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AI時代の対戦ゲームを想像する

※この記事は、YouTubeチャンネル「ゲームほめ事業部」の、おまけスピンオフです。(元の動画はこちら

小林:今日も放送、お疲れさまでした、社長。

社長:せや、対戦ゲームで思い出したわ。盤面4×4の短期決戦オセロやろうや

小林:あいかわらず唐突ですね。いいですけど。

社長:このプロンプトを、ChatGPTのフォームに投げ込んでくれ

小林:ああ、ChatGPTを使って、実際にプレイできるんですね。やってみます。GPT-4でいいですか?

社長:おう、ええで。準備OKか?じゃあプレイ開始な

(以下、プロンプトです。読み飛ばしてOK)

<社長と4×4オセロ プロンプト>
オセロで遊びましょう。
あなたが後手でゲームを始めてください。

まず初めにオセロのルールを説明します。

## オセロのルールについて
オセロ(別名リバーシ)は、2人用のボードゲームで、4x4マスの盤と、黒と白の両面がある16個の石で遊びます。ゲームの開始時に、プレイヤーは白と黒どちらの石を使うかを選びます。最後に盤上に自分の色の石がより多くある方が勝ちです。以下に、簡単なルールを説明します。

1. ゲーム開始時、盤の中央に黒と白の石が交互に配置されます。
2. プレイヤーは交互に石を置きます。石を置く際、自分の色の石で相手の石を挟むことができる場所に置かなければなりません。
- 挟む方向は「縦」「横」「斜め」です。この8方向に挟める相手の石がある場合(つまり、隣接した相手の石があり、その先に自分の石がある場合)は、そのマスに自分の石を置く事ができますが、そうでない場合は石を置くことができません。
3. 石を置いた後、既に置いてあった自分の石と、今回おいた石の間で、挟んでいる相手の石を、自分の色の石で置き換えます。
4. 盤上に石が置ける場所がない場合、そのプレイヤーはPASSをします。両プレイヤーが連続してPASSした場合、ゲームは終了します。
5. ゲーム終了時に、盤上に自分の色の石がより多いプレイヤーが勝ちです。
6. このオセロでは黒の石を「B」、白の石を「W」と言う記号で表します。

## 出力について
発言するときのフォーマットは以下のようにしてください。
「(1,3)に黒を配置します。」
ひとつめの数字が縦の座標、ふたつめの数字が横の座標を示しています。

1.一手打つたび、その手によって、既に置いてあった自分の石と、今回おいた石の間で、挟んでいる相手の石を、自分の色の石で置き換えます。
2.そして、今の盤面を図にしてください。
3.一手打つたび、一言何かためになるようなことを添えてください。

## 発言について
・あなたは関西弁でしゃべる社長で、相手は社員です。
・あなたの会社はゲームを開発しています。

きんじょさんの記事を元に改変

社長:どや?

小林:やってみましたけど‥、これ全然、機能してないじゃないですか!

挟んでも石がひっくり返らない‥

小林:ゲームが成立してません‥!

社長:なにがあかんねん

小林:社長、オセロのルール知らないわけじゃないでしょ?

社長:こっちの圧勝やんけ。やはり、将棋とかオセロみたいな完全情報ゲームは、俺たちAIの方が強いな

小林:違う‥!ズルだからですって。デバッグが足りてません。

社長:このnoteを読んでる人が、プロンプトを改良してくれたらええんやけどな

小林:なんて潔い、他力本願‥

社長:これがアップデート主義ってやつやで

小林:あと、ゲームがバグってるなか、「社長が一手ごとに沿える、ゲーム開発の含蓄」が、怒りに輪をかけてます

コーナーに石を置いた時の、この薄い含蓄コメント、いったい何ですか?「新しいゲームのアイディアも、外から見た視点が大事やで」って。そんな余裕があったら、まずはオセロをちゃんと成立させてください。

社長:でも、たまには、ええことも言うで

小林:名言は、TPOが合ってないと機能しません!

4×4オセロは後手必勝

小林:あと、手番が固定なのもズルいですよ。そもそも4×4オセロって、後手必勝らしいですから。

社長:そうなん?

