「全医療機関における不妊治療の治療実績公開」のススメ
地元の代議士さんに質問主意書を出していただき、我が国において、体外受精を実施する全医療機関について治療成績が公開されていない理由が明らかになりました。
全文は
の96番をご覧ください。
まず、質問内容を、簡単にまとめると「体外受精の治療成績は医療機関ごとに大きなばらつきがある、アメリカでは全医療機関の治療成績を公開しているが、日本では公開されているのは一部の医療機関だけで、全医療機関の成績公開はされていない。公開する予定はあるか?」ということである。
それに対する政府側からの答弁の要点は以下のようなものである。
「治療成績には、治療技術だけでなく、患者の年齢や合併症等の個別的要因が大きく反映される。各施設の患者背景が異なる中で、治療成績を単純な数値で開示することは、医療機関側が予後不良な患者の診療を好まなくなる、治療登録が不正確になる、見かけの成績が高い施設に患者が集中する等の混乱等を招く可能性もある」
この点について、以下に私の個人的な考えを述べたい。
「治療成績には、治療技術だけでなく、患者の年齢や合併症等の個別的要因が大きく反映される。」 → その通りと思うが、適切な情報公開の仕方を講じれば、「各施設の患者背景が異なる中で、治療成績を単純な数値で開示することは、医療機関側が予後不良な患者の診療を好まなくなる、治療登録が不正確になる」などの事態は避けられるように思う。
具体的には、個別の医療機関の治療成績を公開する際に、年齢別・不妊原因別の治療成績を公開したり、患者のうち初めて体外受精を行う患者の割合を合わせて公開したりするのがよい。そうすれば、患者の側も、「このクリニックは見かけ上の妊娠率は低いけれど、高齢の患者を多く治療しているからだ」「この病院は、初めて体外受精を行う患者の割合が低く、繰り返し移植に失敗する難しい患者を多く診ているから治療成績が低めなんだ」 と理解できるはずだ。
以前、各国の体外受精の治療成績の情報公開状況を調べてnote記事にまとめたが、そこでも紹介したオーストラリアのYourIVFSuccessなどでは、"はじめて体外受精をする患者の割合"や"出産を経験済みの女性に対する治療周期の割合"を全国平均と各医療機関について公開している。
また、アメリカのCDCのサイトでは、細かい不妊原因(例えば男性不妊)別の治療成績も公開されている。このような諸外国の情報公開の取り組みを見習うべきだろう。
また、Do markets respond to quality information? The case of fertility clinics という論文で、Bundorfらは、アメリカにおける生殖補助医療を提供する医療機関の治療成績についての情報公開が与える影響を調べている。その結果、Bundorfらは
情報公開後は、出産率の高い医療機関のシェアが増えていること
情報公開後は、不釣り合いなほど若く相対的に治療の容易な患者を診ている医療機関のシェアが減っていること
を発見した。この論文を信用するならば、患者は公開された治療成績を見るときに、見かけの成績だけでなく、患者の分布も考慮しているということなので、返ってきた答弁が言うところの「見かけの成績が高い施設に患者が集中する」ということは心配しなくてよいのではないかと思う。
引き続き、我が国における体外受精の治療成績の公開状況について目を光らせていこうと思う。
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