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こころをそだてるロボットのはなし②

ある時には猛獣に追われた。「心」が感じる恐怖と動揺によってロボットの冷静な判断力は阻害され、逃げ惑うことしかできなかった。
この時間が永遠に続くのではと思われた。
しかし、恐怖の時間は終焉を迎えた。ふたつの刃の煌めきによって。

「ヨシ!今日の晩飯はこれで決まり!うまいとこだけいただいてくぞ」
「えー、こんなでっかいのさばくの?僕みたいな細腕の美少年にはとても無理だね」
「その細腕とやらが軽々と担いでるバカでかい大斧はなんなんですかね!」

冷静さを取り戻したロボットは、この二人の獣人についていけば、当面の間安全であると判断した。

「猫さん。なんかついてきちゃったねえ」
「おーい、ついてきてもいいことなんかないから、家に帰った方がいいぞ」

声をかけられると身を隠し、またしばらくすると着いていく。そもそも、ロボットには彼らの話す新しい言語を理解できなかったため、意思の疎通を図ることを断念していた。それでも、身の安全のために彼らを利用させてもらうことにした。

「心」の方はといえば、ロボット以外の他人には初めて出会ったためだろう、彼らに興味を示して何かと接触を図っていた。

犬の獣人が手招きをした。
ちょこちょこと歩み寄った「心」の手に何か小さな粒を載せた。不思議そうに手の中でひかる粒を眺める「心」に目配せして、犬はそれを自分の口に入れてみせた。どうやら食べ物をわけてくれたらしい。
こういうときは礼を伝えるべきなのだが、あいにくかれらの言葉での礼の伝え方をロボットとタヌキは知らない。どうしたものかと考えあぐねているロボットをよそに、タヌキは貰った粒を口に放り込み、ゆっくりと味わい、犬獣人の目を見つめてにっこりと笑ってみせた。雲の切れ間から差し込んだ日差しのような笑顔だった。

なるほど、こういう伝え方もあるのか。
嬉しそうに微笑み合う両者を見比べて、ロボットはまた新たな気づきを得るのだった。


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