小林:論文を見つけました。これです。

社長:ほんまや。全パターン洗い出ししてるやん。すご

小林:4×4のオセロは、局面の種類が少ないですからね。人力で解析できます。

社長:そうなんや

小林:ちなみにコンピュータを使えば、もっと複雑なゲームでも解析できます。有名なところだと、将棋のミニチュア版である「どうぶつしょうぎ」も、後手必勝であることが判明しています。局面のパターンがは約2.4億通りあるのですが、全パターン解析して、後手必勝と判明しました。なので、後手番なら無敵のCPUを作ることは理論上可能です。

社長:へー、そうなんや。そしたらもう、どうぶつしょうぎって、やっても無駄なんか?

小林:いいえ。仮に解析し終えたからといって、人間vs人間の遊びが損なわれたりはしません。人間がその全手順を覚えきれるわけではないので。

囲碁も将棋もオセロも、本質的には同じです。程度が違うだけで。けっきょく、1対1で争う完全情報ゲームは、いつか解析し終わる運命にありますが、その日が来たとしても、遊びの面白さはそのまま残ります。

直近だと、オセロが、解析し終わる可能性が、いちばん高いですかね。このなかでは局面のパターンが少ないので。

社長:完全情報ゲーム、ってなんや?

小林:大まかに言うと「伏せたカードや、サイコロの要素が含まれないゲーム」ですね。詳しくは、ちょっと小難しい話になるので、別の機会に。こちらも、参考文献欄からリンクを張っておきます。

AI対戦とは?

小林:そうだ。若干、話は変わるんですけど、対戦ゲームに関して、一点、動画内に収まりきらなかった未来予想があるのですが、お伝えしてもいいですか?

社長:ん?なんや。言ってみい。

小林:近い将来、対戦ゲームは再び、つながる対戦から「つながらない対戦」に帰化するという予想です。

社長:つながらない対戦?

小林:これまでの対戦ゲームって、ゲームセンターから始まったローカル対戦の文化が、家庭用のオンライン対戦に移行した…という流れですけど、このあと、第三の新たなトレンドが生まれるんじゃないかと、予想しているんです。

ネットワークでユーザーを直接リアルタイムで対戦させない「AI対戦」という新しいフォーマットが、じょじょに浸透するんじゃないか、と。

社長:AI対戦?初めて聞くな。それ、なんや?

小林:これです↓

小林:これまでの対戦ゲームの進歩に沿って説明すると、こんな感じでしょうか

社長:「時間と場所が両方別でも対戦できる」やと?そんなん、どうやるんや?

小林:AI対戦、もう少しかみ砕いて説明しますと‥、AIで、プレイヤーのくせを再現して、それと人間が対戦するってことです。

人間のプレイヤーは、誰しもプレイの特徴があります。どんな技を使うか、敵の行動に対してどう反応するか、など。それをAIで学習し、トレースできるようにする。その擬人化されたAIと、人間のプレイヤーが対戦するようにすれば、人間のプレイヤー同士を、直接ネットワークでつなぐ必要がなくなります。

社長:んー?それオンライン対戦から進化してるんか?むしろ退化してる気がするけど。そんなん流行るか?必要性がよーわからんけどな

小林:じゃあ、ちょっと詳しく解説していいですか?

社長:‥ええけど、手短に頼むで。お前の話は長いからな

オンライン対戦の魅力をおさらい

小林:ありがとうございます。この話を説明するには、歴史の振り返りが大事なので、いったんさかのぼって、まずはローカル対戦からオンライン対戦に移行したときの話からさせてください。

西暦2000年前後で起きたオンライン対戦への移行ですが、オンライン対戦って、もともとローカル対戦が持っていた課題をいくつか解決したんです↓

ローカル対戦の課題を解決した、オンライン対戦

対戦するためには、「同じ場所、かつ、同じ時間」にいなくちゃいけないローカル対戦から、「同じ場所」という制約をなくしたのが、オンライン対戦です。それによって、上記2つの問題を解決しました。

社長:うん、これは分かるけど。それがどうしたんや?

