見出し画像

午前2時、LSDのリズムで。


 いや「おまえ言葉フェチだろ」って言葉フェチじゃない詩人っているの? で午前0時。あたしはビルの屋上から、聴き慣れたリズムに乗って飛び降りる。晴れわたった夜空はきらきら煌めくダイヤに満ちて、なんかこれええやん? 悪ないやん? なんて悦に入ってるとやっぱ墜落。まあ夢っていつもこんなもんだわね。人生と一緒ね。そんで布団の上で髪ぼさぼさ。お肌も荒れて。しょうがないからコンビニでお茶でも買うてこよか、とか思ったりして。

 とは言いつつもなんかドン・キホーテに跨ったサンチョ・パンサに跨ったロシナンテ。みたいな感じ? つまり、バランスむちゃくちゃ悪いってことね。そいでまた布団に戻る。この繰り返しで夜はいつでも不毛地帯だ。ともだちの罰子ちゃんからライン。ウェルギリウスとメフィストフェレスをともども欠いたあたしらの都会であたしらに迷走以外の何ができるか。えっ何なんこれって質問なん? うちに訊いてきてるん? 知らんがな、そんなん。


☆☆☆☆☆☆☆


「やっぱクラシックより株式市況だよな」「おれ法華経」「おれ四書五経」キャット・ウーマンふうの黒革のコスに全身をぴっちり包んだスタイル抜群の女の子を目の前にしてどぎまぎしない男子って世界に何人いるんだろうか。俺ほどじゃないにせよ誰だって平静ではいられないはずだ。真剣になるほどふざけちまうのは俺らの都会の特徴ってよりたぶん人と人との関係ってものが古今東西そんなぐあいになってんだよな。あくまでも俺はそう思うってだけだが。19世紀末ウィーンに実在した殺し屋(むろんとびきりの美青年)の出てくる映画をおまえとふたり肩寄せ合ってソフィーで観てると、奴がカフェでぐうぜんウィトゲンシュタインと隣り合わせに坐るってぇいちばんシビれるシーンでおまえが席を立つもんで俺はすっかり萎えちまったぜ?


☆☆☆☆☆☆☆


 ソフィーって誰、つーか何? ソフィーで観てるとかマジ意味わからんけど。で午前1時。19世紀末ウィーンに実在した殺し屋(たしかにちょっとハンサムだけどまるであたしの好みじゃない)の出てくるその映画はあくまでも架空のものであって実在しません。行ってもいない駅のホームで居もしないともだちからわけのわからんラインもらって途方に暮れてるあたしはまたもビルの屋上から飛び降りる。晴れわたった夜空はきらきら煌めくダイヤに満ちて、そこそこオッケー。なんだけれどもほんとは少し足りない感じ。ほらライオンがいて案山子がいてブリキのなんかがいてドロシーもいて、それでも皆なんか足りないっていうあの感じ。だからせめて、あたしらの都会でいつかあんたに会えればいいなとあたしは思うあんたが実在してくれたらいいって思うドロシーみたいにソフィー(だから誰?)みたいに切実に思う。

ここから先は

870字

いくつかの短篇といくつかの詩。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?