スクリーンショット_0032-01-18_14

幸せはテクノロジーで支援できるか:トランステックアカデミーより

2019年9月から11月まで開講された、トランステックと呼ばれる、ウェルビーイング(心身ともに満たされた状態)を実現するテクノロジーについてのオンラインコースを修了しました。

この講座は、21 世紀の先進国共通の課題である、人間がウェルビーイングな状態で暮らせるために、テクノロジーにより支援する事業を創出する起業家や研究者に対して、世界で唯一の学びを提供するオンライン講座です

トランステックは、昨年、日経にも取り上げられ、市場規模は今後、急速に拡大、数百兆円に達すると言われています 。

スクリーンショット 0032-01-18 15.36.23

(スライドは2018年のトランステック学会の基調講演を参照しています)

この記事では、トランステックアカデミーの中でも最も大きな学びだった、世界の起業家や投資家が注目する有力な3つの課題領域について共有したいと思います。

目次

0. そもそもトランステックとは? なぜ今なのか? 技術の例。

1. 有力な課題領域その⑴:ライフスキルとして思いやり

2. 有力な課題領域その⑵:スキルとしてのメンタルフィットネス

3. 有力な課題領域その⑶:人間持つ潜在能力の最大限に引き出す


0. トラステック概要

トランステックとは、Transformative Technologyの略で、デジタル技術に、脳科学や心理学などを組み合わせて、人間の心身の健康(ウェルビーイング)を向上するための技術です。直訳すれば、人間の幸福に生きる支援をするテクノロジーです。少し怪しげに聞こえますが、心理学、社会学、脳科学の領域で真剣に研究されています。

注目が集まる背景には、AI・生体情報技術(アップルウォッチのヘルスケアを想像してください)などの進歩、ニーズの側面からは、マズローの欲求階層説でいう、より高次な欲求へと、先進国を中心にシフトしていることが挙げられます。マズローの欲求階層説は、一般に5段階(生理欲求、安全・安心、愛・所属、自己承認、自己実現)と理解されますが、マズローは晩年、6段階目として、自己超越への欲求をあげています。難しく聞こえますが、例えば、サウナが流行し「整う」という感覚にハマっている方がたくさんいます。これも、一種の自己超越的な欲求と言えます。

あるいは、世界のうつ病患者は3億人前後、認知障患者は5000万人、統合失調症患者は2300万人、双極性障害は6000万人程度と言われています。WHOの報告によると、10年で18%も精神疾患が増えています。

スクリーンショット 0032-01-18 15.21.31

これら精神的な欲求・高次な欲求を支援する技術の例として、AI、AR&VR、生体情報のフィードバック、センサー&ネットワークなどが挙げられています。これらを組み合わせることで、精神の悩みを減少したり、安心感を増幅したり、あるいはパフォーマンスを向上することが可能となります。

スクリーンショット 0032-01-18 15.25.02

具体的な製品や会社は、感情認識(Happilify)、行動変容(PAVLOK)、神経刺激(Halo)など多数あり、2017年開催のトランステック200では、合計2000億円近い、資金が投資家から調達されました。

1. 重要課題: 思いやり能力

Compassion as 21st Century Essential Life Skills for Flourishing
(人間が精神的に繁栄するために必須のライフスキルとして思いやり)

「思いやり」と聞くと、他者に対しての優しさというイメージが湧くと思いますが、思いやりには3つの次元(自己・他者・グループ)があります。

「3つの思いやりの次元」
・ 自己:自己認識(Self-Awareness)と意味の構築(Meaning Making)
・他者:他者への思いやりと共感
・グループ:信頼の構築と繋がり

これら3つの思いやりが、人間が幸せな状態でいるための"源泉"であることが、膨大な研究から分かっています。例えば、

「私って、どんな人間なんだろうか? 何が得意で、何が好きだろう?」といった問いが分かっていれば、より幸せに生きられる気がします(自己)。

あるいは、友人や家族に対して、思いやりを持って接することができれば、感謝しあえる関係性ができると思います(他者)。

集団でも、お互いを信頼できて、深い繋がりを実感することができれば、幸せを感じやすいと思います(グループ)。

これらの3つの思いやりをテクノロジーで育む支援をする。それが1つ目の有力な課題領域です。特に、SNSなどのツールが発達した現代において、思いやりを育むことがより求められていると説明されています。