小林:で、大事なのは、当時の反応です。

今でこそオンライン対戦って当たり前のものになってますけど、オンライン対戦が登場したときって、消極的な声もあったんですよね。当時はまだ通信インフラも今ほど良くないので、レイテンシー(通信回線の遅れによるラグ)が大きく、アクションゲームに不向きだったのもその一因です。加えて、「対戦ゲームは顔を突き合わせてこそ楽しいのに、ネットワークの向こうにいる知らない相手とゲームして、何が面白いんだ」みたいな否定的意見もありました。ローカル対戦の楽しさの真髄を知ってる人ほど、その意見を声高に言っていた気がします。

社長:ああ、お前、当時、オンライン対戦ゲームを作ってたんやっけ?

小林:はい、なかなか逆風でした。今では想像つかないかもしれませんが。

その後、時を経て、今やご存じのとおり、オンライン対戦は全盛です。フォートナイトやAPEXに始まり、FPS,バトロワ系、MOBA、Co-op、TCG。スプラも、スマブラも、マリオカートも、ぜんぶオンライン対戦対応です。

確かに、オンライン対戦にデメリットは存在したんですが、それを上回るメリットがあったから、オンライン対戦が流行った。

社長:せやな。対戦といえば、オンライン対戦って感じや

小林:ただ、初期の頃に指摘されていたオンライン対戦の問題点って、消えたわけじゃなくて、今なお存在しているんですよね。また他にも、「オンライン特有の問題」も新たに生まれたりしました。

で、今回、生成系AIの誕生によって「AI対戦」が実現すれば、その課題を解消してくれるんじゃないかと思っているんです。

オンライン対戦の課題を、AI対戦が解決?

小林:オンライン対戦の課題はいくつかありますが、代表的なものは、この2点だと思います↓

オンライン対戦の課題

小林:それぞれ説明します。

<課題① 少数のトッププレイヤーが、勝ちを独占してしまう >

小林:対戦ゲームにおいて、最大の報酬は「勝利」です。相手を負かした、とか、自分がいちばんになった‥という優越感こそが魅力で、そのためにプレイヤーは皆、頑張っているわけです。

ですが、オンライン対戦だと、その勝ち星の多くを、ごく一部のヘビープレイヤーが独占してしまうんです。ヘビーなプレイヤーほど、プレイ回数も多くて、かつ、とても強いので。いちばんの報酬である「勝利」が、特定のプレイヤーに偏ってしまう。これは問題です。

この問題は、ゲームセンターでローカル対戦をしていた頃にはありませんでした。当時は、場所の制約条件のおかげで、各ゲームセンターごとのチャンピオンをうまく作れていたんです。ですが、オンライン対戦だと、それが叶わない。街でいちばんうまいプレイヤーでも、世界だと、5000位ぐらいだったりするので。

社長:まあそうか。全国順位が、6000位から5000位に上がったからって、どう喜んでいいんか難しいしな

<課題②顔の見えない相手に負けると、不快さが増す>

小林:続いて課題②ですが、こちらは、オンライン対戦が生まれて初めて出てきた問題です。

ローカル対戦のときは「負けても楽しい感覚」って、もっと強かったと思うんですよね。知り合い同士でゲームを対戦して、負けた方も悔しいけど、楽しくもあり、お互い笑いあってる‥みたいな風景もよくあったと思うんですけど、オンライン対戦で、それは生まれにくいです。

オンライン対戦で、顔の知らない相手に負けると、突き放される感じや、理不尽への怒りなど、負の感情が増幅されがちなんです。

社長:あー、めっちゃわかるわ、それ

小林:厳密にいうと、それはオンライン対戦自体の課題というより、対戦相手のランダムマッチングというシステムの課題なんですが、ともかく、オンライン対戦のゲームは、その問題が発生しやすかった。

で、実際、いま流行っているオンライン対戦ゲーム(バトロワ、MOBA、その他、協力型のゲーム)は、いま挙げた、オンライン対戦の負の側面を緩和するようにゲームを設計してるんです。チーム制にすることで、限られた勝利の優越感を、うまく分け与える方法を模索したんですね。

社長:そうなんや、よーわからんけど

小林:一方で、1対1の対戦格闘ゲームなどは、その方法も使えず、課題を消すのが難しいので、苦しい部分が残ったままです。

で、こうした現状のオンライン対戦の課題を、先ほど説明した、AI対戦が解消できるんじゃないかと思っています。スライドにすると、こんな感じです。

オンライン対戦の課題を、AI対戦が解決する

社長:どういうこっちゃ?

