DANONE PLACE AMSTERDAMに「WHYから作られるオフィスの強さ」を見た - 5th Smart Workspace Design Expo -
10月にアムステルダムで開催された Smart Workspace Design Expo では、カンファレンス本編2日間の前にプレカンファレンスとしてアムステルダム近郊のオフィスを Site Visit する機会がありました。そこで訪れたダノンのオフィスについて今回はレポートしたいと思います。
カンファレンス参加前に予習した内容はこちらをご覧ください。
上のポストの中で私は
DanonのオフィスではSustainability・Circular・Well-beingといったキーワードを意識して見学すると良さそうです。
と書いていますが、実際に見学したダノンのオフィスは、まさにそういったキーワードを体現している、今考えられるオフィスの最適解のひとつのように思えました。Site Visit でのプレゼンテーションスライド冒頭にキーワードとして書かれていた
Beyond just a place to work
というフレーズが全てを物語っている気がします。
ロケーションとオフィスのスペック
スキポール空港の目と鼻の先で、空港周辺の整然と区画整備された中に建つオフィスビルの1つといった感じ。敷地内にガーデンもあり、ゴミゴミしておらず広々とした敷地となっています。
(外観の写真撮り忘れました。。ググると出てきます。)
このオフィスは、世界で3つあるダノンの Global Headquarters のひとつとして建設されました。(あとの2つはパリとシンガポール。)ここで働く従業員は800人以上、それに対して固定席は240席(少ない!!)・会議室やフリーアドレスを含めた全座席数は1,100席となっています。地上5階地下2階の8,350㎡。地下は駐車場、1階はエントランス・食堂・カフェスタンドや Hospitality デスク(ヘルプデスク的機能)・フィットネスルームやゲームコーナー等のパブリックエリア、2階は来客用含む会議室や一部執務エリアの半パブリックエリア、3階以上は執務エリアとなっています。
オフィスの思想
以前のオフィスは2つのビルに分かれており、従業員が disconnect されていて弊害が出ていたため、新しいオフィスはオープンであることが必要だったそうです。数年前に会社としての新しい Vision ONE PLANET. ONE HEALTH が策定され、新しいオフィスはこの Vision に align することが絶対的に求められました。
DANONE PLACE AMSTERDAM は、予習編のポストに書いたとおり LEED Certification(ビルのサステイナビリティを評価する仕組み)や WELL Certification(ウェルビーイングな状態で居住できる環境かどうかを評価する仕組み)を取得していますが、それはこれらの Certification 取得ありきでオフィスを作ったわけではなく、ONE PLANET. ONE HEALTH の Vision に align するオフィスを作れば自然とこういった基準を満たすものになったということのようです。また、このオフィスを表す標語として、先にも紹介した Beyond just a place to work という言葉を使っていますが、「Beyond」の部分を1番大事にしているとのことでした。そして、Vision に align したり、 Beyond just a place to work していくためにはただオフィスを新しくするのではだめで、新しい働き方を取り入れるための Change Management や Workplace Concept Management が必要であり、それらを含めた1年半のプロジェクトとして取り組んだとのことでした。(1年半は非常に短く大変だったそうです。)
Seating Plan
これまでのダノン社員の働き方を調べた結果、終日同じ場所に座って仕事している人は全体の15%程度で、残りの人たちは多くの時間をMTGに割いていることが判明。そこで Mobility Based Working という新しい働き方を提唱し、以下3つの区分で Seating Plan を実装しています。
Residents:終日オフィスの同じ場所で仕事する必要がある人向け固定席(ほぼアシスタント職のみ)
Campus Mobiles:MTGスペースとワーキングスペースを行ったり来たりする人向け
Agiles:月に数日、週に数回のみオフィスに来るような人向け(別拠点からの来訪者含む)
フリーアドレス席や会議室利用最適化のため、MAPIQという activity-based working のためのオフィスプラットフォームを提供する企業と組んで、空いている席や会議室をスマホのアプリで簡単に見つけ予約する仕組みを取り入れています。
