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親より先に死なない

未来の話をするのがこわい。

将来の夢、目標、人生観。
どんな人になりたいですか。どんな暮らしをしていきたいですか。
未来への質問をされる度に、今までずっと適当に答えてきた。

質問に対する答えは、何度考えても「親よりも長く生きること」が私にとっては今世のすべてで、生きる理由である。

極端かもしれないけれど、両親より一秒でも長く生きられたらそれで良い。
一秒でも先に死ぬことになったら、死んでも死にきれない。死んでも後悔するだろう。

私は四兄妹の末っ子として生まれた。
19歳上の兄、17歳上の姉、13歳上の兄、そして私。

長男は生まれつき心臓が弱く、私が生まれる前に亡くなった。

その数年後に私は生まれた。
家族はもちろん、親戚中が私の誕生を祝福してくれた。
我ながらたくさんの愛情を受けて育ったと思う。

成長するにつれて、自分の誕生前後の様子や、写真でしか会ったことのない長男の話を、家族や親戚から聞く機会が多くなっていった。
努力家で明るく活発、優しいがイタズラ好き、自然や動物が好きでみんなから愛される、そんな兄の存在が、徐々に私の頭の中では出来上がっていった。

私は兄の代わりである。
私は物心ついた時から、そんな兄のような人にならなければならない、という意識を持つようになった。誰もそんなこと頼んでないのに。

そこそこ器用に割と上手に兄の代わりになろうとやれていたのだが、日に日に自分に対してどこか虚しい気持ちが強くなっていった。

中学の頃、急に自分の中でなにかが爆発して空っぽになった。
学校には行かず、友達との関わりも切り、ひたすら引き篭ってしまった。

そんな中、親に全寮制の中学への転校を勧められ、あれよあれよと一人知らない土地で残りの中学時代を過ごした。
その中学は長男が通っていた学校で、こんな時でも私はやっぱり兄の後を追うことになるんだな、と虚しさが膨らんだ。

高校からはまた地元に戻ったが、以前ほど兄のようになろうとは頑張れなかった。ならなければ、という意識だけはあった。

意識すればするほどに私は私のことがよく分からなくなっていった。
好き、嫌い。したいこと、なりたいもの。好きな人、性別、一人称、喋り方。なんでも好きだけど苦手でもあって、よく分からないままその時々で適当に変わる。
私はすっかり空っぽになってしまった。


私のこの空っぽである感覚は、今でも変わることなく続いている。

上京して家族と離れてからもう長くなった。その中で出会った人やものと関わってきて得たものや感情。
今の私が持ってると思っている好き嫌いも、もしかしたら本当に好きでも嫌いでもないのかもしれない。

私はいつだって会ったことのない兄と共にずっと生きている。
そして正しい家族関係や愛情ではないかもしれないが、私は私の親と姉弟のことが心から好きだし大切に思っている。空っぽな私だが、きっとこの気持ちは本当だと信じていたい。

兄が亡くなった時、親が何度も死のうとしていた話を聞いたことがある。

私は私がよく分からないけれど、親に死んでほしくないというこの気持ちは本当なんだと思う。
だから私は生きるし、親より長く生きる。それだけが私の今世での目標だ。


今日2/23は母親の誕生日であり、私の誕生日でもある。
お誕生日おめでとう。これからも長生きしてね。

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