見出し画像

レースはレースのずっと前からはじまっている:タイムチャートのはなし

9月。秋のトレイルランニングレースシーズンがいよいよ始まりますね!
UTMBでランナーの悲喜交々をみて感じたこと、たくさんありました。

日本では9月から12月にかけて、人気レース目白押しです。そこで、自分自身や多くの選手のレースを身近に触れて感じた完走についての教訓、これまでの取材で教わった知識などを、【なんとしても完走だけはしたい】あなたへ、ずっとびりっけつランナーだったわたしから、メッセージとして届けたいと思います。1人でも多くの人が完走できることを願って。

今回ここに書くことは、「そんなの当たり前だよ」「そんなの知ってるよ」「速くもないのにえらそうだな」と思う人もいると思います。叩かれたら怖いなって心配です(笑)

だからこういう前提とさせてください。

・多くはあくまでわたし個人の見解です。
・走るのが速くって、完走は問題ないって方には参考にならない(笑)
・価値観がちがうと感じたらすぐにそっとブラウザを閉じましょう
・正解メソッドなんてたぶんない、そんな意見もあるんだなぁと思って読んでみてください。

そんな条件なので、あえてどこかに寄稿するでもなくnoteに記したいと思います。

タイムチャートを作る

ランスタトレラン部の時、メンバーの完走へのアドバイスとして、取材チームが帯同するようなレースの時に「タイムチャート(レース中のタイムスケジュール)を作ること」、これは徹底しました。ボリュームゾーンからそれ以降のランナーでも、高低図は持つけどタイムチャートは作ってないという人は案外多い気がします。現に2年も継続した企画だったけれど、最後までなかなか重い腰が上がらないランスタメンバーもいたようでした。

関門によるDNF

トップランナーはさておき。ボリュームやボリューム以降のランナーが関門に引っかかる時、明かな走力不足練習不足はおいておいて、タイムマネジメントミスであることが多い気がします。途中で怪我をした、故障をしたというトラブルで全然走れなくなったというのは話が別です。ちゃんと自分なりに一生懸命走っているはずなのに・・・UTMBシリーズでも日本人に限らずそれは散見されました。

わたしはかなり細かいタイムチャートを作っています。高低図も持ちますが、あまり見る機会がありません。だって高低図のギザギザってギュッとなっていて往々にして「だまされた〜!」ってなったりするじゃないですか(笑)(決してだましてはいない)

わたしの超細かいタイムチャートに対して、「そこまでする意味はあるのか」「その時の感じで走るから大丈夫」「時間を気にしてたら楽しくない」「暇かっ」などとやんわり否定されることもあるけれど、【完走できるか不安だけど何としても絶対に完走したい】なら、タイムチャートは作ったほうがいいと思っています。

表彰台やタイムを目指す人でもタイムチャートを作る

今年のUTMFで優勝、先日のUTMBで2位に輝いたXavier Thevenardは不織布のリストバンドに手書きでタイムを書きこんで腕に巻いていました。

数年前、とあるトップランナーに取材した時、ターゲット選手やタイムを見て過去数年分リザルトからエクセルで計算するのだと言っていました。そのデータを一部見せていただいたのですが、その細かさに驚きました。そうすることが好き、というのもまた魅力的だと思ったのですが、このあたりの得手不得手は仕方ないことだと思います。好きじゃない人にとってはすごく面倒な作業。

わたしはその話を聞いてから、かなり細かい統計を元にチャートを作るようになりました。レース前にコースやレース展開を想像しながらまるで試走しているかのように脳内で思い巡らせるのは案外好きな作業でした。過去のリザルトという事実に基づいた統計から計算した想定タイムを作るようになってから、漠然と「とにかくがんばる」という走り方はある程度改善され、冷静さを保つことができるようになったことでレースを楽しむ心の余裕ができました。次第に関門に追われるようなことが減り、どんどんレース展開にも余裕を持てるようになりました。(経験の蓄積とベースの走力向上と並行して)

タイムチャートはラミネートして、パンチで穴を空けて、100均のビヨ~ンとなるキーホルダーを付けてボトルの内側に畳んで差し込んでいます。最初はキンコーズなどに行っていましたが、最近amazonで4000円くらいのラミネーターを買いました。

テールエンダ―はチャートに命拾いすることも

過去のリザルトを天候別で見て作るという人もいます。わたしも準備に時間が取れる時はできるだけそうしています。台風が当たりやすい日本の秋のレースでは、これもとても大切だと思います。また、コース変更があるとうまくチャートを作れないということもあります。作ったチャートが何らかの環境要因やトラブルで見当はずれになることもあります。でも統計を基にしたデッドラインに命拾いしたことは何度もあります(デッドラインは関門のことではありません)。

