40代から始めた口腔ケアの旅・歯列矯正で見つけた新しい自分
普通「歯列矯正」といえば、子どものうちにやるものだけど、私は40代半ばに矯正を始めた。
実は私、物心ついた頃から自分の歯並びの悪さに辟易していて、これが長年のコンプレックスだった。結婚しても子どもが生まれても、いい歳のおばさんになっても、ずっと歯並びの悪さが原因で自分に自信が持てなかった。でも、矯正というお金も時間も労力もかかる大掛かりで大変なことを始める勇気がなかった。ずっと保留のままにしていた。
そんなある日、同居していた夫の父(私から見て舅・義父)に病気が見つかった。「口の中に何かできものができている」という介護サービスのスタッフさんからの指摘があり、近くの口腔外科で診ていただいたところ、「口腔がんの疑いあり。大きな病院で診てもらうように」と診断が下されたのだ。慌てて紹介状を持って地元の総合病院へ行き、検査してもらった結果、「口腔がん」だと分かった。
本人抜きで病院と家族との懇談があり、医師からは「もし治療となると手術をするにしても、それ以外の化学治療になっても、老体にはつらくて厳しい闘病生活になる」と説明があった。そこで、(本人抜きで)家族で話し合った結果、もう年齢が年齢で(当時90代)、車いすじゃないと移動できないくらい身体が老衰しているし、義父本人は口の中にできた腫瘍について「全然痛くも痒くもないぞ」と言ってケロッとしているし、何より認知症による短期記憶の消失が始まっていて、5分前のことも覚えていられないほど忘れっぽくなっているので、もしも治療を無理に始めたら、義父は状況が飲みこめず混乱してしまうだろう。これらの状態を加味して「治療はしないで様子を見る」「万が一の時は緩和ケアセンターに入院する」ということになった。
この間に、私は「口腔がん」について調べてみた。すると、いろんな原因の中に「口腔内が不潔」「歯並びが悪い等の理由で、頬の内側などに常に歯が当たり、その刺激でガンができやすくなる」というのがあることを知った。
確かに、歯並びが悪いと、どんなに時間をかけて丁寧に歯を磨いたつもりでも、磨き残しが必ず生じてしまう。これが口腔内の不潔につながることは、自分の体験から身に染みてわかっていた。あと、口の中の刺激についても思い当たることがあり、たとえば食事中、何かを食べているとき、(歯並びの悪さが原因で)食べ物を噛んでいる最中に頬の内側を思いっきりガリっと噛んでしまうことが多々あった。また、歯が当たっている箇所がその刺激で口内炎になることもよくあった。
これって私も可能性が大ではないか。ヤバいかもしれない…。
私は自分も該当することを知り、だんだん不安になった。
やがて義父が緩和ケアセンターに入院することになり、当時、家族で自由に動けたのは私だったので、私が毎日病室に通い、義父に寄り添ってきた。このとき、口腔がんという病の大変さを義父の姿を通して学んだのだった。
義父を見送ったあと、私は歯列矯正を受けようと腹をくくった。
近くの歯科で相談したら、矯正専門のクリニックを紹介してもらい、そこを受診。私ももう若くはないので、治療に耐えうる歯か?否か?…と心配したけど、検査の結果「大丈夫です。できますよ」と言っていただき、背中を強く押してもらった。私はこのクリニックで矯正治療を受けることにした。
治療方針が決まると、まずは小臼歯を4本抜歯するところから始まる。その後、ブラケットを装着してもらい、毎月一回、ワイヤーの調整でクリニックにコツコツ通い続けた。噂には聞いていたけど、ホントいろいろと大変だった。
大変の中身を具体的に言えば、まずは「痛い」こと。抜歯やワイヤーの調整も痛いけど、口内炎の痛みも地味につらかった。ブラケットが頬の内側に当たるため、体調が悪いと、当たった場所に傷ができて口内炎になってしまうのだ。リステリンで口腔内を毎食ごとに洗浄して、傷ができてもすぐに治るように心がけた。
次に大変だったのは「歯磨き」。ブラケット装着中は虫歯ができやすく、万が一虫歯ができると、矯正治療の進捗に差しさわりがでるため、先生からは治療が始まると同時に「絶対に虫歯を作らないように」と厳しく言われていた。それでセッセと歯を磨くのだけど、歯ブラシ・歯間ブラシ・フロスなど様々な歯磨きグッズを駆使して、根気に丁寧に歯を磨かなくてはいけない。お出かけ先へもこれらの道具をバッグに忍ばせ、外食後に歯磨きが出来そうな場所を探して、せっせと磨き続けた。これが結構大変で、歯のためにどんだけ時間とエネルギーを注ぎこむのか?と言われるくらい、時間をかけてシャカシャカやっていた。面倒くさいけど、やらざるを得ない。
次に大変だったのは「人の目」。ブラケットって結構目立つので、知り合いに会うと必ず「あれ?どうしたの?」と聞かれる。聞かれれば、いちいち説明しなくてはいけない。説明すると相手は自分の主観で「大人の矯正」についてあれこれ意見してくる。…とまぁこのルーティーンが私にはストレスだった。冬~春先はマスクで隠せるけど、夏はマスクができなかったので(コロナ前の話)、あまり人目に触れないよう静かに暮らしていた。
だけど、こんな数々の苦労を乗り越え、50代に入る頃、無事にブラケットを卒業。今は保定期間も無事に終了し、たまに保定用装置のリテーナーを装着したり、半年に一回、歯のチェックで矯正クリニックに通っている。
40代のとき、義父の病気を通して決意を固め、思い切って始めた歯列矯正だけど、今は「やっておいて本当によかった!」としみじみ思う。お陰で歯並びに自信がつき、対面でもZoom会議でも、誰の前でもニコッと歯を見せて笑顔を作れるようになった。
あと、今もブラケット時代の歯磨き習慣が骨身にしみていて、今も時間をかけて歯を磨いている。フロスで歯と歯の間もきれいにしているし、歯磨きの仕上げには歯茎を修復する効果があると言われているリぺリオで、歯茎マッサージもしている。口腔ケアはバッチリだ。コロナ禍には、この念入りな口腔ケアのおかげなのか?一度もコロナに罹ることがなかった。今も毎日元気に過ごせている。
この歳になると、見た目とか美容よりも、やっぱり「口腔ケア」が命になる。
歯は本当に大事。私の周囲にいる後期高齢者のご隠居さんたちを見ていると、老後の生活のクオリティーは「自分の歯をどれくらい大事にしているか?」で決まるんじゃないかな…と感じる。私も8020運動じゃないけど、高齢期に入っても自分の歯でごはんが食べられるように、マイ歯のケア(歯活)に勤しみたいと思う。