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こころをそだてるロボットのはなし(ピコピコハンマー物語)


誰もしらない、とおい昔のはなし。
この世界をまもるために、強大な力をもつ兵器を作ったものがあった。
兵器の威力は絶大だった。
ただし、問題があった。
脅威を取り除くために戦った兵器は、命令を遂行するために全てを破壊しかけたのだ。

その傷跡は深く、古い世界はゆっくりと終焉を迎えた。

兵器の作り手は、己の至らなさを嘆いた。
しかし、世界の脅威はいつか再び訪れることもわかっていた。
この先息を吹き返すであろう新しい世界に同じ轍を踏ませないため、作り手は兵器の力を封印し、代わりに心を与えた。
その「心」は兵器の外側にあった。
それは小さく、はかない生き物の姿をしていた。
作り手は、兵器に「心」を大切にまもり、育てるという新しい命令を与え、世を去った。
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ロボットは、途方に暮れていた。
博士に託されたこの「心」を、どのように扱ったらよいのかまるでわからなかった。

世界はたくましく、ロボットがかつて与えた傷を癒しつつあった。しかし世界のありようはすっかり違っていた。
傷の癒えてきた世界には、様々な命が戻ってきていた。それらの多くは、かつては存在しなかったかたちをとっていた。
大きな翼竜が上空を通ると、体の小さな「心」はおびえて頭を抱えた。そのとたん、ロボットの身体もガタガタと震え出した。そもそも呼吸などしないにもかかわらず、息がつまり、身体がこわばった。こんなことは初めてだった。
この生き物を生みの親が「心」と表現した理由をロボットは理解した。この小さな生き物とロボットは見えない力で繋がっており、生き物が感じたものが、ロボットにも伝わるように設計されていたのだ。
見慣れぬ世界に怯えるばかりの「心」を守り、育てなくてはならない。それが自分に与えられた最後の命令だったから。
ロボットは「心」とともに、まだ見ぬ世界をさすらった。

ロボットとは異なり、「心」は食事を摂らねば生きられないらしい。自分では何もできない非力なそれのために、ロボットは木の実を採って与えた。
ふとロボットはそれに向かい合い、自分も木の実をかじってみせた。「心」は目を丸くして、それからほほえんだ。ロボットの胸の中心あたりがじんわりと温かくなった。それは心地よい感覚であった。
心というものがすこしわかったような気がした。

(多分続く)


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