バリューチェーンの進む道

産業化された資本主義においては、バリューチェーン無くして経済を語ることはできなさそう。バリューチェーンは、サプライチェーンから顧客まで続く価値の連鎖で、理念的には市場を価値の源泉として、そこで顧客を獲得することで、原材料から一貫して流れるチェーンの中で価値を分配する仕組みだといえる。

しかしながら、バリューチェーンが支配的となった社会では、顧客もすでにバリューチェーンの一員であることがほとんどで、そして企業がバリューチェーンの囲い込みを厳しくする中で、純粋な需要と供給から成り立つ市場というものはほとんど成立し難くなっている。それは、どこかのバリューチェーンに属する顧客層をいかに取り込むか、というバリューチェーン同士の駆け引きと取引、そしてそれぞれのバリューチェーンに属する構成員のバリューチェーン内での地位向上モチベーションによって商取引が成り立つ、という仕組みで、個々人の純粋需給というよりも、バリューチェーンの構成員としての合理的行動によって成り立つ、市場というよりも、それ自体大きな組織の一部のようなものになっているといえる。

そんな場合、バリューチェーンは、その内部に循環する価値を最大化するためには、シェアを増やす、つまりライバルを倒すか、あるいは顧客以外、端的に言えば政府の補助金を頼りにして価値を増やすか、ということをしなければならないようになっているといえる。これは、現代でありながら、非常に中世的なイメージである。つまり、組織内での御恩と奉公の関係性で、バリューチェーンという大きな組織に貢献することでそこでの価値の分け前を増やすことができ、そしてそれは、ライバルという敵をやっつけるか、あるいは政府という神にどれだけ近づくか、という、いわば宗教的な世界観の中での価値の奪い合いになっているといえるのだ。

さらに、バリューチェーンに基づく資本主義がグローバル化することによって、世界規模での価値帝国主義のようなものへ向かうのは必然だといえる。折りしも、世界は、例えば環境のような普遍的価値観によって価値尺度が均一化しつつある。そして、いかにSDGsで多様な価値を追求できるようにしたとしても、それは世界中の人に一つづつ独自の価値を与える、などということは到底できず、そうなると、特定の価値、典型的には脱炭素、と言った特定の価値観に経済的価値が集中するということになり、その価値のシェアを増やすために経済帝国主義的な戦いが始まることになる。つまり、機能面で大きな差がない中で、バリューチェーン全体での力比べで価値の分配が決まるようになるのだ。それは決して技術革新促進的なものではなく、力を持っているバリューチェーンがその力で他者を圧倒することを正当化する、パワー・エコノミクスとでもいえるようなものであるといえる。

これは、バリューチェーンというもの自体が非常に強い求心力を保つために起きる現象であると言える。つまり、既得の価値を手放さないようにチェーンにがっちりしがみつく、ということが合理的行動となれば、自分の属するチェーンが負けるわけにはいかないという考えが強くなり、排他的な力比べがどんどん強くなるのは必然だといえるのだろう。だから、一旦バリューチェーンが支配的になると、それは自己増殖的に経済帝国主義色を強め、パワー・エコノミクスへどんどん加速してゆくことになりそう。それは、明らかに地獄への道を突っ走っていることであり、どこかで止めないと取り返しのつかない破滅が待ち受けているだろう。

だからまず、バリューチェーン的な資本主義から、もっと柔軟度の高いネットワーク的なものに変わる必要があるのだと思う。それには、いつも書いているような、法人の株式保有禁止や、あるいは銀行によるもの以外の企業貸付を禁止すると言ったことでバリューチェーンの力を弱める必要があるだろう。そして、このように呼吸がほとんどできなくなっている市場を蘇生させるためには、資本主義のベースとなっている貯蓄の考えをもう少し整理する必要があるのではないか、と感じる。経済学においては、投資に用いることのできる金融資産を貯蓄としてカウントしているが、これは利益率の高いところへ投資する、という点で、社会的には貯蓄とは言い難い。貯蓄というのは、社会的に必要なところへ回る資金であるといえ、正の金利ではそれは実現し難い。つまり、社会的に利用可能な貯蓄を定義するとすれば、負の利率にそれが適用されている金融資産の額を掛け合わせたようなもの、つまりその期間内に投資されなければ消失してしまう金融資産を社会がどれだけ許容しているのか、というのが社会的貯蓄の額だといえるのではないだろうか。利益率ではなく、社会的貯蓄の額を政策目標に変えれば、市場は大きく息を吹き返すのではないだろうか。

新しい資本主義とは、こう言った考え方の抜本的な変化を求めるのかもしれない。

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