会計年度任用職員制度~新聞記事の切抜、実はそれ違反行為ですよ~

 前回は会計年度任用職員制度問題の概要を記載しましたが、今回はかなりショッキングな内容になります。

 一般的に言われている役所の臨時職員や非常勤職員さんのお仕事といえば、職員へのお茶くみ、食器の洗い物、コピー取り、掃除・・・こんなの公務員様の給仕係ではないか?といわれても仕方ないような雑務が多いです。

 勿論、図書館の司書職、児童館や福祉館の保育職はじめ専門職と言われている方々もいますが非正規公務員の大半は事務職です。

 事務職でありながらメイドさん、清掃員さん、運び屋さん、作業員さんetcなどと都合よくつかわれているのが非正規公務員の実情です。蛇足ですが、正規職員の方が「パートさん」、「臨時さん」と実際に呼んでいる事から見ても彼ら彼女らにすれば会計年度任用職員などと格好のいい職名を付けたところで本音は「都合のいい便利なバイト君、パートのおばさん」なのです。

 

 さて、今回の本題はタイトルにもある「新聞の切抜」という民間労働者には信じられないような雑務についてです。

 「もしかしてスクラップ帳?」と思った方、惜しいです。

 確かに筆者もスクラップ帳作りをしたことがあります。正直なところ、そうであってくれたらここまで大事として記事にしませんし現実に騒いでいません(その筋でかなり有名な問題になっています)。

 近年は各オフィスに複合機が置いてあるのが常識となりつつありますね。書類のコピーやスキャンデータの取り込み、ファクシミリ等今まで別々の機器で行われていた作業が一台で賄えるパーフェクトマシン(笑)です。

 で、人間という生き物はどんどんどんどん楽をしたがるものなんですね。
(以下、三文芝居)

「一々自分で新聞紙を開いて課の所管業務に関連する記事を探して読むの面倒くせーなぁ・・・」
「あ、そうだっ!バイト君、パートのおばさんに記事を探させてPDFにスキャンさせよう!」
「ついでに課長やグループの同僚にも印刷して呈覧させれば効率的じゃん、自分天才だな!」

 という阿呆がでてくるわけです。

 なぜ阿呆なのかって?世の中には「著作権」という法律があってですね・・・。

 本来、公務に携わる職員は国の法規や地方の条例に精通している筈なのですが、民間労働者の多くの方が思っていらっしゃる通り大半の公務員は公務員になって以降は温室の中で阿呆になっていくので「著作権」を知らない、忘れた、理解できない、という職員ばかりになっても仕方ないんですよね。

 補足すると、官公庁、全国自治体は多かれ少なかれ全国紙、地方紙、機関紙、専門紙等を出版社と購読契約しています(勿論、全額税金で新聞を買っています)。

 それが本であれ新聞であれ、近年であれば購読契約の中に著作権について含まれているのは世の常識です。

 例えば・・・
 「複製を禁じる」
 「大衆に配布を禁じる」
 のように、勝手にコピーしたり、勝手にいろんな人に配ったりするのは基本的に禁じています。

 さて、世の中のOAが便利になったのは冒頭でも説明しましたが、今の時代は簡単に誰でも複製ができる世の中になりました。コピーやスキャナーはこの10年だけでも格段に性能が上がり操作も簡単になりました。

 新聞紙面を何枚でもコピー印刷できるようになりましたし、スキャンしてJpegでもPNGでもPDFでも多くのデータ形式で保存できます。

「あ、そうだっ!バイト君、パートのおばさんに記事を探させてPDFにスキャンさせよう!」
「ついでに課長やグループの同僚にも印刷して呈覧させれば効率的じゃん、自分天才だな!」 

 はい、これが筆者の会計年度任用職員としての日課でした。

 正直言って初日から「これやべぇだろ・・・」と思いましたが、世の中は弱肉強食の世界。特に公務員はえげつないほどの上下関係を誇示してきます。

 「いつも非常勤さんにお任せしているから、●●さん頼むね(笑)」
 「あーそうなんだぁ、じゃあ仕方ないなぁ(笑)」

 これが現実です。
 これが公務員の順法精神です。

 最後に切抜の説明ですが、新聞紙面をスキャンしただけですと読みたい記事の周囲に別の記事とか広告画像がありますよね。だから不要な記事部分をトリミングして職員が記事を読みやすくしないといけないんです。

