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あーあーあー凹んでやんの。
せっかく友達と一緒におしゃれして会いに行ったのに、告白する前に失恋したとか、ついてねえよなあ、こいつ。
別の女に一目惚れしてるのにムカついたからって、好きな相手に外堀埋めるなみたいなことを言い逃げしてきたとか、それただのアドバイスだろ。一体何しに行ってきたんだよ、お前。

机に突っ伏してばかやろーって唸ってばっかりだから、こいつに強引に付き合わされた友達も、帰り送ってあげてくんない?って呆れた顔をして帰っていった。
おい、お前が早く顔上げて帰ってくれないと、俺は姉貴に頼まれてる『ごろっとなんとかクリームパン』を買って帰れないの!売り切れてて買えなかったら俺が怒られるの!
机を軽く叩いて、帰るぞって声を掛けたけど、両腕で囲った顔はもっと真下に向いてしまった。なかなか傷は深いらしい。
髪の毛がさらさらと流れてこいつの着けて行った淡いグレーのピアスが見えた。

甘ったるい格好はしたくないけど、可愛いなとか綺麗だなって思ってもらいたいんだよね。
よく見ると甘い感じ、良いよね。しかも軽いし。
髪の毛、編み込んで行こうかな、それとも下ろして巻いた方がいいかな。
刺繍をメインで見せるか、タッセルのチラ見せでいくか、どっちがいいかな。

色々と準備して、こいつ楽しそうだったもんなあ。
あの時のテンションの高さと今とじゃ天と地だ。
不憫っちゃあ不憫だけど、こういうのも運みたいなもんだ。

こいつは俺が図書館の古くからの常連だってことを知らない。
こいつの話すあの大人しそうな司書さんのことも、意図せずしてお前を振った、司書さんに一目惚れした男の人のことも、俺はこの目で見ているから知っている。
俺だけじゃなく、実は図書館の常連のほとんどがあの二人のことを見ている。
あの人が司書さんに掛けるアプローチがことごとく空振りに終わっているのがもどかしすぎて、皆あの男の人を応援している。
こいつがあの人に一目惚れしたその日も俺は図書館にいた。
珍しい奴が来るもんだと遠目で見ていたら、あの人の前で表情を一気に変えるので俺はかなり焦った。

おいおいやめてくれよ、俺はお前が好きなんだぞ!

俺の焦った顔を見て、見えすぎてしまうっていうのも大変だねェって常連のおじいさんたちがカラカラ笑っていた。
振り返ったら好いてくれてる人間がいるのに。
司書さんも、あの男の人も、お前も、いい加減気付けっての!

みんなして一方通行だ。
オールオッケー、オールハッピーな恋愛ってないもんだろうか。
難しいよな、全く。

アクセサリー作家:ペルシッカ
『ringmini! -tassel-』


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