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『空気を読む脳』を読む~「空気」の支配を脳科学から理解する

『空気を読む脳』は脳科学者の中野信子による雑誌の連載が一冊の本になったものです。かなりわかりやすく読みやすい本です。

1.脳と感情的な行動の関係

『日本人』を語るほとんどの書籍で指摘されている通り「空気」は日本人の行動原理に大きく影響を及ぼしています。そういった行動を作者は脳科学を使って説明しました。

「汚く勝つより美しく負けたほうがよい」という考え方が、特にスポーツの場などで言われますが、これは前頭前野の一部にある一般的に「社会脳」と言われている領域で判定されています。

「美しい」という基準と「利他行動」「正邪」「善悪」は理屈では全く別の独立した価値ですが、脳ではほとんど混同して判断しているこよがわかっています。そもそも人間が社会性を持っているのはそうしないと脆弱な肉体を持つ霊長類には死活問題であったからです。

とはいえ、自分の利益をまったく追求しないと今度は自分の生存があやうくなるので、社会脳にはある程度の柔軟性も付与されました。これは「利他行動を優先しろ」と他人に攻撃するけれど、自らの利益は優先する、そういったゆるさのことで、この設定で社会脳は稼働しています。

セロトニンは精神の安定や安心感の源になり、脳を活発に働かせる鍵となる化学物質です。このセロトニンの密度が少ない人ほど普段は誰かのために自己犠牲をいとわず真面目に働くひとですが、一旦不公平な仕打ちを受けたりすると急に何をするかわからないようなひとに変貌する、という実験結果が出ています。日本人の脳にあるセロトニントランスポーターの量は世界でも最も少ない部類の民族になります。

つまり日本人は自分が利益を失ってでも、不正をした/ずるい(と感じる)相手を攻撃したい、という気持ちが世界一強い、ということです。冷静で合理的な勝利より、熱い気持ちで美しい敗北を見たいのです。

そうすると日本人の行動の多くの部分に説明がつきます。不倫に対するバッシングやSNSでの不適切なふるまいに攻撃することもそのせいかもしれません。

愛情ホルモンとして知られるオキシトシンは同時に妬みの感情も引き起こします。集団の結束が強い社会の場合、フリーライダー(ずるい!)人に対してより一層のバッシング心理が働きます。バッシングは自分が正義の側にいられることを確認し、なおかつ快感を得る行為へとなっています。こういった行為は真面目で人一倍ルールを守る善良な人がはまりやすいという結果になっています。


  

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