たまにエイドでボランティアスタッフに対して、次までの距離や関門、はたまた「どれくらいかかりますか?」なんていう質問をしている人を見かけます。事前にコースマップや関門を頭に入れてきたはずが、走ることに夢中になっているともうわけがわからなくなる気持ちも十分わかります。わたしもトルデジアンの時は自分で作ったチャートが細かすぎて(数日分にわければよかった)、途中で見るのも疲れてしまった時や夜間で見にくい時にはスタッフに聞いたりもしました。青ざめた顔で「ねぇ、間に合う?わたし、間に合うかな?」なんてね。スタッフも困惑したことでしょう(笑)

エクセルが苦手でも大丈夫、自分流で作ればいい

わたしはどんな風に作っているかというと。以前はこんな風に作っていました。2015年に出た信越です。(コースが変更になっているので、間違えないようにぼかしを入れました)

ターゲットタイムは18時間。でも海外レース帰国後でコンディションを整えることに失敗して潰れまくり、結局20時間台でした。しかも信越五岳は晴れてさえいれば最初がかなり走れるので、わたしはまんまと喜んで走ってしまい2Aに16時間ペース、この時タイム表を見てやばいなと思ったのも手遅れ、そのあと3Aは20時間台、4Aは22時間台くらいまで落ちて、ペーサーと合流した後にペースを上げた結果20時間台でfinishでした。好調な場合と不調な場合、3~4つくらいの時間帯を書いておくことで、トラブルが起きても頭の中で計算しなおす必要がなく、焦らずタイムを刻むことができ、もし万が一絶好調ならどのくらいで行けば良いのかということもわかります。赤い文字は区間タイムです。

高低図の下に時間を書くタイプをしばらく続けていたのですが、最近は高低図と分けるようになりました。なぜなら、前述したとおり高低図は長距離ほどギューーーーッとなっていてアップダウンなどは本当にざっくりした参考程度にしかならないからです。残り50kmで山3つ、みたいな。そういうのは頭に入っているはず。標高差を高低図に書き込むパターンもアリだけれど、最近のわたしのタイムチャートは例えばこんな感じ。

うわ~文字だらけ~キモ~
って思うかもしれません(笑)エクセルのスクショそのまんまですいません。(ちなみにこれはイギリスのNDW100というレースで、167km累積3,330mという超走れるレースなのでペース表記が速め)

これレース中に見れるの?と言われるかもしれません。走れている時はほとんど見ていませんが、登りでゾロゾロ行列になる時、エイドで補給する時などに見ています。サポートがいるならアシスタントエイドで読み上げてもらっても良いかもしれません。サポートやペーサーがいる場合には、彼らの分も人数分作っています。それはサポートをお願いする上でとても大切なことだと思っています。

エイドでの滞在時間は書いていないので、わたしのこの表の場合、通過タイムはエイドアウトのタイムです。エイドで滞在したいタイムの分、通過タイムより早くエイドに入ります。

CCCでは、エイドイン、エイドアウト、滞在時間も記しました。目標タイムがエイドの部分で二行になっているのが、エイドイン、エイドアウトです。その右側に滞在時間を記載しています。最終的には数字が多すぎて見にくいので、エイドアウトの時間を赤色の太字にしました。

項目が多いため完走タイムの数パターン書くのはやめ、ターゲットタイムと、デッドライン(関門に合わせたタイムではなく、過去の統計から算出したfinish30分前までの人の平均タイム)を書いておきました。

また、最近は地点標高をタイムチャートに入れていなかったのですが、UTMBシリーズの場合渋滞があったり上り下りの時間が日本のレースよりもずっと長いので、タイムチャートを見れば標高差や地点の標高(コルが標高何m、エイドが標高何mだからあとどのくらい登る&下る)がわかるようにしました。

区間ペースを書くのがわたし流、でも注意が必要

コース変更などで統計から算出しにくいパートがある場合、距離と時間から速度やペースは計算できます。

単純に言ってしまえば、1kmあたりのペースの計算は、
時間÷距離
ですよね。
わたしはいちいち計算機を叩きたくないので(暗算できない)、エクセルに計算式を入れるか無料の計算ツールをgoogleで検索して使っています(笑)