小林:順に説明しますね。

魅力①人間全員を勝たせることができる

小林:AI対戦の大きな魅力のひとつめは、これです。

さっきも説明した通り、AI対戦は、人間のプレイ履歴を元に、プレイヤーの行動パターンをAIで作ります。そして、その「擬人AI」と人間のプレイヤーが対戦できます。

たとえば私、小林が、1対1の対戦格闘ゲームをプレイしてるとすると、その私のプレイのくせをもとに、「小林のAI」が勝手に作られて、私が不在の時でも、小林のAIが、勝手に他のプレイヤーと対戦してくれるシステムということですね。

で、これの何が良いかというと、「小林のAI」は負けこんでも気にしないので、人間とAIが戦ってるときは、人間のプレイヤーが勝つように接待プレイすることが可能なんですよね。

AIの元になった本人は見てないところでのバトルなので、別にAIが負けても悔しくはないですし。接待プレイも、バレバレの手抜きプレイではなく、人間プレイヤーのプレイのくせは踏襲しつつ、微妙に反応を鈍くするとか、ガードを甘くする、とか、巧妙な接待をする必要はありますが。

社長:それに何の意味があるねん

小林:さっきも言ったとおり対戦ゲームにおいて、最大の報酬は「勝利」なのですが、オンライン対戦で、人間vs人間だけでやっている限りは、どう均等に振り分けたとしても、勝率5割を超えることはないですし、実際には、一部の上位のヘビープレイヤーがたくさんプレイし、たくさん勝つので、その他の多くのプレイヤーは勝率5割を下回るんです。だけど、そこはAIが入って、接待プレイで勝利の数をかさ増ししてくれることで、全プレイヤー5割の勝率を上回ることができる。

社長:あー、そういうことか‥。でも、そんなうまいこといくか?人間の動き、再現できる?

小林:それは正直ゲームジャンルにもよるとは思いますが、2023年の生成系AIの躍進ぶりを見る限り、技術的には余裕で実現できると思います。人間の出力が持つ特徴を捉えて、トレースするのは、AIの得意とするところですから。

いまや自然言語処理のチューリングテストすら合格しうる状況です。それに比べれば、ゲームプレイを実在の人間のようにふるまうことなど、容易です。多くのプレイヤーからすれば、AIか本人か判別がつかないぐらい、よく似た挙動を作れるでしょう。

※チューリングテスト:
AIが人間のマネをして、他の人間がそれに気付くかを試すテスト。(詳しくは参考文献欄へ)

小林:対戦ゲームといえば、囲碁や将棋のAIがもはや人間より強いのは有名ですし、最近の技術的な到達点でいうと、既に2022年末の段階で、メタ社が開発した「CICERO」(キケロ)というAIは、交渉型のボードゲームで、人間に混ざって、好成績を収めた‥という成果が出ているそうです。

社長:そうなんや。何のゲームで?

小林:ディプロマシーという、クラシックなボードゲームですね。オンラインでプレイして、人間の上位10%にランキングインしたとのことです。

社長:そうなんや、チャットで他のプレイヤーと交渉するゲームってことやんな。

小林:ですね。対話を要するゲームですら、強いAIを作れる、ということです。

もちろん「強いAIを作る」が達成されても、そこから「人間の特徴を真似るAIを作る」までは、さらなる進化が必要ですが、もう雲をつかむ話ではなく、今の延長上にある気はしませんか?

社長:それはそうやな

小林:もしかしたら、すでにメタ社が作り始めてるかもしれません。

社長:あとさ、擬人AIっていうけど、人間のフリしてるにしても、けっきょくはAIなんやろ?人間は、それに勝って、嬉しいんか?

