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<おとなの読書感想文>彼女のいない飛行機

梅雨が明けた途端、うだるような暑さの日が続きます。くれぐれも体調には気をつけたいものです。

それにしても、夏ってどうしておどろおどろしい特集が増えるのでしょうか。
世にも奇妙な〜とか。本当にあった〜とか。
先日はテレビで金田一耕助氏の姿も目撃しました。ミステリーは、この季節の風物詩なのですね。

そんななか、知人におすすめされたのは、今の時期にぴったりな本だったと言えます。もっとも、夏のお話というわけではないのですが。


「彼女のいない飛行機」(ミシェル・ビュッシ 平岡淳/訳 集英社、2015年)

1980年。その悲惨な飛行機事故で、乗員乗客の生存は絶望的と言われていました。
しかし現場に駆けつけた救助隊が、ただひとり乳児の救出に成功します。
「奇跡の子」の出現に人々は喜びますが、これは新しい事件の幕開けでもありました。
なぜなら、同じ飛行機に乗っていた乳児は、ふたりいたからです。
ふたつの家族は奇跡の子を巡って、真っ向から対立します。。。

物語は私立探偵、グラン=デュックの手記を中心に、奇跡の子リリーが本当は何者なのかに迫ります。
文庫本ながら片手で持つとずっしり重いボリューム。640ページの超大作にはじめは戸惑ったものの、読み始めると止まらなくなりました。

真相解明までの展開を引き延ばし、これでもかと焦らせるのは「続きはコマーシャルのあとで!」の手法に似ているし、あれ?これ18年間も気づかなかったの?と意地の悪い疑問も湧きますが、そこはエンタメと思って。

とりわけ本編にはあまり関係のないと思われるエピソードも、物語を奥深いものにしていてわたしは好きです。
冒頭の一回限りのシーンは胸を打つものがあるし、学生街のカフェのマダムの人柄にあたたかい人間味を感じます。
ひとつの事故は多くの命を奪いましたが、同時にその家族たちの人生も変質させました。本来は善でも悪でもない人間が、否応無く嵐に巻き込まれてしまった切なさが、このお話の魅力です。

ダイナミックで疾走感のあるフランスミステリー。
 シトロエンHトラックに乗って主人公マルクと一緒にリリーを探す旅に出かければ、謎解きの快感を存分に味わえることでしょう。

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