わたしは日頃のランニングで時速よりも “1キロなん分” というペースのほうが体感として身近なので、ペースを表記しています。高低図やコース情報を加味した上で、おおよその平均速度を考えます。(路面状況や、直登か九十九折か通過する時間が明るいか暗いか、前半で元気か後半でほぼ歩きかなど)このペースについては経験則の部分があるので、15min/kmなのか25min/kmなのか見誤るとちょっと痛い目に遭います(笑)

もし時計やアプリで普段の練習のログを取っているなら、その時の登りや下りの速度を参考にするといいと思います。休憩の度にウォッチを一時停止にする人は注意。レースでは補給をしたり、シェルを脱ぎ着したり、トイレに寄るのも、平均速度に大きく影響します。自分はキロ10分以下で走れる、と自信があっても案外もっともっとかかるもの。眠くてフラフラ歩いたり、立ち止まって履いたりしていると一気にキロ20分以上になったり。

だから『立ち止まったり休憩する時間も込みでこのペース』と思って見ています。テールエンダ―にとって、関門ヤバイ!となった時に、次の区間の数キロをキロ何分で走って何時間、ということが計算されているとわかりやすいものです。(関門ギリギリだとそれどころではなく全力疾走かもしれませんが・・・)

レースマネジメントが上手い人は準備に余念がない

トルデジアンの時、いつもライフベースで寝過ぎるちょっとお茶目な人がいたのですが、その人のタイムチャートはものすごく秀逸で、なんだかんだですごく安定した走りでした(事前に共有してくれるところも心が広くて仏のよう)。あれだけ細かいデータを作るには、付け焼刃では無理でしょう。かなり前からたくさんの時間を費やしたはずです。ベテランの風格に、さすがコース研究しつくしているだけあるなと感激したものです。チャートを作る時には、区間距離や標高、エイドの名前など打ち込むので、結果的に「ぼんやりコースマップを俯瞰して見ている」よりもずっとコース研究になることを知りました。

レースのずっと前から、レースは始まっている

某ランナーから聞いたそんな台詞にわたしはすごく共感しています。

完走が美学ではないという価値観も良いし、完走が全てではないかもしれないし、レースの位置付けは様々。趣味だしね、トップランナーじゃないしね。

だけどもし、もし、なにがなんでも絶対絶対に完走したい!と思っているなら、なにがなんででも手を尽くすのだ、と。それは当日だけじゃダメ、レースのずっと前から始まってる、と。

どれだけ練習したかという自信はもちろんのこと(効率云々あるけれど結局走った距離はウソつかない、はず)、ピーキングも、生活も、準備も、あらゆるトラブル想定も。レースはレースのずっと前から始まってる。

趣味だからこそ貪欲になれるのがなんだかんだ言って面白いわたし

仕事でとことん貪欲になれ!なんてITベンチャーに勤めていた頃は良く言われたものですが、いくら仕事が好きなわたしでも、なんだか違和感を感じたことも多々ありました。そんなに“意識高い系”でもないし~。

でも、好きな遊びって夢中になれる。当たり前だけど。趣味ならこんなに頑張れるのになぁ、と仕事に置き換えて考えてみたりとか(笑)趣味なんだからゆるっと、という時もあるけど、逆に趣味だから貪欲になってみたりするのもなんだかんだで面白い。(いや、わたしの場合は半分仕事か)

完走することに貪欲だったわたしが、最近ではレースを楽しむことに貪欲になり、タイムチャートの目的も変化してきました。レースに出るのには結構お金がかかっているから貧乏性のわたしはどんな予期せぬトラブルがあっても一発で完走したいな、みたいなのはあるんですけどね。はは。

話は戻り、なんだか練習してなさそうに見えるのにいつも無難に完走する人は、練習アピールをしないというだけでなくて、「レース前のずっと前から始まっていること」が抜け目なくて、完走することや楽しむことに「貪欲」なのだと、わたしは先輩達の姿を見て学んできました。趣味なんだから、楽しめばいい。でも完走できたらやっぱり嬉しいじゃないですか。どのくらい完走したい気持ちが強いか、それは一般ランナーにとっては結果を左右することが多いなと感じました。
ㅤㅤㅤㅤ
なるようになる、と言うけれど、なるようにならない。なるようにならないような、思いもしないトラブルがいくつも起きるのがロングレース。もう今から走り込んだって変わらないかもしれない。でもまだ間に合う、走る以外でもこれからできること、たくさんあるはず。

いまからできること、時間の尽くす限り、とことんやってみませんか。

次回は装備のはなし。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?