前の車を追ってくれる? 突然ごめんね、運転手さん。 私ね、警察。あ、シートベルトね。 捕まったらまずいしね。おたがいね。 口臭くない?さっきさ、らーめん。 ニンニク入れちゃってさ。 あ、前のトラック?宅配業者だよ。 大手なのに不届もんでさ。 ブツ盗って逃げられちゃってね。 この泥棒猫! って、黒猫便だけに。え?面白くない? あ、そう。ここだけの話ね 本当は猫っつーか蝙蝠だよアレ。 怖いねぇ、人の血吸うんだ。 気味悪いね。 血吸わないと健康でいられないからって
イタリア製のオーダーメイドスーツの着心地は最高だが、気分は最低だった。水と同じ。権力は高所から低所に落ちる。世の中は不公平だ。首から下げた巻尺の左右均等を測りながら男に告げた。 「首を吊るか、高飛びするか、選べ。仕立て屋には下手に出ておけよ。」 ホテルのスイート、政治家秘書は頭上の首縄より小刻みに体を震わせた。 「家族の安全は保証する。」 泣き崩れる秘書の背広は安物だが、ネクタイは妻の趣味だろう。悪くなかった。巻尺の長さが丁度整い、泣き声が止んだ。 ♢ 街の中華屋、
「今回の案件、折れましたが、無事解決いたしました。これどうぞ、サービスのジュースです。」 革ジャンを着た帳消し屋の青年、見た目のわりに口調は丁寧だ。その相方、金髪にピアスでパーカー姿の若者も前髪をいじりニヤニヤと口を開く。 「チャラついていても借金はチャラだ。」 軽口はさておき、数百万円の借金を数日でチャラにしたその腕は確からしかった。 帳消し屋は借金や消したい過去、悪縁、因縁などなんでも帳消しにしてくれる業者だ。裏稼業とは付き合い方を間違えなければこれほど頼りになる