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キオ伝説

その昔

あるところでひどい年があった。
雨ばかりがふり、地面はいつもぬかるんで、人々は泥でできた人形と見分けがつかないほどだったと。
民は泥の中で働き、夜にはかつて家のあった場所へ戻り、やはり泥の中で眠る。そんな暮らしだった。
寺で飼われていたネコがいた。住職は首輪を外して野に放った。キオや、おまえの名のキオは、貴生とも書く。最期まで気高く、己の思うまま生きるがいい。
キオはその言葉を聞いたか聞かずか、一目散に飛び出して行った。

それからまもなく、空はぱたりと雨を降らすのを止めた。
それはキオが水神さまにその身を捧げたからといわれている。
キオは今でも「貴生さま」として、この土地で愛されている。

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