米株投資家は「本当の下落相場」を体験し始めた!パウエル議長が相場を破壊しないといけなかった理由とは?
■ジャクソンホール以降、米国株は下落基調が継続。パウエル議長はFRBの早期政策転換という根拠なき期待を破壊した
ジャクソンホール会議から1週間が経ちました。米株は木曜日(9月1日)を除いて、毎日(毎営業日)下がっています。
S&P500は8月の高値からすでに10%下落。パウエル議長はジャクソンホール会議の演説で、FRBが早期にピボット(政策転換)するという根拠のない期待を破壊しました。
いつも相場に配慮してはっきりものを言わないパウエル議長がはっきり言わないといけなくなったのは、8月の米国の金融環境が緩和に動いたことにあります。シカゴFEDが発表している全米金融環境指数(National Financial Condition Index ,NFCI)は、7月中旬から下落に転じました(下記チャートをご参照ください)。
その理由は米国の景気悪化が鮮明になり、FRBが金融引き締めを長くは続けられないだろうという期待で米株が大きく反発したことです。米株の反発は金融環境を緩和に導き、FRBの金融引き締めの効果を台無しにするという危険性を示しました。
インフレの抑制を成功させるためには、需要を殺すまで金融引き締めを続けないといけません。金融環境の緩和は需要を増やすことになります。
■株式市場は緩和中毒相場からファンダメンタル重視の相場に移行したが、米株投資家は気づいていない…
パウエルの演説は「バッドニュース・イズ・グッドニュース」という考え方も破壊しました。もはや経済に関するネガティブなニュースは株価にプラスになりません。ファンダメンタルを無視した緩和中毒の相場からファンダメンタル重視の相場に移行しました。
残念ながら米株投資家の多くはまだこのことに気づいていません。
特にリーマンショック以降に投資を始めた方は、まだ本当の下げ相場を体験していません。コロナショックの急落を下げ相場と勘違いしている方が多いのですが、暴落した株価が短期間にV字回復するのは強気相場の特徴です。
「エブリシングバブルの崩壊」(集英社)の冒頭でも書きましたが、コロナショックは14年に渡って続いた長期強気相場の調整にすぎませんでした。米株は調整を入れて最後のメルトアップ(急騰)フェーズに入りました。
■リーマンショック時の米株の動きを振り返る。リーマン・ブラザーズのような破綻が今後起きないと言い切れるのか?
ここでリーマンショックの時の米株の動きを振り返ってみたいと思います。リーマン・ブラザーズが破綻した時には、米株はすでにベアテリトリーでした。金融危機がリーマン・ブラザーズの破綻で起きたわけではなく、金融危機の結果のひとつとしてリーマン・ブラザーズが破綻しました。
(※リーマン・ブラザーズとは、米国のニューヨークに本社を置いていた大手投資銀行グループのこと。2008年9月に米連邦破産法11条の適用を申請し経営破綻した)
リーマンショック後に米国の金融機関に対する規制が強化され、銀行のバランスシートも強くなりましたが、リーマン・ブラザーズのような大型金融機関の破綻が今後起きないと言い切れるのか?私はそう思いません。
昨年(2021年)のアルケゴスキャピタルの破綻でも分かったように、金融機関がどんなリスクを抱えているか把握するのは難しいです。ヘッジファンドが1社飛んだだけで、取引先だった金融機関が1兆円以上の損失を計上することになりました(野村証券だけで28.5億ドル(1ドル=140円換算で約4000億円))。
世の中にアルケゴスキャピタルと同じようなヘッジファンドは他に何社あって、大手金融機関がこれらのヘッジファンドとどんな付き合い方をしているのか?はっきり言ってブラックボックスです。
■米国株はFOMC議事要旨発表の局面で天井を付けて下落。底打ちのサインや強気相場転換のサインは見えない
米株の目先の動きはどうなるのか?
難しい質問ですが、少なくとも前回のnoteの記事(※)で示したパターンに沿って株価が下がっています。
(※)「FRBは何を言っているのか?2022年の米国株はFOMC議事要旨発表のタイミングで天井をつけている」
底打ちのサインや強気相場転換のサインは見えません。