恋愛する気がない彼のこと
前回書いたように、私の不倫相手になった彼は‘恋愛をする気はない’という考えを持っている。
恋愛どころか、人間そのものもあまり好きではなくて、人間以外の生物になりたいと思うそうだ。ここには書かないが、彼が話してくれた生い立ちや家庭環境はそういう考えになるのがわかるな、と思わされるものだった。
それでも、私が彼の考えを変えさせるぐらいに魅力的だったらいいのに、と一瞬は思った。私でなくても誰かと恋愛をして幸せな気持ちになってほしいとも思った。
でも、人を変えようとすることなど、してはいけないことだと、若くない私にはわかる。
彼の考え方は、40年以上の人生で培ってきたもので、変えようとするのは失礼だと思う。私にも、自分なりの考え方があるし、たとえ彼からでも変えようとはされたくない。自然に変わるなら、もちろんかまわないけれど。
彼の恋愛観や人生観を聞いてから、彼に対して片想いをするような浮ついた気持ちはだいぶ落ち着いていた。その前の彼からの計画的な脈なしLINEで、気持ちがけっこうおさまったのもある。
彼が自分への気持ちがあるのかと聞いてきたから、恋愛感情がなくなってきてしまったことを伝えた。彼も「(脈なしLINEで)俺が冷静にさせた」と言っていたぐらいだから、想定内だっただろう。
彼は私に恋愛感情がなくて、これからもそれは続くだろうと思うと、残念だった。でも、彼に好きになってもらおうという気もほぼなくなって、平気で言いたいことを言えるようになった。
「好かれてないなら、私は体の関係は無理」「LINEを聞かれて浮かれた私はばかみたい」
「LINEを聞かれるなんて、主婦にとって大きなことなんだから、やめてほしかった」
「どれだけドキドキしたか」
いろいろと言うと、彼も「俺も罪な男ですね」なんて言っていた。
ここで何もなければ、話はシンプルで、わかりやすかった。
しかし、同時進行で、彼からは体の関係を持つことを提案されていた。これは私が夫とレスで「他でしてきていい」と言われたことを知ってのこと。
彼はおそらく、このままでは私から関係を持つことを断られると思ったみたいで、恋愛をしない主義なりのアプローチ(と私には思えること)をしてきた。
例えば、「いいと思ってなければ、LINEを聞かない」と、少し前の彼なら言わないことを言われた。
書くと長くなるが、他の例もあげてみる。
彼が熱烈に好かれている女性の話になった時には「相手を好きでもないし気持ちは10のうち1とか2ぐらい」と言うので、私が「そんなの悲しい」と言ったら、1とか2というのは、私への気持ちじゃないから、とフォローしていた。聞いてもいないのに。
つまり私への気持ちはもう少しはあるってことなのかな、と感じたけれど、どのぐらいかは聞いていない。もし3と言われたら、私は落ち込みそうだ。
それから「危険だからやってほしくはないけど私が10人の男に声をかけたら7,8人はやってくれる、そういうレベル」とも言われた。自信がなさすぎる、とも。そんなことする気もないわ、と思ったが、一応ほめ言葉として受けとっておいた。
こんなふうに、「恋愛はしないけれど性欲があって、やりたい」という本人の考え方とぴったり一致するような、まったく甘くもなく、不快に思う人もいそうな言葉が彼からたまに出てくるようになった。
今は相手がいないみたいだから、私と体の関係を持ちたくて、いろいろ言っていたのかな。もしくは無意識に言ったのかもしれない。「はて」と言いたくなるような発言もあった。それでも、すでに彼のことが好きな私には嬉しかったけれど。
私は彼のお世辞をいっさい言わないところも好きだから、風変わりなほめ方でも受け入れられた。
何よりも、私の恋心を利用して簡単に体の関係に持ち込まなかったところが、私はすごく気に入った。恋愛する気がないなんて、言わなくてもすむことを言ってくれて、誠実だと思う。
いや、本当に一般社会の基準で誠実といえるのは、私と夫がうまくいくように助言をしてくれたり、他のことで気を紛らわしてくれることかもしれない。体の関係を提案する時点で、人の道は踏み外しているけれど、踏み外しながらも、誠実なところがある。
彼へのドキドキするような恋愛感情はおさまってしまったけれど、冷静に考えても彼のことを好きだな、と思えた。そして、体の関係についての提案も、いつしかお願いしようと決めていた。
彼からは、体の関係は「覚悟があるなら」とも言われていた。つまり、体の関係になっても、表向きは冷静さを保って行動が常軌を逸しないか問われていたけれど、それについても考えてみて、自分としては大丈夫と思えた。
彼を好きな気持ちは、今も、時間とともに増していく感じだ。
私には、今いる友人と家族を大切にして、新しい人間関係は増やしたくないという考えがある。
この考え方に反して、一人増えることになるけど、彼のことは大切にしていきたいな、と思った。
彼にも「私は友達少ないけど今いる友達と家族をずっと大切にしたいと思ってて、〇〇さんも私としてはその中にもう入ってる 〇〇さんのことを大切にしたい」と言った。これは、体の関係を持つ前のこと。
この話をしたとき、いつも間を置かずに返事をしてくる頭の回転が早い彼も、ただ黙って聞いていた。多分だけど、気持ちは伝わったかな、と感じた。
現時点では2回ホテルに行っているが、幸いなことに恋愛感情が爆発することはなく、静かに好きな気持ちが続いている。正確に言うと、1度目では恋愛感情が出てきて困ったけれど、2度目で落ち着いた。
今、私は彼のことを信用しているし、彼も私を信用してくれているのかなと感じている。体の関係も私にはありがたいことだけれど、それだけでなく、信用しあえる関係になってきたことも、すごく嬉しい。
恋愛をしないという彼の考え方を尊重しながら、彼との関係を大切にしていきたい。
追記…文中に出てくる「はて」は、この頃に放送されていたNHK朝ドラ「虎に翼」のヒロイン寅子(伊藤沙莉)のセリフです。好きで毎朝見ていました。