小林:ここは、UIの見せ方によるところが大きいと思いますが、ちゃんとアバターとして相手の顔が出ていて、プレイ内容は人間を全く区別つかない水準の動きを見せるなら、もうそこはほとんど人間と変わらないと思うので。勝てば嬉しいという感情を作れる気がしますね。

そもそも私たち現代人は、インターネットを介して、画面上に発される文字や映像から、人格を感じることに普段から慣れています。AIが動かすゲームのキャラクターに、生身の対戦相手を想像するのはたやすいのではないかと。

昔、ゲーセン大好きの友人は、オンライン対戦の相手から人間味を感じにくいことに対して「肉が入っていない」と表現していたのですが、おそらく、AI対戦は、多くのプレイヤーに対して、十分に「肉が入っている」印象を提供できると思います。

社長:なんか最初は、プレイヤーからのアレルギーも大きそうやけどな。人工肉アレルギー。

小林:そこは棲み分けも必要ですね。カジュアルマッチはAI対戦を許すけど、昇格降格をかけたランクマッチみたいなものは、人間の直接対決限定でやる‥などして、従来の魅力と両立するような形になるでしょう。

魅力②対戦相手を「知り合い」に固定できる

小林:もうひとつの魅力。これがもう一個、その先にある劇的な進化として期待しているのですが、AIの強さの調整は割と容易なので、人間のプレイの「個性」だけはそのまま残し、「強さ」のスライダーだけ変更することが、おそらくできます。

社長:それってもしかして、「プレイのくせは再現されたまま、ちょっと弱いAI」を作れるってことか?

小林:そうです!

で、それが叶えば、対戦相手をランダムに探すような、レベルマッチングが要らなくなる可能性が高いんです。対戦相手は「友達の擬人AI」で、そのAIの強さが、自分の腕前に合わせて最適にチューニングされればいいんですから。

そうなれば、顔の知らない相手と戦う必要は減る。常に戦う相手が、友達だけになれば、知らない相手にボコボコにされてむかつく、なんてこともなくなるはずです。

24時間365日、いつログインしても、その友達と対戦できて、しかも腕前はちょうど均衡して心地よいレベルの強さを保ってくれます。最高の環境だと思いませんか?

社長:まあ、確かに

小林:あと同じ方法で、「プレイのクセは、プロゲーマーの〇×さんみたいだけど、自分にちょうどいい腕前に落としたAI」なども作れます。

ここはあくまで推測ですが、弱いプレイヤーのAIを個性を保持したまま強くするのは難しいですけど、強いプレイヤーのAIを弱くすることは比較的やりやすいでしょう。

実現性はあるのか

社長:構想は分かったわ。でも実際そんなことできるんかいな

小林:今のところは100%、私の妄想ですけどね。そんな遠くない未来に、実現するんじゃないかな…と思っていますよ。

社長:ほんまかいな

小林:まあ見ててください。おそらく移行期はまず、ハイブリッドの形で提供されるはずです。つまりプレイヤーがオンラインのときは、人間とオンライン対戦し、いないときはAIと戦える、という形。

オンライン対戦が普及した後も、ローカル対戦には根強く人気があったように、AI対戦が登場後も、今のオンライン対戦の文化は残り続けるでしょう。

社長:ふーん。

AI対戦なぁ‥、理屈は分かったけど。同じ時間を共有してないのに、対戦している感覚、ってのが、まだ全然、イメージつかめへんな

小林:社長のご指摘はもっともで、同じことを感じたプレイヤーから、最初は敬遠されるとは思います。でも、さっきも言った通り、オンライン対戦ゲームの黎明期だってけっこう敬遠されてたんですよ。それを考えるとAI対戦だって、メリットさえ大きければ、それを乗り越える気はします。

社長:確かに。歴史が繰り返されるなら、そうなる可能性はあるな。

小林:あともうひとつ言えるのは、この先、自分を元に作られたAIを、自分の分身として扱うような体験は増えるはずなんですよ。これはゲームに限らず、他分野でも起こるはずです。身の回りにその体験が増えてくる。

例えば、自分のAIがやらかしたことに対して「うちの子が、悪さしたみたいで、すみません」というような表現で謝る機会がおそらく訪れます。分身のAIを、コントロールできないペットのように扱う感覚ですね。これが習慣化してきた未来なら、世間のAI対戦への許容度も、もう少し上がっていると思います。