オフィス紹介
ではここからは写真を中心に DANONE PLACE AMSTERDAM のオフィス空間を紹介します。
最も象徴的な空間、全フロアを貫くアトリウムとグリーンウォール。
グリーンウォールは全て本物の植栽でできており、当初は生育が悪くいろいろ試行錯誤し、半年くらい経って今の美しい姿になったとのこと。ビル5階分に相当する高さのグリーンウォールはヨーロッパでも随一とのことで、このオフィスのアイデンティティのひとつになっているようでした。これだけ面積が広いと、CO2濃度の削減にもかなり効果があるそうです。
広々としたガラス面から見える外の景色や柔らかく差し込んでくる自然光が本当に美しく、清々しい気持ちになります。
グリーンウォールの向かいには大階段。ところどころクッションが置いてあり、ちょっとした休憩スペースとしても使えるし、全社会議を行う際はグリーンウォール前をステージとして、この大階段や各階アトリウムをぐるっと取り囲むカウンター席、グリーンウォール奥の食堂から椅子をかき集めてくれば、500人規模が一堂に会することが可能とのこと。
建物のエントランス入ってすぐのカフェスタンドエリア。天井が低く照明も抑制された落ち着いた雰囲気のこのエリアを抜けた奥に、先に紹介した5階吹き抜けかつガラス面に囲まれ自然光いっぱいのアトリウムフロアがあるという空間演出も見事。
レストランとオープンキッチン。
フィットネスルーム。週に1回20分ここで運動することが推奨されており、服を着替えず20分運動しても汗まみれにならないよう、室温を低く設定。フィットネストレーナーも常駐していて、トレーニング内容など見てもらえるそうです。シャワールームもありますが、それはここで運動した人向けというより、地球と人の健康のため自転車通勤を推奨しているので、その人たちが始業前にシャワーを浴びられるよう設置したとのこと。
自転車通勤の人向けロッカー。仕組みの説明はなかったが、スマホか社員証で操作するっぽい?数は結構たくさんありました。
ゲームコーナー。狭い部屋だが、テレビゲームほかオールドなゲーム機や折りたたみ式の卓球台、手動でくるくる遊ぶサッカーゲームなどがありました。(使用中で写真撮れず)
2階以上のアトリウム周りにはぐるっとカウンター席が。当初あまり使われないのではないか・・・と考えていたものの、想定以上によく利用されているスペースだそうです。
2階以上の各階には、アトリウムスペースのすぐ横にコーヒーカウンターが。複合機や社内各種お知らせを流すデジタルサイネージ、ゴミステーション等もここにあり、人が集まるエリアとして設計されていることがわかります。そしてこのスペースの裏に執務エリアが設置されています。
WHYから作られるオフィスの強さ
DANONE PLACE AMSTERDAM を表面的にとらえると、「フィットネスルームやシャワールーム、ゲームコーナーまであって至れり尽くせりの福利厚生が充実しているし、オフィスもすごい吹き抜けとかお金かけてかっこよく作られていて羨ましい。うちだってあれもやりたいしこれもやりたいし。。」となってしまいますが、それらは One Planet. One Health をあらゆる観点から実現するためである(それが地球のためであったり従業員のためであったり)という揺るぎない WHY がまずあり、全てはそれを体現するための施策であるということが貫かれていて素晴らしいと感じました。
こういったオフィスの充実度や従業員へのサポート内容は枚挙にいとまがないし、一人ひとり好みやこだわりが異なるので「それやるんだったらこれも欲しい」「それ置くんだったらこれも置いて」となりがちで、選択したものに対する従業員の不平不満(不公平感)がどうしても出やすいものだと思いますが、なんのためにそれを取り入れるのかという WHY が定まっていればそれを拠りどころとした説明がきちんとできますし、きちんとした説明があればより多くの人が納得してくれるでしょう。また、納得できない人は会社の WHY に賛同できないということですから、それであればそもそも方向性が違うかもねということでより自分に合った職場を探すこともできるでしょう。
私も日々オフィスとコミュニティに関する仕事をしている中で、「なぜそれをやるのか(やらないのか)」「なぜこのようなルールにするのか(しないのか)」ということはできる限りオープンにフェアに建設的に伝える、ということを大事にしたいと強く思っていますが、そのためには「なぜ」の拠りどころが必要で、ダノンのようにオフィス自体、そしてダノンでの働き方というものが強固な思想のもとに設計されている企業は本当に素晴らしいと思います。このようなオフィスの作り方をもし自分がやるとなったら・・・と考えると、死ぬほど大変なことが容易に想像できてそれだけで気が遠くなる思いですが、でもでも断然面白い仕事になるんだろうなあ。
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