 そして、トリミングして読みたい記事だけになったjpeg画像をWordのデータ様式に貼付してわざわざ印刷して呈覧(先ほどから何度も出てくる言葉ですが、世間一般的な回覧と同義です)をします。

 あとは課内の偉い人から下っ端に順々に判子を押されながら回り、最後にバイト君(筆者)に戻ってきます。

 (こんなのいらねーよ、読まねーし!)
 と口に出すことが憚られるとても弱い立場なのでニコニコ笑顔で受取ったら無表情に戻って『捨てます』。

 順法精神の他に紙資源も平気で捨てるのが公務員界隈の嗜みなので気にしてはいけません。気にしたら負けです(笑)。

 こうして、数年間毎日のように公務員様のために順法精神と紙資源を容赦なく投げ捨ててきた筆者ですが、吐き気がしますね。さすがに嫌気が差しました。

 最終的に、スキャン→トリミングは手作業で、貼付と印刷はエクセルマクロで済ませるようにしてだいぶ効率化させました。

 なんせ毎日10~20枚、休み明けになると40~60枚も記事をスキャンして切抜させられるので、貼付と印刷まで手作業でやってたらお昼になっちゃいます。馬鹿馬鹿しくてやってられなかったですね。

 

 この新聞記事の切抜作業ですが、具体的に著作権の何に反しているかというと
 「電子的複製」
 「第3者への頒布を目的とした複製」
 主にこの2点です。

 冒頭でスクラップ帳の例を出したのは、新聞の現物を裁断して帳簿にまとめることが「複製」にあたらない、つまり合法なので正しい使い方だったんですね。

 一方で先ほど筆者が説明した現実の切抜作業においてはスキャンしてデータ化している時点で「電子的複製」に当たりますし、そのデータを加工して印刷して呈覧するのは「第3者への頒布」に他なりません。

 はっきり言って著作権違反ですが「非常勤さんの仕事だから」と正規職員が違法行為を指示しているのはどうなんですか?

 なお、官公庁や全国自治体がどの程度契約しているのか知りませんが、筆者の雇用先では新聞著作権協議会と契約しておりました。

 具体的な説明はリンク先を読んでもらうとして、簡単に説明すると

「新聞に関係する著作権問題を条件付きで解消する代わりに一定のお金をもらいます」という事です。

 その条件というのがリンク先でも説明されていますが

・頒布を目的としない少部数のコピー(少部数のコピーとは、20部以内のものを指します。)
・PDF化などの電磁的複製(PDFによる利用は同じ会社内のイントラネットで30人以内で共有することを意味します。)
 に限定。

さらに、

 なお、組織的、継続的に新聞各紙の記事を切り抜き、コピーして関連部署などで利用するいわゆる「クリッピング・サービス」も委託対象外です。

 というわけで、一見「なんだ、じゃあ大丈夫じゃん」と思うかもしれませんが、本当でしょうか?

頒布を目的としない少部数のコピー

課内の職員向けに呈覧、つまり頒布しています

少部数のコピーとは、20部以内のものを指します。

日によって数十記事も電子的複製をしています

PDFによる利用は同じ会社内のイントラネットで30人以内で共有することを意味します。

例えば所属内の端末だけが接続できるNAS(共有サーバー)であれば30人程度に収まりますが、現実には庁内端末管理の利便性や庁内職員間連絡の都合から庁内職員全員の端末とネットワークで接続しているのが当たり前のようになってきていると思います(筆者の雇用先も同様)。これでは条件にあてはまらないでしょう。

 つまり全然大丈夫じゃないよ、ということですね(笑)。


 というわけで、筆者が会計年度任用職員時代に(強制的に)味わった闇の1つでしたが、多分まだやってます。というより、過去数十年に渡って続いてきたのがどこかで漏れて騒ぎ始めているんでしょうね。

 そもそも、税金で新聞買ってあげているのだから職員が自分で勝手に読め、という事なんですけど・・・。

 怠惰を極めようとする役人根性なのか前例踏襲にこだわる無能なだけなのか、普通の人が「は?」と思う事ばかりなのが役人という生き物です。

 それを体験できる素敵な職業(笑)なのが旧臨時職員や非常勤職員、そして会計年度任用職員なのだと筆者は思います。

 

 あと何個か闇のストックがあるので続くかも。

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