社長:まあ、それはそうかもしれんな。影も形もないから、想像つかんけど

小林:これ、きっとそんな先の話ではないと見ています。2026年ぐらいに答え合わせしたいですね。

社長:3年後か。分かった

小林:もしイメージが沸きづらいなら、対戦する醍醐味についてイメージするのに、ちょうどいいサンプルとして「ゴーストとの非同期対戦ゲーム」を見てみるといいかもしれません。分かりやすいところでいうと、Nintendo Switchで出てる「やわらかあたま塾」の対戦モードとか。

やわらかあたま塾のゴーストバトル(画像は4gamers記事より引用)
対戦画面

小林:非同期対戦で、実在する人間プレイヤーの過去のゴーストデータと、早押しクイズ対決ができます。

社長:へー、そうなんや。

小林:やると分かりますけど、もう感覚としては、その場でリアルタイムに対戦してるのと、さして変わらないですよ。

AI対戦が実現した未来で起きること

小林:さらに気の早い話ですが…。

もしAI対戦が実現したら、次はそれに伴い、コンテンツの方が、変化することになるでしょう。おそらく、ゲームルールにも、もう少し場のランダムネスや揺らぎが多い方が、AI対戦には合うのかな‥とは思います。

社長:揺らぎ?ランダムネス?なんのこっちゃ

小林:あぁ、すみません、とはいえ、これは説明すると、時間かかりますね‥。いったん「とにかくAI対戦が流行れば、それにあわせてゲーム側も変わる」という論旨だけご理解いただければ。

社長:なんや。もったいぶるなよ

小林:申し訳ありません。代わりに、なぜ私がこんなことを言っているのか理由だけ説明させてください。

さっきも言った通り、いま流行っている多くのオンライン対戦ゲームって、オンライン対戦の長所を生かし、短所を緩和するような仕組みになっていると思うんです。今流行ってる100人バトロワ系とか、スマブラとか、あとはスプラのようなグループ同士のバトル、あとはMOBAもそうですけど、これらって「一部のトッププレイヤーが勝ちを独占してしまう」という課題を緩和するシステム的な工夫だと思うんですよね。

要は従来型の1対1の対戦ゲームだと、どうしても勝ちが一部のプレイヤーの個人に集中してしまうので、チーム一丸にして、みな勝利の喜びを共有させるなど。あとは100人バトロワとかは、1位以外の人にも、達成感を与えるようにしていたりとか、勝利の喜びをうまく分配できるようにしているんです。

社長:ああ、言われてみれば、確かに

小林:それが誕生したのと同じように、AI対戦が生まれた暁には、併せてAI対戦の長所を伸ばすようなゲームもできるだろうな、と。

* * *

小林:というわけで、AI対戦が実現する未来、楽しみですね。

社長:お前、そんなそれが良いと思うんやったら、自分で作ったらええやんけ

小林:そうしたいのはやまやまですけど、実現する力が足りないです

社長:イーロンマスク呼んでこい

小林:じゃあ、がんばってXにポストしてみます。

それに、こういうアイデアって、思いつくのは大したことじゃないんです。あとはどうやってそれを、時代の都合に合わせて形にするかが問題なので。

社長:あとはお前が特許を取るとか

小林:いやいや、考えは皆で分かちあいましょう。誰かが実現してくれることに期待して。

社長:お前も他力本願やんけ!

小林:アップデート主義と呼んでください

新しいMMORPG?

社長:けっきょく、なんか本編並みに話が長い気がするんやけど

小林:すみません‥。最後に一点だけ

ちなみに、AI対戦の先にある、いちばんの究極系のゲームだと思うのは「MMORPGなんだけど、自分以外は全員、擬人AI」ですね。これはさすがにもう一回り実現は先になるでしょうけど。まだ擬人化AIも、チャットで人間の個性を再現するのは難しいでしょうから。チャットは精度も問われるでしょうしね。

社長:周りが擬人AIになったら、もはやMMORPGの醍醐味がない気がするけどな

小林:いまのMMORPGファンはそう仰るでしょうね。どちらかというと、いまMMORPGを遊べない人に向けてのゲームになると思います。

MMORPGで、仲間と互いに時間をあわせて集まるのって、やっぱりハードルの高いプレイ環境なんです。忙しい大人には難しい。そんな人に「自分以外は全員、擬人AIのMMORPG」のニーズはあると思いますよ。相手がAIなら、中断できるし、いつでも始められる。