これらを総合して、事業開発する際の有力なフォーカスエリアとして、

「我々はどうすれば、ミレニアル世代が情熱と本来の自分を見つけ・表現するために、彼らの価値観と調和した形で、人間の思いやり・意味・深い繋がりを育み・表現することを急速に加速することができるのだろうか?」


2. 重要課題: メンタルフィットネス

メンタルフィットネスとは、ジムに行って身体を鍛えたり、整えたりするのと同様に、メンタル(精神状態)を鍛えたり、整えたりすることです。

例えば、全く同じストレスを受けたにもかかわらず、精神が病んでしまう人と、健康な人がいると思います。上司から怒られて次の日、悩んで欠勤する人、あるいは、全く気にせず、笑顔で生きている人。

これまで、心は鍛えることができないと思われてきましたが、現代では、可能であることが研究から分かっています。例としては、感情を認識するデバイス(スマートウォッチなど)をつけて、自分の感情を把握しながら、イラっときた、モヤモヤした、といった状態の時に、深呼吸をする、運動する、コーヒーブレイクをとるといった対応ができます。これによって、ストレスフルな出来事に対して、対処をするのが上手くなって生きます。

課題をまとめると、

「我々は、どうしたら、ミレニアル世代またはZ世代が、自らの精神状態を維持・向上するスキルを学ぶのを可能にすることができるだろうか?」


3. 重要課題: 人間の潜在能力を最大限に拡張

前提として、人間は今日の常識で考えられる能力を遥かに超えて、潜在能力が備わっていると考えられています。その潜在能力を我々は本当には見たことがないと言われています。戸田恵梨香さんのスペックというドラマを思い出していただけると分かりやすいです。

人間にもともと備わっているポジティブな面(得意・好き・天命など)を見つけてあげて、それらを最大限に発揮している状態に持っていく支援をしていきます。

具体的には、次の3つの課題解決を通して、認知的・感情的なスキルを拡張することが求められています。


· 認知的・感情的スキル
· 人間の身体感覚と身体的特徴
· 能力を発揮しやすい自然な空間

例を挙げると、認知的・感情的スキルとは、日常生活のなかで、道端に花が咲いている、子どもが笑顔でいるといった、小さな喜びを感じる能力のことを言います。ただ生きているだけで幸せそうな人っていますよね。そういう人は、仕事においても、他者の機敏な感情な動きが分かり、人から喜ばれるような仕事をしやすいと言われています。

人間の身体感覚と身体的特徴とは、パラリンピックを想像すると理解しやすいと思います。身体感覚などに障害があるときに、義足や車椅子といったテクノロジーを活用して、健常者以上に高い能力を発揮することもあります。これが仕事の環境でも適用され、より高速に仕事を処理する、あるいは、よりクリエイティブに仕事をするために、身体の特徴を拡張するといったことが可能になり始めています。1つ例を挙げると、ノイズキャンセリングのイヤホンを使って、耳の機能を拡張し無音状態で、集中して仕事をするといったテクノロジーの使い方ができます。

能力を発揮しやすい自然な空間とは、仕事が捗る職場環境のことです。クリエイティブになるために、ソファを置いたり、フリーアドレスにすることでリラックスしんがら、仲間ともコミュニケーションが活性化され、最大限にパフォーマンスを発揮できる空間などです。テクノロジーの発展により、職場環境の様々なデータをとることが可能になっています。熟考するのに最適な温度や湿度、あるいは、ミーティングでの会話を活性化する音楽などを使って、パフォーマンスを最大化することができると言われています。

課題をまとめると、
「我々はどうすれば、社会変化の激しい現代において、すべての従業員が最大限の可能性を発揮するために必要なツールを持つため、健康な職場環境、ウェルビーイングな状態を確保することができるのだろうか?」

以上です。他にも学びは多くありますが、心理学や脳科学といった、専門的な内容になるので、今回は入口の3つの課題領域について共有しました。

もっと詳しく知りたいと思われた方は、来年のトランステックアカデミーを受講したり、学会に参加してみてもいいかもしれません。

最後に、私自身、現在進行中で、ウェルビーイングな社会づくりのために、この領域で事業開発を進めています。


フォローやシェアいただけると嬉しいです。