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使えない一万円

私には、使えない一万円札がある。
「頑張れ」と言う文字が書かれたポチ袋に収まっているそれは、2022年3月に「餞別」としていただいたものだ。

ポチ袋をくれたのは、私が離島で暮らした中で1番お世話になった方。離島する数日前に家に遊びに行き、そのときにいただいた。

お世話になりっぱなしなのにいただくのは恐縮で、一度は断った。
けれど、「良いから持っていけ!」の言葉とともに、ポチ袋は私の手元に残った。

そう、この方は。
一言で言えば「姉御」、人によっては「豪快」と表現してしまうくらいに裏表がなく、きっぱりとした性格の人なのだ。
だからこそ、「コミュ障ぼっち」の私でも親しくなれたのかもしれない。

私が離島する当日、その方は見送りに来ていたらしい。
私は次男の担任の先生と話していたので、全く気づかなかった(このことは、後日遊びに行った時に知った)。

そういうところも、あの方の「らしさ」だ。

「餞別」の使い道

新天地に向かうまでの間。
私は、この一万円をどう使おうか考えていた。

  • 次男のために使う

  • 別の土地でひとり暮らしをする長男、そして、引越を手伝ってくれる旦那と一緒においしいものを食べる

などなど。
けれど、結局どれもしっくりこなかった。
「頑張れ」という文字に、そのような目的で使うのは違うのでは?と私が思ったからだ。

そうして、考えに考えた結果。

『明日のごはんも食べられないくらいに辛いときに、これは使わせていただこう』

この答えにたどり着いた。

『お守り』になった一万円

こう思ったのには理由がある。
2022年4月から、我が家は家族が3拠点で生活するスタイルになる。
と言うことは、それだけお金がかかるのだ。

それまでにそれなりに貯めていたとは言っても。
「ムダなことをしてる」と私の両親に言われるくらい、出費は激しくなる。
耐えきれる自信なんて全くない。

私も働きはするけれど、せいぜい一緒に暮らす次男との生活費くらいしか稼げないだろう。
それだけ、旦那に負担がかかる。

だから、『どうしてものときの命綱』として持っておきたかった。

大切な人からもらった、応援メッセージ付きの1万円札は。
この日から、私の『お守り』になった。

静かに眠るお守り

そして、2024年6月。
大切でかけがえのない『お守り』は、今でも私の手元にある。
個人用のお財布で、静かに眠っている。

ありがたいことに、フリーランスでもそこそこの収入はある。
集中力が続かないせいで、1日にあまり仕事ができないにもかかわらず、何とか生活はできている。
『へっぽこ』とか『ポンコツ』とか言い続けているけれど、私も成長できているのだろう。
何度も転ぶから、先に進むのがイヤになって立ち止まることも多いけれど。

SNSには、ライターとして成長し、キラキラと発信する方達がたくさんいる。
その方達は、努力を積み重ねてそこにいる。
だから、その方達に追いつくように私も頑張れば良い。けれど、できない。
存在が眩しくて、見ているだけで息が苦しくなる。しんどくなる。

そのようなときに、ポチ袋を眺める。
クセの強い『頑張れ』の文字に、お世話になった日々を思い出す。
そうしてまた、私は気合いを入れ直す。

大丈夫。
この『お守り』がある限り。

私はまだ、頑張れる。

今年も会いに行く

お守りをくれた方には、島に行くたびに会っている。
今年は8月。また、会いに行こう。
お土産は何がいいかな?また、「わざわざ気を遣わなくて良いのに」とか言われるんだろうな。

けれど、それも心地いい。
そんな会話が楽しいのだ。

この『お守り』を持つのにふさわしい存在になるために。
前を向いて、踏み出す。

『なりたい自分』になるための、小さな一歩を。


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