第1話 シナリオ案

〇リビング・ダイニング(PM 3:30)

 アクとキャン(台所側)、ジェミ(バルコニー側)はテーブルに座っている。
 きいろ、カメラでリビングの家財道具を次々と撮り、最後にカメラで三人の姿を捉える。

きいろ「このおうちとこちらのみなさん、なんか不思議な組み合わせですよねー」

 きいろ、内カメラに切り替える

きいろ「みなさん、気になりません? だからズバっと訊いちゃいます!」

 外カメラに切り替えアクにカメラをぐっと近づける。
 驚いたアクは軽く仰け反り手で軽くカメラを遮る。

きいろ「質問があります!」

アク「……なんでしょうか」

きいろ「ここにあるもの、みなさんの持ち物じゃないですよね?」

アク「(困惑)あっ……ああーそうだ、そう元の住人は夜逃げしたそうなんですよ」

きいろ「夜逃げ?!」

アク「ええ、家財道具をすべて置いて。それでこの家を買った業者がそのままシェアハウスにしたそうです」

キャン「だからここ家賃、格安だったりするんだよね!」

きいろ「おお! 事故物件ってやつですか!」

 きいろ、キャンにカメラを向けて。

きいろ「ズバっと訊きます! おいくらですか?」

 キャン、アクに視線を走らせる。目が合ったアク、キャンを軽く睨む。

キャン「……そ、そこは大家さんに訊いて」

きいろ「ええー、ダメですか?」

キャン「け、契約で言っちゃダメって」

きいろ「そうですか……」

 肩を落とすきいろ。
 ふとなにかを思い出したきいろは勢い良く身を起こし、上を指差した。

きいろ「じゃあ、上のあんしつ……でしたっけ、あのテープでバッテンしてある……」

ジェミ「(強く)ダメっ!」

 ジェミを一瞥したアク、薄笑いを見せ、きいろを向く。

アク「興味ありますか?」

ジャミ「(椅子から立ち上がって)ダメって言ってるでしょ!」

 きいろは馬耳東風な様子。

きいろ「(ついにきたあ、面白いものが撮れるかも!と興奮気味に)……あ、あります!」

ジャミ「なんでわからないの!」

アク「(にっこりと笑って)それでは、ご自分で確かめてください」

〇廊下(PM 4:00)

 暗室前の扉にカメラを構えテンションの高いきいろを前にして背後にアクとキャン。少し離れて壁によるかかるジャミ。

きいろ「じゃーん、来ちゃいました! いやあ、あやしいですねー。ここになにがあるんでしょうか。入ってもいいですか?」

 きいろの背後からアクの「どうぞ」という声が被る。

〇暗室

 扉を開けると部屋は真っ暗。
 廊下から差し込む明かりでうっすらと部屋が見渡せる。
 きいろはカメラを部屋に差し入れてあちこちへ動かすも特になにも映らない。

きいろ「んー」

アク「(照明の)スイッチは入って左ですよ」

きいろ「あ、ありがとうございます!」

 きいろ、壁に手を這わせてスイッチを探る。スイッチを探り当て押した瞬間、きいろの頭に何かがぶつかり、ゴンという大きな金属音。
 照明が点く。

きいろ「いたあ…」

 きいろ、頭を押さえ、うずくまる。それでも音を立てながら床で転がりまわるものにカメラを向けると、銀色のトタンのタライが映る。

「……え、ええっ。どういうこと?!」

 苦痛の表情のきいろ、立ち上がりながら後ろを振り返る。
 そこには般若の面を被っているアク。

きいろ「(悲鳴)」

 きいろ、二、三歩後ずさりし、腰が抜け、床にしりもちをつき、手からカメラが離れる。
 次の瞬間、入口の死角に隠してあったスモーク噴射装置から白煙がきいろにめがけて噴射される。
 白煙の中、きいろは目をつむって咳き込みながら、手で自撮り棒を探しあて握って、カメラを煙の先に突き出した。
 そこに『大成功!』の文字が映る。

キャン「(表情なく抑揚なく)タッタラーン」

 アクは高笑い。裏側に『大成功!』の文字を貼った般若の面を小脇に抱えると、部屋に響き渡る大きな拍手。
 きいろはカメラを構えたまま唖然とした表情。

アク「いやぁ最高です。これぞメイド・イン・ジャパン」

 アクの脇から顔をのぞかるキャン。

キャン「……ごめんね、きいろちゃん」

ジャミ「(呟くように)だから言ったのにだから言ったのにだから言ったのに……」

 ドア枠にもたれかかっていたジャミがズルズルと崩れ落ちる。
 キャンが慌てて近寄る。

キャン「大丈夫!?」

アク「(崩れ落ちているジャミを見て、大きな身振り手ぶりを添え)おいおい、いまので驚いたの? キミに仕掛けたわけじゃないのに、もらいドッキリなんて最高に愉快だよ」

ジャミ「(頭をもたげ消え入りそうな声で)静かで……きれいな……」

キャン「あっちで休もう」

 キャンに抱えられ、ジャミは女子部屋へ。

アク「きっと彼女は心を落としたままなのだろうね。今日はきいろさんもいらっしゃるし、楽しみだ。ははははははは――」
 
 アクは笑い声を残しながら廊下から階下へ。
 カメラを力なく構え腰を抜かしたままのきいろはその様子を呆然と眺めていた。

〇二階廊下(PM 4:45)

