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Self liner notes #10 exit

15年前になってしまうのかな、河口湖マラソン(現在は富士山マラソンというらしい)に出た時のことが忘れられない。素人ながら順調に進んでいたのに、ゴール前、道路脇の「あと2km」の標識を見た途端、それまでぐいっと前に出ていた歩幅が半分以下に下がってしまったのだ。こんなにも自分の意思と身体のレスポンスが乖離したことはなく、最も苦しかったと思えるひとときだ。

2019年、鈴木博文氏のソロアルバム「ピカソ」のレコ発ツアーで北海道に行った時、少しemma曲の演奏枠をいただき、「exit」はそこで発表するべく作った曲のひとつである。

珍しく詞から先に作り出した。
前述の「ゴール前2km」を表したいと思って着手したのだが、それを"出口"と綴った途端、これまで過ごしてきた人生の中でいくつも迎えた「終わり」の前に佇んでいた出口ばかりが浮かんでくる。雲行きが変わってしまった。いざ”出口”のキーワードに向き合ってみると、意思と行動が伴わない理不尽はマラソンに限ったことではなく、寧ろ理に適っていたことの方が少ないことにも気づく。この曲づくり然り。あまり歌詞に落とし込もうとせず、記憶の美化や上書きしていく身勝手な脳の履歴に目を凝らして素直に言葉を置いていくように心がけた。

詞が半分くらいできたら、コード進行だけだが、なんとなく曲調が言葉にくっついてきた。ツアーでは北海道に住む両親もライヴに来てくれるかもと淡い期待がよぎり、特段音楽を嗜まない彼らにわかりやすく、と少しテンポも落としてみた。アルバム中、最も素直なアプローチを心がけて作ったつもりである。

録音では、なんとベースが2トラックアレンジされたが、音あたりは優しく、ベースの音の丸みがいい感じで曲に溶け込んでいると思う。ピアノと歌は別々に録るのだが、ちょっとピアノは張り切って16分音符(♬)を多用してしまった。実際のライヴでもその奏法を継承する確率は半分くらい。大サビのゲイリー・ムーアっぽいギターが緊張を和らげてくれる。

共に認知症だった両親にとって、同じ北海道と云っても旭川も札幌も遠くライヴに来ることはなく、父は2年後に他界、彼らの家を整理していたら未開封の『ピカソ』が出てきた。母は現在施設で暮らしている。

可愛かったemmaと大好きだった父とマークII

レコ発ライヴは
2023/06/10(土)

open 18:30 / start 19:00

コチラ→ emma mizuno LIVE「Amorphous 404」

配信アリます。



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