アデレードでの2ヶ月
アデレードに単身で来て2ヶ月が経った。仕事は始まって1ヶ月半。
正直、今の気持ちは「楽しい」とは真反対にある。
今回は非常にネガティブな内容かつ長くなることは間違いないが、自分の備忘録というか、いつか「こんな時もあったのか」と後で笑って読み返せる時が来るように願いたいのと、この瞬間にどこかで同じような気持ちでいる誰かと共有できるかもしれないと思ってあえて吐き出しておこうと思う。
仕事は予想していたよりも、精神的に追い込まれた感じがある。頭では分かってはいたのだが、中に入って実感して、想像していた以上に打ちのめされた、という感じ。
まずは自分の下手な英語のせいで上司、同僚、事務のおばちゃんとコミュニケーションが取れないことに始まり、極め付けは、Emergency Department (ED)から入院を含めた相談をするGeneral Medicine(総合内科)への電話コンサルトで言いたいことがうまく伝えられない、言われていることが理解できない、そして反論もできない、というもの。
EDの上司は、EDに私と同じようなIMG (International Medical Graduates)も多数在籍しているし、私が最近勤務開始したばかりということも知っているので、事情も理解していて、同僚同様優しい。しかし、コンサルト先はそんなこと知ったこっちゃないので容赦はない。「これくらい当たり前に知っておくべきでしょ?」と言われたこともあったし、「お前の言っていることは意味がわからない、コンサルタント(上司)に電話させろ。」と言われたこともあった。ここでのやりとりが思うようにいかず、まず精神的に大きく落ち込む。
そして、業務の進め方、物の配置、薬品の見かけ・名前・使用方法、診断後の管理方針、職種ごとの守備範囲、Allied healthをはじめとした医療福祉サービスなどなど、何もかもにおいて日本とは全く異なり、「無知」なので、作業にもとにかく時間がかかって仕方がない。ここで驚いたのは、採血・静脈ライン確保が結構医者の仕事になるということ。日本では公立病院にいたので、ほぼ全て看護師さんがしてくれていた分、オーダーや診療に集中できていたが、静脈ライン確保・採血、ラベル貼って検体も自分で送る、となるとそれなりに時間が取られる。造影CTを撮るかもと予想する患者さんには20Gラインが必須なので、確実に仕留めるにはエコーを使ったりすることも必要でさらに時間がかかる。時間がかかる割に、患者の診療が進まない。IMGの同僚はみんな「慣れるのに6ヶ月くらいは時間かかるから大丈夫」と励ましてはくれるが、医学生よりもインターン(PGY 1)よりもできない自分が情けなくなり、精神的に落ち込む。
事務手続きにしても、書類を出してないとか、担当者が誰かわからないとか、カードがうまく働かないとか、毎日何かトラブルが起こる。入職して説明なかったの?と言われそうだが、そのようなものはほぼなかった。臨床現場には、Practical Policy Governanceなるものが日本以上に浸透していてきっちり標準化されている割に、新規就職者への給料の支払いとかsuper annuation(日本で言う確定拠出年金)とか、Salary packagingとかの事務的な説明はなかったので、小出しに「あれ?そういえば聞いてないけど…」が頻発してくるのだ。そして日々の暮らしの光熱費の引き落としができなかったから再手続きとか、できればしたくない電話の折り返しとか、仕事以外の事務トラブルへの対応もここへ加わる。これもまた手探りで自分でもちろん英語で助けを求め、解決していかねばならず、疲労とストレスがボディーブローのように効いてくる。
体調面も、良いとはいえず、食べ物なのかストレスなのか気候なのか、原因はよくわからないが肌荒れも最高潮で、顔中の湿疹が治らないし毎日下痢をする。
家族に「こんなことがあってさ、気持ちが落ち込んでる」と話ができれば良いのかもしれないが、完全に自己の都合でオーストラリア行きを決めたため、家族には弱音は吐けない。むしろ日本で、ワンオペで頑張ってくれている夫にも、母不在で頑張っている娘2人にも、弱音は吐いたら申し訳ないと思っている。では友人は、というと、結局自由時間を尊重してシェアハウスではなく1人暮らしを選択したので、日常的に話をする友人も今はほぼいない。日本の友人とメールではやり取りはあれど、こんなネガティブなことを述べるのは、やはり申し訳ないように思ってしまう。
仕事が始まって1ヶ月は頑張れていた。仕事に行くのが憂鬱でも、なんとか起きて、運転して、病院へ向かった。思えば、それはいわゆる「ハネムーン期」で、何もかもが珍しく張り切って頑張ろうと気力でカバーできていた時期だったのかもしれない。しかし、ハネムーン期が終わり、現実が見え、時間が過ぎても一向に改善されない自分のパフォーマンスと向き合い続け、自分の至らなさばかりに目が行くようになり、徐々に追い詰められてきた感があった。アデレードは空港が近いので、空を飛ぶ飛行機の音が聞こえる度に、空を見上げて「あれに乗ったら日本に帰れるのに」と涙が溢れた。そして、ついに、ストレスなのか単に体調不良だったのかはわからないが、7月末の6連勤の5日目の朝にひどい頭痛に襲われて全くベッドから起き上がれず、1日だけsick leaveを取った。
You tubeやSNSで私のようなネガティブな体験談も探してみたけれど、日本人は弱音を吐きたがらないのか、そういった経験談は多くは見つけられなかった。3ヶ月は大変、とは書いてあるものの詳細は多くは語られていない。ただ、見つけたものの中に、対応として「できるだけお日様と行動を」とあり、それを実践しつつ、今に至る。お休みは、朝、買い物がてら散歩して1日をスタートすることにして夜更かしも控えることにした。肌荒れは、サプリメントを購入して飲んでみることにした。
sick leave、夜勤1日を経て、今日まで数日間、たまたま休日だったことが幸いして少しずつ気持ちも持ち直してきた。今日は道端のユーカリの花(冒頭写真)が満開で、とてもいい匂いを放っていた。それだけでも少し幸せな気分になった。
明日からまた仕事が始まる。また情けない自分と向き合う恐怖はあるが、前に少しずつでも進もうかという気持ちにはなっている。
次の2ヶ月後にはどんな気持ちでいれるだろうか。
多少マシになっていることを願って。
Natsu