝負かな? と疑われるだけで良い対話にはならぬと思われる。
 とにかく牛肉が入ってなくても牛丼は成立する。と思う。

 俺はこう見えて年中ひまではないのだが、今日はひまと呼べる時間が空いたので非常にちょうど良く目の前の映画館で「シヴィル・ウォー」をやっていたので、どんな映画かは分からないが銃をバンバン撃って人が死ぬちょっと社会派なやつだろう、というそれだけの気持ちで鑑賞した。
 全然知らんのにIMAXしかやってなかったからIMAXで見た。
 シートが豪華だった。

 最初こそ「このアメリカ内戦って設定は、ロシア・ウクライナ紛争を意識させて」ぐらいに思っていたのだが「意識させて……」から「んー?」って何かの異変に気付き、そうじゃねえな、何だっけこの感じ……知ってるぞ、俺はこういうのたくさん見てるぞ、と意識を持って行かれてしまい、謎のサマーパークに兵士の死体が転がっている、という辺りで「あっこれ、牛丼? 肉抜いたの?」って気づき、赤メガネのところは完全に理解して接していた。

 これゾンビ・アポカリプスものの映画じゃん、って途中から気付いた。おかしいところと言えばゾンビもアポカリプスもないところだが、多分この内戦をきっかけにして合衆国が密かに開発していたナントカウイルスが爆散したりオモシロ核爆弾が炸裂したりしてなんやかやあって地球はとにかくめちゃくちゃになるのであろう、ジャンク・ランク・ファミリーみたいに。
 ジャンク・ランク・ファミリーのことは今は置いておこう。今後も特に触れる予定はないのだが。とにかくジャンク・ランク・ファミリーの話はしていない、今は「シヴィル・ウォー」の話をしているんだっわかったかっ、ヒヒッ旦那、刃物ってのはなあ、一回抜いちまったら使うしかないんだぜ……(鞘に収める)

 「襲撃してきた二人くらいを吊したまま」とか「謎のテーマパークに兵士が一人死んでる」とか「内戦なのに平和で前時代的な空間を持った街」とか「スタジアムに待避している難民キャンプ的な物(補給が受けられる)」とかもう全部、既視感。全部ゾンビのやつで見た。

 俺は閉鎖空間の中、一人で論を戦わせるタイプの男なので一般的にどう考えられているのかは構わぬのだが、昨今、映画界は色んな気遣いとエンターテイメント性の重視から、なにかとゾンビだの宇宙人だのに「派手に殺していいやつ」の役割をアウトソーシングしているのだという持論を持っている。別にいいのだが、大抵、それだとゾンビや宇宙人の外注が本体を支えきれなくなって「本当におっかないのは……人間!」みたいな、デビルマンを一万回くらいコピーしたような代物になりがちではある。あるが、その方が色んな問題も回避できるし、それに見てて楽しいでしょ? というなんやかやの都合があるので、それで面白ければ別にいいやというフシもあり許さ~ンと言っているわけではありません。

 問題はこの「シヴィル・ウォー」で、色んな「そういう作品」を見ていて思ってしまう「それゾンビじゃなくても成立しない? なんでわざわざゾンビを……」っていう空気の読めなさを炸裂させたような映画であることで、そのくせ随所の手つきが全部と言っていいほどゾンビ・アポカリプスものの映画なので異常事態みたいになっている。

 俺は割と断言してしまうが、別にこの映画は社会問題とか人種差別とかそういうのをメインで訴えかけたいのではなく、多分、本当に純粋な気持ちで「ゾンビとかいらないのになんで入れるのみんな?」という感じで作った結果、ゾンビものなら許されていたというか流されていた展開が妙におかしくて説明不足とか意味がないとかの誹りを受けかねないのではないかと俺はとてもはらはらしている。俺に出来る事は他にない。

 途中で出て来る「ムダにキャラの立った人たち」や「その設定はなんだったの」などはロードムービーの手つきと言えなくもないのだが(色んなところを旅して色んな人と会う)んなもんよりゾンビ・アポカリプスものの映画って言った方が「あっ知ってる」ってなる。
 雑なキノの旅みたいな話をやめろ。
 恐らく一番キャラ立ってたのはトラックで死体を集めている(多分自分で殺してるんだと思うが)金髪赤メガネで、有色人種の死体を集めて穴ぼこに埋めて上から石灰かなんかパラパラ振っている、いかにも「アメリカに根強い差別、まだいる極右白人主導主義!」みたいな社会性のあるメッセージを込めているような風情だが、言うまでもなく「ゾンビ物にいるヤツ」でしかない。多分、死体を集めて私設ゾンビ軍団を造ろうとしている悪いヤツだ(その台詞のはしばしに差別用語が入っている)きっと。

 ロードムービーだからといって、唐突に何もない草原にお花見程度のブルーシートを広げたような「サマーパーク」と称した訳の分からんクリスマス飾りのど真ん中で兵士の死体が一体、とかはゾンビものというより「アポカリプス系のゲーム」でのトラップにしか見えないし実際トラップでありどっかから狙撃される。
 そして近くには謎のスナイパーとスナイプ勝負を行っていると思しき別の狙撃兵コンビが。
 なんか色々含蓄あるようなないようなことを言って姿も見えないスナイパーは姿も見えないまま死ぬ。この回終わり。シーズン2エピソード3くらいの話がそこら中に挿入されている。あのスタジアムキャンプもキャンプ内でゾンビが発生して終わりになると思う。

