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自粛期間中に迎えた誕生日のこと

外出自粛期間中に、27歳の誕生日を迎えた。

本当は有給を取って沖縄に行く予定だったが、この状況を考えて旅行は延期にすることにした。楽しみにしていたから少し残念だったけど、こればかりはしょうがない。今年はインドアバースデーだ。

誕生日の朝。休みの日はいつも昼近くまで寝ている彼が、珍しく早く起きてきた。

「おはよう」

「おはよう。カフェラテ飲む?」

そう言って寝起きにあたたかいカフェラテを淹れてくれたあと、何だかそわそわしながら買い物へ出かけて行った。今日は昼も夜も、手料理を振る舞ってくれるらしい。

買い物から帰ってきた彼が、さっそくお昼ごはんづくりを始める。何をつくってくれるんだろう?何やら、蕎麦をゆでたり、卵焼きのようなものを作ったりしている。わたしは彼がキッチンに立つ姿を横目に見ながら、ソファの上でゴロゴロと過ごした。

ソファに横になり窓の外を見ると、曇っているが空は明るい。初夏の心地よい気温。網戸から入ってくる風が、カーテンをふわりと膨らませた。犬も気持ちよさそうに寝息を立てている。

お昼ごはんは、瓦そばだった。この前、一緒に見ていた「逃げるは恥だが役に立つ」というドラマに出てきたからだろう。画面の中で美味しそうに瓦そばを頬張るみくりとひらまささんを観て、食べたことのない瓦そばへの想いは急激に高まっていた。瓦そばは山口県発祥の麺料理で、焼き目をつけた茶そばの上に錦糸卵や甘辛い牛肉、のりや小葱、レモン、もみじおろしをトッピングしたものである。

彼は瓦そばをなるべく忠実に再現してくれた。麺は、茶そばが売っていなかったので、ふつうのそばを緑茶で茹でて。本当はそばは熱々の瓦の上に乗っているのだけれど、瓦はないからフライパンで代用。錦糸卵の上には甘辛く煮た牛肉、スライスしたレモン。レモンの上には大根おろし。大根おろしをちゃんとすってくれたのが、なんだかかわいい。葱は彼が苦手なので、ニラで代用。のりもトッピングされている。すごい、ドラマで観たのとおんなじだ。

めんつゆの中にレモンと大根おろしを投入し、箸でそばと牛肉、卵をたっぷりとつかむ。それをこぼれ落ちないようにしっかり挟んだまま、めんつゆにちょんとつけていただく。口に入れた瞬間、甘辛い牛肉がとろけて旨みが口いっぱいに広がり、焼き付けたそばの香ばしさが鼻を通り抜けていく。

「「おいしい!!!!」」

ふたりで顔を見合わせた。

牛肉はしっかり脂がのっているが、レモンと大根おろしが口をさっぱりさせてくれる。これは……いくらでも食べられるかも。フライパンの上にどどんとのっていた瓦そばを、ふたりでぺろりと平らげてしまった。

そのあとは、焼き菓子で誕生日プレートを作ってくれて、食べながら最近ふたりで見ている海外ドラマの続きを観た。夜は圧力鍋でスペアリブを作ってくれた。よく冷やしたワインといっしょに食べると、とてもおいしかった。

夜ごはんを食べ終わると、

「散歩に行きませんか?」

と彼が聞いてきた。いつもはごはんの後、テレビや海外ドラマを観たり、ティータイムをしたりしてから、夜の遅い時間に犬の散歩に行く。

「いいけど、どうして?」

「ケーキ屋がまだ開いてたら買ってこよう」

このご時世、この時間にケーキ屋さんやってるだろうか。ちょっと不安を感じながらも、犬を連れて散歩に出かけた。近所のケーキ屋を目指して夜道を歩く。夜もすっかりあたたかくなって、ぬるい風が気持ちいい。

お店の前に着くと、案の定、もう閉まっていた。そうだよね。予想していたことだったけれど、頭の中がケーキになっていたから少し落胆するわたし。

ケーキ屋が開いてなかったので近くのコンビニに寄り、スイーツを買うことにした。わたしが店の中に入り、彼は犬と外で待っている。

コンビニのスイーツコーナーに向かうと、品薄だったこともあり、ケーキらしいケーキは見当たらない。エクレアとコーヒーゼリーを手に取ってレジに向かっていると、食べてみたかったアイスが目に留まり、一瞬迷ったがレジに運んだ。

コンビニの袋を持って店を出ると、彼は「欲しいのあった?」と聞く。

「うん、3つも買っちゃった」と答えると、「よかった、えみりの欲しいものがあって」と安堵の表情を見せた。ケーキではなくコンビニスイーツになったことを心配していたみたいだ。

家に帰ってコーヒーを淹れてふたりで食べると、結局コンビニスイーツでもケーキでも、どっちでも幸せだったことに気づく。

どこにも行けない誕生日だったけど、楽しかったな。家の穏やかさがあって、でも誕生日の特別感があって。何よりおうちでできることでお祝いしようと頑張ってくれた気持ちが嬉しかった。

いろいろなことが制限されている時だからこそ、人の気持ちや温かさに救われる。旅行でいろんな体験をしたり、宿でサービスを受けたり、外からの刺激を受けるのも楽しいけれど、身近な人から贈られる、手づくりの一日にこんなに癒されるとは。自粛生活に疲れたり、不安になったり、いらだったりすることも多い中で、こんな一日があったことを残しておこう。



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