「企業の健康診断を成立させる」業務を受託して、断念して、見えてきたもの
私の知らなかった健康診断BPOの世界
iCAREの笹川絵美です。読み方は「ささかわ」が正式で、「ささがわ」と呼ばれるとちょっとムッとしてますが、顔には出てないと思います。
私は2020年の11月にiCAREに入社して、当時「健診チーム」と呼ばれていたチームに配属になりました。
(今はDirectionチームと名称変更していて、そこのマネージャーをやっています)
健康診断の検査を実施する訳ではないです、通常だと人事担当者様が行っていることが多い、「1年に1回 従業員に健康診断を受診させる事業者の義務」の履行を私たちが代わりに行うというのが職務です。
従業員さんに健康診断を受診してもらう。
それだけのことが、とんでもなく複雑で大変だということを私は2年間、ボコボコにされる感じで思い知らされました。
健保要件 × 企業要件 × 医療機関要件でパターンは無限
「健康診断」と一口で言っても、何をするのかは様々です。
基本的には、まず企業が所属している健康保険組合、いわゆる「健保(けんぽ)」の要件がベースになります。
健保ごとに独自で決めている検査項目や手続きがあり、それに則って健康診断を受けることで健保から補助金が出るので、企業の負担が軽くなります。
例えば人間ドックを普通に受けようとすると最低でも4万円程度はかかりますが、多くの健保が1万円以下で受けられるような制度を用意しています。
でもこの、健保の決まりごとがほんっとに健保ごとにバラバラで複雑で、無傷では攻略できない恐ろしいダンジョンなんです。
受診券を従業員1人1人に郵送しなければいけないとか、所定のコースを予約後に1人1枚の利用申込書を作成して健保と従業員にFAX送付しなければいけないとか、従業員さんが予約内容を変更したらそれも健保に申告しないといけないとか、とにかくムダに工数がかかる決まりを設定している健保も多いです。泣。
そしてもちろん、健保は健保で独自の決まりがあるとして、健保のどの制度を使うとか、この項目を入れたいとか、企業様側でも個別の要件をお持ちです。複雑さアップ。
医療機関は、基本的には企業が所属している健保と契約を締結している医療機関で受診してもらう必要があります。
(そんなことも、iCARE入る前は考えたことなかったなー)
そして、上記のように健保・企業ごとに要件がバラバラで複雑なのは医療機関さんにとっても大変で、契約している健保といえど内容を理解していないことも多く、事前にきちんと企業ごとの健診要件を書面で取り交わしているのですが、その通りにしてくれず、健保のコースで受診できてなかった・・みたいな事故もたまに起きます。号泣。
(どうすればいいんだ><)
かつ、一口に健保と契約している医療機関といえど、実は一部のオプション検査だけ契約がなかったり、予約の方法に医療機関独自の指定があったりと、医療機関ごとに個別の対応が必要になります。複雑さアップアップ。
そんな感じで、健診サポートビジネスは変数が多く、再現性が低いです。
鯛の三枚おろしができればスズキもいけるでしょう。
カレーが作れればクリームシチューも作れるでしょう。
でもA社の健診サポートした経験でB社の健診サポートを無傷でできるかというと、まあ、大概無理なんです。
もちろん、色々な経験をしてメンバーの対応力は格段に上がっているし、事故の回避は上手になっているし、叡智を集結して一定の業務改善は実現したものの、1400くらいある健保はどれも個性強くて、企業ごとに要件が違って、医療機関ごとに対応が違って、案件毎にイチから勉強スタートなのはどうやっても免れませんでした。
また、健診サポートを専門的にやることによる工数削減や、スケールメリットのようなものもほとんど出せませんでした。
むしろ、増えている工数もあるのです。
例えば企業の健診担当者様がやるのであれば例年使っている医療機関との調整は1本電話をして「昨年度と同じで今年もよろしく」程度ですんでいても、iCAREが企業様の代わりにやるとなれば、そういう訳にもいきません。
ちゃんと書面で要件を取り交わすのはもちろん、医療機関によってはiCAREがその企業様から受託している証拠の提出が必要だったり、別途特別な契約書が必要なこともあります。
IT企業である強みを活かして、予約の部分に関してはCarelyから従業員様が直接医療機関に予約ができ、iCAREが予約名簿を医療機関に送らなくても良いシステムが開発され、それ自体はとてもすばらしく、それで運用できた企業様にも大変好評いただいたものの、いかんせんシステムを導入してくれる医療機関がほんの一部しかいませんでした。
いまだに「予約はFAXでしか受け付けません」と大半の医療機関が言ってくるのです。信じられない世界です。
大概の企業様が全国に複数の拠点があり、複数の医療機関を使う必要があるなかで、システムを導入してくれる医療機関で完結できる案件はほぼなく、「A拠点はシステム予約だけどB・C・D拠点は人力予約」のようになり、従業員様へのご案内やオペレーションの複雑性が増し、全体としての工数削減は実現できませんでした。
そんなこんなで、業務を改善しても改善しても負担は重くのしかかり、とってもホワイトなiCAREで私のチームは過重労働者集団となってしまいました。
マネージャーとして、本当に申し訳なかったです。みんなごめん。
そして迎えた事業の一旦縮小と再チャレンジ
そういった背景もあり、様々な事情から、昨年度iCAREは「健診サポート事業の縮小」という大きな決断をしました。
新規受注を停止し、既存クライアントへも次年度からは健診サポートができませんとお詫びをしていきました。
iCAREはCarelyというクラウド健康管理システムの提供が基本サービスで、健診サポートサービスはオプションの位置付けです。
しかしながら、健診サポートを終了するとなったことで、精一杯の誠意をもって対応したつもりではありますが、Carelyのシステム自体を解約する企業様が大半となりました。
これはご期待いただいていた企業様には大変申し訳なく、残念な結果ではありましたが、一方で私たちが満身創痍になりながらやってきたことはやはり価値があったのだなと実感しました。
かように複雑な健康診断、やはり企業の健診担当者様のペインは相当大きいものになります。
しかし健康診断は悪なのか?
そんなことはありません、1年に1回総合的に検査を受ける義務があることにより、病気や不具合の早期発見につながり、救われる人もいます。
健康診断には翻弄されがちですが、上手に活用しきれば「働くひとの健康を創る」ことをエンパワーメントする存在になるはずです。
一旦は健診サポートサービスと距離を置くことにしたものの、必要としている方は確実にいらっしゃるので、今までとは別のスキームでサービスを再開することにしました。
まだまだ模索しながらではありますが、これからも健康診断と向き合い、iCAREのパーパスである「働くひとの健康を世界中に創る」を実現していきたいと思います!
笹川(ささかわ)でした。