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ありんこになりたかったあの子。

子供の頃の事だ、校庭の草むしりは割と好きだった。暑くて面倒だが、教室に閉じ込められるよりは遥かに気分が良かったからだ。

それに私は草むしりにちょっとした楽しみもあったのだ。

それは、草むらに寝っ転がったり覗き込んだりして巨人になったつもりでそのジャングルを眺めるという楽しみだ。(そのくせ草負けするのが玉にキズだったりもしたが)

でも本当はもっとちいさな生き物になって見てみたかった。それにはありんこが丁度良かった。私はありんこになりたかった。

ありんこからみた世界はどうだろう。この雑草は?ちっちゃな花は?てんとう虫は?この草むらをありんこになってみたらどんなふうに見えるんだろう?この草むらから見上げてみた空は、太陽はどう見えるんだろう?

そう考えてはわくわくしていた。

だから、草をむしるのはちょっと悲しかったりもした。私の楽しい世界がむしり取られ、荒野になるのは見るにたえなかった。

そうやっていつまでもむしらずにいると、こんな暑いのに何故か長袖に帽子を被った先生に(今じゃそれも何故か理由がわかるほど大きくなってしまったが)怒られた。“かけるさん!ちゃんとくさむしりしなさいね!遊んでちゃだめよ〜!”

私は今でも草むらやちいさな草花が好きだ。いわゆる雑草とか呼ばれる彼や彼女たちはとても神秘的だし美しい。名前なんかわからなくてもとても素敵だ。

大人になった今はその美しさやわくわくを少しでも記録に残せないものかとスマホのレンズを向ける。

周りから見たら変な人だと思うけど、そんなの構いやしない。

でも、本当はそんな事もかなわなかったあの頃の記憶の方が色鮮やかに残っているだけに、記録に残そうなんて思考をもってしまった自分自身を少し、寂しくも感じてしまう。

そうそう、とある時“なにか生まれ変われるならなにになりたいか”と訊かれ、“ありんこになりたい”とこたえたらめちゃくちゃ馬鹿にされたっけ。

だけどそれでも私はそんな私の感覚が好きだし、ちいさな草花たちやその世界が好きだ。



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