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Self liner notes #07 Oeillet

口紅よりも早く香りの装いが好きだった。香水はその香りのコンポジション(構成)以外にも、ボトルの由来、生まれた背景などの物語の自由さも魅力である。

なぜかカーネーションに憧れたバラが、なぜかスパイスを使って自ら火を纏い、花びらが燃え黒く染まっていく様を香りで描いた「Oeillet Bengale(ウィエ ベンガル)」というひと瓶に出会った。凛々し過ぎる眉をもつ美女、みたいなクールとエレガンスを極めた香り。もうこの芳しい物語がたまらない。香り好きな人は、なんとかこの形を伴わないものをを伝えたく多弁になるのだが、私は曲にしてみた。

決して明るさはない。花の女王格のバラにしてカーネーションに憧れる厚かましいまでの純粋さ、自らに炎を向けるほどの嫉妬への執着、疾走感。生花が持っている瑞々しさから炎で水分が抜けて煙が黒ずんでいくさま、烟ってからもなおまき散らされる芳しさ。安楽死を選んだかのような独善的な多幸感、虚無感を覆い隠す達成感。この香りについて思いを巡らすと、普段は最後にやっと絞り出されるビートが真っ先に聞こえてきた。曲自体は既に音楽性高いこの香水が殆ど作ってくれたので、香りの言葉を歌詞に、メロディ翻訳した、というのが正しい。
演奏スタイル上、このビートとやらをワタクシのピアノで体現するのには一定の苦労をしている。録音時、これもドラマー樋口くんがデモの中から「叩く」と選んでくれたので、めちゃくちゃ安堵した。やっとこの曲に本物のビートが刻まれる。
博文さんのベース、あゆくんのギターは、前述の言葉でごちゃごちゃ書いたことを端的に音に示してくれた。こんなブリーフィングはひとつも彼らに話していない。

私はこの物語は好きだけど陶酔はできない。ねじくれた嫉妬には終止符を打たねばならない。だからアウトロのエンディングは務めてブツっと終わるように心がけている。ロマンチズムへの私の防衛行為でもある。
好きな香りと身に纏ってしっくりする香りがシンクロしないのも香りの面白さで、「OEILLET BENGALE」は、好きだけど私の手には負えなかった。ちなみに”œillet”がカーネーションに相当するフランス語。

ライヴは
2023/06/10(土)

open 18:30 / start 19:00

コチラ→ emma mizuno LIVE「Amorphous 404」

配信アリます。



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