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妄想千回 シミュレイション九回

梅雨も始まっていないのに最近は30度近くまで気温が上がる。

暑さにめっぽう弱いので、もう夏を乗り越えられる気はしていない。もうそろそろハンディファンの充電をしておかなければ、と。


さて、時は遡り昨年の九月、私はとある用があって中野ブロードウェイに行った。九月と言ってもまだ普通に夏。とにかく暑かったので、前から行ってみたかったデイリーチコへ寄ってから帰ろうと思い立った。暑い日こそアイス、なんてったってアイス。

フロアマップ、フロアマップ、、、あった。
なるほど、地下一階にあるのね。近くの階段を下ると、そこには精肉店や鮮魚店、スーパーがあった。レトロチックな玩具屋の下には、これまた「ただいま」と言いたくなるようなお店がずらりと。ちょっとタイムスリップした気分になりつつ歩いていると、突如現れた、お目当てのアイス屋さん。

ここの名物は八段アイスクリーム。読んで字の如く、八段になっているアイスクリームで、とにかくデカい。しかしながら、一人で来ているのに流石に食べきれない、と悟ったので私は三段にした。

「何味にしますか?」
「えー、バニラ、チョコ、ストロベリーで。」

小さい頃たまに見かけることがあった仮面ライダーだかプリキュアの三色アイスが好きだった名残で、その三種類を選抜した。

店員さんが奥で巻き巻きしてくれている。三段でも思っていたよりデカいんじゃない?なんて思いながら出来上がるのを待つ。

「はーい、お待たせしました」

予想通りだ、意外に大きい。左手にずしっと重みが伝わった。歩きながら食べるのもなんだし、ベンチに座って食べようっと。

リュックを左横に置き、さあ食べ始めようとしたその時、私の右隣に一人の男性が座った。彼もまた三段のアイスを頼んでいた。しかも、全く同じ三者を選んでおるわい。

、、、ってあれ、キャップを深めに被ってメガネをしているが、ほくろフェチの私には分かってしまった。この首筋のほくろの位置、絶対にあのロックスターじゃん。毎日通学途中に鬼リピしているあの曲たちの生みの親。どうしよう、アイスどころではない。でも早く、上の部分だけでも食べてしまわないと溶けてしまう。

正直味なんぞ覚えていない。取り敢えず口に放り込み続けていた。こんな葛藤などつゆ知らず、彼は美味しそうにアイスを味わう。付属のスプーンで下から上に、三色一気に掬って味わう。

そうこうしているうちに彼の方が先に食べ終わってしまった。ひょいと立ち上がり、ゴミを捨て、中野ブロードウェイの地下フロアに颯爽と姿を消した。人が多くて一瞬で見失った。

そんな一連の流れを見届けてしまったせいで、私の残りのアイスはもう違う食べ物になっていた。歯応えを失ったコーンを、余韻に浸かりながら咀嚼するのであった。___


と、ここまで読んでくれた人(多分いない)は分かっていたと思うが、そう、これはフィクションだ。まずもう、タイトルで妄想って言っている時点で勘のいい人は気付いたはず。「妄想千回 シミュレイション九回」ってのも、ノンシュガーの歌詞である。九月にデイリーチコで三段アイスを食べたのは事実だが、そんな都合よく隣にロックスターが座るわけもない。

こんな妄想が現実になれば良いのに、と思い耽る今日この頃。深夜に何書いてんだか。さあ、明日こそ、やるべきこととちゃんと向き合うか。

おわり

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