ピコピコハンマー物語 いとちゅうにて②
〜前回のあらすじ〜
みんなの憩いの食堂『いとちゅう』で大胆にもイタズラをしかけたタヌキとロボット。
最初の餌食になったのは犬戦士。しかし逆に死んだふりを仕掛けた犬戦士にまんまと騙されたタヌキ(と猫戦士)。惨劇は回避された。
しかし、ピコピココンビがしかけたイタズラは一つではない。
近頃仕入れた新兵器を試す恰好の機会とばかり、ほかのメンバーの食事にもなにやら仕込んだもよう。本当の惨劇はこれから、かもしれない…
---------------------「カーリーカーリーお肉♪岩塩とハーブをたっぷり振りかけた♪カリカリジューシーなお、に、く♪」
上機嫌で歌うバーバリアンと魔法使い。
「おまたせしましたー!バーバリアンさん直伝、マルグ猪の豪快焼き、いとちゅう風でーす!」
目の前に置かれたテーブルからはみ出さんばかりの大皿から、これまたはみ出しそうな大きな肉の塊に、歓声をあげる2人。
「うわーおいしそう!さすがいとちゃんですね!」
「お店で作れるようにアレンジしたら、だいぶ元と変わっちゃったのですけど」
「いいの!一度ものにしたらそれはもうあなたの料理だから。というか美味しければいいのよ!というわけでいっただきまーす!」
言うが早いか、さっそく肉の塊にかぶりつくバーバリアン。
「うん、お肉の臭みも感じないし、とってもおいしい!」
「やった!合格もらえました、ありがとうございます」
きゃっきゃとはしゃぐ2人をよそに慌てず騒がず、てきぱきとお肉を切り分けてみんなの味見用を用意してから自分の食事に手をつけた魔法使いも、口の中に広がるジューシーな味わいに顔をほころばせた。
「うん、本当においしいです!いとちゃん、このレシピ記録させてもらっても?」
「ええもちろん!魔法使いさんのコレクションに入れてもらえるなんて光栄です」
それでは、と魔法の杖をひと振り。たちまち光り輝く本が現れた。魔法使いが杖の先でページをなぞると、またたく間に文字が書き込まれていく。
「魔法使いちゃん、またページ増やすの?そろそろ上の人から怒られるんじゃ…」
「ええ〜、いくらでも記録できるんだから良いじゃないですか」
魔法使いは旅をしながら、世界の貴重な事象を記録する使命を担っている。ただ、興味の対象が幅広いためにあれもこれもと片っ端から記録して回っているため、情報を管理する部署は「こんな膨大な記録、誰が読むんだ…」と途方に暮れているらしい。
レシピの記述を終えると、魔法使いは満足げにほくそ笑み、食事を再開した。
…そのすきに、ピコピココンビが料理に何かを振りかけていったのには全く気づかずに。
「ヒック!ヒャック!」
バーバリアンがしゃっくりを始めた。
「あらら、大丈夫ですか?急いで食べるとしゃっくりが出やすいといいますし、おいしくてあわて過ぎました?」
笑いながら言った魔法使い、ここで大きなくしゃみをひとつ。
「シップゥ!」
くしゃみをした瞬間、皿の上の骨が飛んだ。
「シップゥ!」
お次は、皿がひっくり返る。
「シップゥ!」
店内を、つむじ風が走り抜けた。
「あら?どこかの窓をあけてましたっけ?」
お鍋をかき回しながらいとが首をかしげた。
「ヒック!魔法使いちゃック!それ風魔法ック!?」
しゃっくりの合間をぬって、バーバリアンが途切れ途切れにたずねた。
「わたしのくしゃみ、風の呪文に似てて…フワッ…ハッ…シップゥ!!」
今度は店内の窓ガラスがビリビリ震えるほどの風。舞い上がったパンを追いかける客の姿もあった。
「だんだん風が強ック!あぶないック!」
「と、とひあへずほほにへまふ!」
鼻をつまんで気休めにくしゃみを抑えながら、魔法使いは外に飛び出した。しゃっくりの止まらないバーバリアンもそれに続く。
「ふわ…ふわぁ…ふあっ…!」
「こんどのはすごい大きック!!」
危険な予感にバーバリアンは慌てて地面に伏せた。
と、そこへ巨大な影が!!
巨大な影の咆哮と、魔法使いのタメにタメた盛大なくしゃみが発せられたのは同時だった。
「グワァァァオオオ!!!!」
「シッ、シップゥ!!!!」
今度は風は起きなかった。
かわりに起きたのは盛大な地響きだった。
空中で真空状態になった風魔法によって切断された巨大な爬虫類の肉体が、次々に落下してきた衝撃である。
「あーーっ!!これ、幻のシモフリトビトカゲ!わたしも食べたことない絶品のお肉!!」
驚いたおかげで、バーバリアンのしゃっくりは止まったらしい。
「あら、そうなんです?これは棚ボタならぬ空ボタでしたね!わたしのくしゃみも今ので落ち着いたことですし」
のんびりと答える魔法使い。
「それじゃ、さっそくいとちゃんに料理してもらいましょ!」
「バーバリアンさん、お肉食べたばっかりですよ?」
「大丈夫!お肉は別腹なの!」
「さっき食べたのもお肉ですけど…どっちかというと追いお肉では?」
くすくす笑いあいながら、肉を捌く手つきは手慣れている。
結局、くしゃみとしゃっくりが止まらなくなったのがイタズラのせいだとは、ついぞ思い当たらなかった二人は、極上の肉を手に、ほくほく顔で店に戻っていく。
それを物陰から見つめるのは、もちろんイタズラを仕掛けたピコピココンビ。
「あーよかった…お店の中で魔法が炸裂しなくて」
胸をなでおろすロボットのかたわらでタヌキはよだれをたらしながら、食い入るように極上肉を見つめて言った。
「さっそくおこぼれにあずかりましょう、ロボットさん」
②おわり。
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