 きいろが二階廊下の女子部屋の近くで座って待っている。
 女子部屋から出てきたキャン。

きいろ「(立ち上がって)ジャミさん、大丈夫でした?」

キャン「うん、落ち着いた。それよりきいろちゃんは大丈夫? 驚いたでしょう」

きいろ「驚きましたけど、それより何がなにやら……」

 キャン、洗面所を指差す。

キャン「(小声)あっちで話そう」

〇洗面所

 きいろとキャン。扉は閉まってる。

キャン「アクはね、人を驚かせたりするのが大好きなの」

きいろ「サプライズ的なものじゃなくて、ドッキリなんですか」

キャン「古典的なやつね。悪趣味よね」

きいろ「ジャミさんもドッキリの被害に……?」

キャン「うん。はじめは落とし穴。ほら、きいろちゃんと出会ったあの場所」

 きいろの脳裏に空き地での出来事が思い出される。

きいろ「ああ!」

キャン「そこで落とし穴に落とされて、汚れちゃったから、(浴室を指差す)お風呂に入ったら、浴槽いっぱいにゴキブリのおもちゃ。それからちょっと不安定になっちゃって……」

 きいろ、身震いする。

きいろ「キャンちゃんさんもドッキリかけられてるんですか?」

キャン「(首を振って)わたしじゃつまらないんだって。だから少しでもストッパーになれるように仕掛け人やってる」

きいろ「はあ。でも、ジャミさんの様子を見ると、これはドッキリというかなんとかハラスメントっぽくないですか」

キャン「いじめ」

 キャンため息。

キャン「(視線を床にに落としきいろに聞こえるか聞こえないかくらいの声で)虐待かも……。(きいろを見て)そしてきいろちゃんは新しいおもちゃかな」

きいろ「もー、なんでわたしがターゲットなんですかー」

キャン「……ユーチューバーだからじゃない?」

きいろ「そんなー」

〇一階トイレ(PM 5:00)

 キャンと一階に降り、疲れた表情でトイレへ入ってきたきいろ。
 扉を閉めた途端に、大きな風船が膨らみ、やがて破裂。

きいろ「(リアクションとともに悲鳴)」

〇和室(PM 5:03)

 疲れきった表情で座布団の上に座り込むきいろ。
 机の下からその様子を映す『Rec』の文字を表示した画面。
 横になろうと身体を崩して肘をついた瞬間、机の下からモーター音を響かせ、きいろにカメラ付きの四輪のラジコンが突っ込んでくる。

きいろ「(悲鳴)え? なに?」

 きいろ、悲鳴と動揺の言葉を叫びながら慌てふためいて、廊下へ飛び出す。

〇一階廊下(PM 5:04)

 和室から飛び出してきたきいろ。
 出入り口のすぐ横で待ち変えていたラジコンのプロポを持ったアク。

アク「(大声)コラッー」

きいろ「(悲鳴)」

 きいろ、ビックリして廊下に崩れ落ちる。

アク「(大笑いしながら)ちょっと遅いけど、おやつの時間ですよ」

〇リビング・ダイニング(PM 5:30)

 テーブルの台所側にアクとキャン、きいろはその向かい側。
 きいろのカメラに皿に乗せられた三個のシュークリームが映っている。

キャン「(やる気なく)きいろちゃん、大歓迎会。からしシュークリームはどれだー」 

 アク、盛大に拍手。キャン、気のない拍手。

きいろ「あのう、もうやめてもらいませんかー」 

アク「ユーチュバーなんだからこういうおもてなしは喜んでほしいですね。ちなみに、これ、知り合いに作ってもらったから、からし入りは僕にも分からないから安心してください」

きいろ「安心してじゃないですよー。もうマジですかー」

アク「(ささやく)バズるよ、きっと」

きいろ「えー」

アク「ここはガチですから。筋書きのないドラマ。未来は何も決まってないからバズります」

 きいろ、覚悟したようにカメラを内カメラに切り替え自撮り。

きいろ「(小声)体は売らないけど、体は張ります」

 三人はそれぞれシュークリームを選ぶ。

わさびだった人「(感じるがままに)」

わさびでなかった人「(感じるがままに)」

 *きいろがわさび当たりでカメラを回せない場合は、ハズレの人がその様子を撮る。
 三人が落ち着いてから。

アク「いやぁ最高でしたね。面白いものが撮れたんじゃないですか」

きいろ「んーどうですかねー」

アク「じゃあ、間違いなくバズるようにガチのロシアン・ルーレットもやりましょうか」

 アク、テーブル横の引き出しへ行き、なにかを取り出す。

きいろ「いやいや、もういまのガチで充分ですよー」

 アク、ワインボトルを置くように日常の自然な表情と動作の雰囲気でテーブルの上に回転式拳銃をゴトンと置く。

きいろ「(身を寄せて目を丸くし拳銃を見つめ)えっ、これなんかおもちゃぽくないような……」

 きいろ、カメラで拳銃を突っつく。

きいろ「(アクを見上げて)……ほ、本物ですか?」

アク「(ワインの由来を説明するように)そう。残念ながらアメリカ製ですけどね」

 アク、しょうゆを置くように日常の自然な動作の雰囲気でポケットから取り出した弾丸をテーブルの上にコトンと置く。
 きいろのカメラがそれを捉えると、アクの声がする。

アク「(日常の何気ない言い方で)これもガチンコですよ」



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