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アイロンと海原

※先日東京国立近代美術館「ピーター・ドイグ展」を訪れました。イラストは「Blotter」のオマージュ作品です。

これまで、毎日スーツをぴっちり着こなさなければいけない仕事にはついたことがありません。

どちらかといえば機能性重視、動きやすければなんでもいいというような職場ばかりだったので、朝しわしわのシャツにカーディガンをひっかけて家を飛び出していくのが常です。
このようなわけで、普段は手入れ最小限でもなんとか着られる素材の服ばかり選びがちになります。

たまに少しばかりきちんとした格好をしたいときは、押し入れにしまってあるアイロンを取り出します。
アイロン台の代わりに、手近の座布団の上に洗濯物を置き、場合によってはハンカチで当て布を。コンセントをさし、温度のダイヤルを合わせてしばらく待てば準備完了です。
面倒くさがりつつもわたしは、アイロンがけが結構好きなのです。

そで、前身頃、後ろ、えり。
アイロンの船の舳先が、熱い蒸気を上げながらワイシャツの海をすべっていくのは快感です。
波打っていた水面がまっすぐ伸ばされると、こちらの丸まっていた背も引き伸ばしてくれそうな、そんな気持ちになるからです。

だからといってアイロンがけが上手なわけではありません。
時間をかけたわりには残ってしまっているこのしわや折り目は一体どうしたものだろうか。

クリーニング屋さんにハリハリピンとシャツを仕上げるコツを聞きたいものですが、聞く前に知り合いから、「それは使っている道具の性能が全然違うのよ」と言われてしまいました。
わたしの座布団に比べて、クリーニング屋さんの使う台は何倍も大きな大海であり、走らせる船も何万円もする高性能なアイロンなのだそうです。
うーん、納得。

そこまでの資本を投入することは難しいので、どうしてもな時はプロにお任せするとして、今日も家庭用アイロンでのんびり温まった布地に触れてみます。

ささやかながら、日々幸せだなあと思うのはこんなときです。

画材費、展示運営費、また様々な企画に役立てられたらと思っています。ご協力いただける方、ぜひサポートをお願いいたします。