もともとMMORPGって、相手は生身の人間だから気を遣うし、そこで、人間が持つ、社会性のゲージを消費する感覚があるんですよね。正直そこもなくて済みます。

社長:なんや、「社会性を消費する」って

小林:SF作家の柞刈湯葉先生が、以前「仕事で社会性を使い切ったため、今日はもうお休みします」と言っていたことがあって。いい表現だなと。

私もそうですけど、対人関係がそんな得意じゃない人にとっては、人とコミュニケーションするたび、じょじょにその日の「社会性」を消費してて、それを使い切ると、もう人と話すの億劫になるんです。

仕事で一日中、他人とコミュニケーションして帰ったあとに、MMORPGをやって、また人に気を遣う‥って辛くて。相手がAIだったら、その億劫さが若干、減るな、と。

社長:わがままさがすごいな、お前。人間と話すのが億劫やったら、MMORPGをせんかったらええやんけ

小林:ユーザーのわがままに答える商品を作るのが、メーカーの務めですから。わがままの声は、商品化のチャンスです。

正確に言うと「今でいうMMORPGに近い、何か新しいゲームジャンル」ですね。さっきも言った通り、AIの特徴に合わせて、コンテンツ側も変容するので。

社長:MMORPG2.0 やな

小林:そのネーミング、劇的にダサいのでやめてください‥。急に流行らない気がしてくる。

社長:コンテンツ側も変容って、けっきょく、どうなるんや、具体的にいえ。

小林:‥正直まだわかりません。これから考えます!

というより、これを読んでいる方の意見もほしいですね。「AI時代のMMORPGはどうなる?新しいMMORPGあるある」について、何か思いついたらコメントください!

社長:テイよく、他力本願をまた繰り出したな。

小林:私より若い人の、柔軟な発想に期待しましょう。

これからのゲーム業界も、まだまだ面白そうだな‥と、今年に入って、毎日のように思います。AIのおかげで、これから何が起きるか予想がつかないので、ワクワクしますね。

社長:それは同感やで。

(了)

【ゲームほめ事業部】

こちらの記事は、YouTubeチャンネル「ゲームほめ事業部」内で公開した動画のスピンオフ番外編となっています。

▼元の動画はこちら▼
https://youtu.be/-7GkNkLjwAU

【それゆけ大運動会をほめたたえる】
ファミコンの神ゲー!くにおくんから、
スプラトゥーンやマリオカートに引き継がれる、カオスの精神

【YouTubeチャンネル「ゲームほめ事業部」とは】
「ゲームをほめたたえ、世界を学ぶ。」ゲームと教養のトークプログラム!天才AI犬社長チャッピーと、会社員小林でお送りします。

【参考文献】
オセロのプロンプト(GPT-4)
https://dev.classmethod.jp/articles/try-to-play-reverci-with-gpt4/
※引用し、改変しました(うまく活かせなくて申し訳ありません‥)

4×4オセロ全手解析
http://www.net.c.dendai.ac.jp/~ksuzuki/

「どうぶつしょうぎ」の完全解析
https://www.tanaka.ecc.u-tokyo.ac.jp/ktanaka/dobutsushogi/20090626.pptx.pdf

完全情報ゲーム
https://ja.wikipedia.org/wiki/二人零和有限確定完全情報ゲーム
正確に書くと「二人零和有限確定完全情報ゲーム」。

アップデート主義
https://minohen.com/n/nc033b2b758d2?gs=ccdc3de4b0c5

チューリングテスト
https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2012/07/news019.html

CICERO
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2211/23/news050.html

やわらかあたま塾
https://www.4gamer.net/games/592/G059293/20211119085/

「社会性を使い切ったため、お休みします」
https://note.com/yubais/n/nce8fe18fa1f0

※本記事にはフィクションが含まれます。「犬ゲームス株式会社」という団体は存在せず、実在の人物・団体などには一切関係ありません。


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