 そんなロードムービーがあるかという感じだが、長らく、ゾンビものはそういうのが許されてきたし醸造された文化となっているフシもある。この際、別に肉入れなくても、食べ終わってから「この牛丼、何かおかしいなと思ったら肉、入ってなかったわ!」ぐらい見る方は鈍磨している。いい意味で。肉がないのに肉を食べた気になれるなんてコスパ抜群だぜ。

 実際、ゾンビものというのは実は黒人差別が根っこにあってとか、暴動の因子を内在した危険なマイノリティがとかキリスト教がうんたらとか、そういうの込み込みコンテンツだったりするのだが、逆にそういうの表に出さずに殺していい相手が無限供給されるので便利っちゃ便利だし宇宙人と違ってデザイン新しく起こさなくていいし便利なのだが、本末転倒ではあり、本当に「この話ゾンビいらなくない?」などと思ったりするのだが、本当に消すやつがあるかという感じだ。
 これだと多分、説明不足とか放置とかはしょりすぎとか色々言われるのではないか。
 ゾンビって言っておけば説明は後回しでいいしなんならしなくて良い。
 して欲しいのだが、まあ、しなくて良い。
 ちゃんと事前に「この牛丼には牛肉が入っていません、いらないと思ったから」と断らなくていいのかな、お客さんは怒るのではないか、と余計な心配をずっとしてしまう。

 だから主人公チームがジャーナリストで、これが兵士とかだと「違うゲーム」になってしまうというか、やはり観察者視点の主人公ってやっぱりゾンビとかそれっぽいじゃない?
 絶対そうだよ、これその心算で造ってるよ。
 こうして書きながら俺はその思いを新たにした。

 実際の話、ロシア・ウクライナみたいなのは意識してると思うんですよ、タイミング的に。そして無様にやっつけられる大統領とかみんなが現実で期待しているやつでしょ、あれ。だから社会性のあるメッセージが込められているかというと、別にないんですよ、ないとは言わないけど、ないに等しいよあんなの。
 ヒロインが自然体で口からゲロ吐くシーンで笑いを堪えていた。
 そんな自然な嘔吐ある!? ってなっちゃった。
 数ある映画ヒロイン嘔吐シーンでもベストテン入りを果たしたね。普通にゾンビ映画造ってもあのゲロは描けないね、さすが! ってなっちゃったね!

 失礼な、俺たちは社会的なメッセージを込めてこの映画を造ったんだ! 謝罪しろ、と言われれば幾らでも土下座する準備はあるが、しかしそれはマゲだけであり顔をそっぽを向いていて「俺は君らの本当の気持ちに気付いているよ」という素振りをし、そしてまた怒られると思う。

 そのぐらい、ゾンビ・アポカリプスものの映画なんだって!
 信じられないかもしれないがそうなんだって!
 悪意なき残酷な一撃。それが「シヴィル・ウォー」

 まあ内戦の経緯とかはもうちょっと掘って貰っても良かったと思うんですけど。それよりトンチキ道中記とか、出て来て邪魔しかしなかったやつ、とかそういうのが次々出て来るからどうでもよくなってしまう。
 イベントを楽しむ系の作品なので、あまり一本、スジの通った頑なな姿勢はなくてもいいような気がする。スジなど通さなくても良い。もっと癖を出して走れとジャイロも言っている。
 
 まああと、あれですわ。普通にバルカン砲かなんか撃って市街を攻撃していただけですが、やはり軍用ヘリが街中を飛んでいると強そうだし怖いしとても良い。空からの一方的な蹂躙。ゾンビは対空性能がゼロに近い。
 ゾンビに対空性能を持たせてみようとか迂闊に考えるとバイオ5みたいな映画になって現地の人をゾンビ扱いするのをやめろとかそういう怒られが発生するかもしれずとても厳しい。

 最後、意外と頑張るシークレットサービスとかなんでそんなに頑張るのか分からなかったが、あの人達には西部連合がゾンビに見えていたのだろう。ゾンビから大統領を守らなければアメリカの明日はないのでみんな命を犠牲にしてでも大統領を守り続ける。だってアメリカの明日がかかってるから。

 主人公側の話、ゲロの話しかしていないがいいんだろうか。
 まあ多分、しばらくは公開している作品だろうと思うので、俺の言っていることがウソだと思う人は見に行ってみよう!
 俺はウソなんかついていないっ
 ただ何かは間違っているかもしれない。
 金髪赤メガネが実は金髪でも何でもないとか(忘れた)そういうことはあるかも知れない。
 ただあれ、ほんとにゾンビの出ないゾンビ映画、肉入ってないけど牛丼、そんな感じなので評価軸を柔軟に持って有意義な暇つぶしを皆さんご堪能いただければなと思います。

 俺が最新の作品を余りnoteに書きたくないと言っている理由が、今回の件でお分かり頂けたかと思うが今後ともこういう姿勢で臨みたい次第なのであった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?