愛知県の県立高等学校への併設型中高一貫教育制度の導入に対する素人雑感

 4月6日、愛知県公立高校界隈を賑わせた県立高校への併設型中高一貫教育制度導入に関するニュース。筆者の母校に直接関わる事項としては過去最大級のビッグニュースであり、プレスリリース当初は驚きのあまりコメントが出せなかった。
 それから数日経ち、少しばかり中高一貫になじみがある人たちに話を聞いたり、自ら関係論文を読み漁ったりする中で、このニュースに対するファーストインプレッションを整理することができるようになった。
 本稿では、明倫中学・県一高女開校、明和高校誕生に次ぐ、母校史上の3番目の一大画期となり得る併設型中高一貫教育制度導入のはじめの一歩に対する自らの第一印象を、自らのための記録、そして、この計画に対する思考整理の参考資料として閲覧者の皆様に役立ててもらえるよう、雑多にまとめていきたい。

1. 中高一貫教育とは

1.1. 中高一貫教育制度の導入経緯
 本章では、中高一貫教育に関する基本的な事項を整理していきたい。
 中高一貫教育という概念は、東海高校などの既存の中高一貫校になじみのある人にとっては意外かもしれないが、実は法的に整備されたのは1999年、今からたった23年前のことである。
 戦後、日本はアメリカにならい、複線・分岐型のエリート主義的学校制度から、単線の平等主義的学校制度を導入することになった。いわゆる、今日までなじみ深い、小・中・高・大の6・3・3・4制である。その後、何度か平等主義からエリート主義への揺り戻しがあり、高校入試制度などはその揺り戻しのたびに改革を迫られてきたのであるが、6・3・3・4の基本的な単線型は堅持されてきた。
 ところが、20世紀末には「ゆとり教育」が始まり、教育界にも自由競争の波が訪れるようになってくると、これまでの平等主義=画一的な学校制度も見直しを迫られるようになった。そして、1997年の第16期中教審第2次答申が「中高一貫教育の選択的導入」(ここで言う「選択的」とは、国が画一的に設置を求めるのではなく、各設置者の自由裁量で設置するかどうかを決定できるという意味)を提言し、翌年6月に「学校教育法等の一部を改正する法律」が成立、1999年4月から中高一貫教育が導入されることになった(大脇 2001)。6・3・3・4に加え、6・6・4の学校制度を採ることも可能になったのである。

1.2. 中高一貫教育の類型
 一口に中高一貫教育と言っても、その中には大きくわけて3つの類型がある。一つ目が、同一の設置者がひとつの学校として一体的に6年間の中高一貫教育を行う形態で、中等教育学校と呼ばれるものである。愛知県では、私立の海陽学園中等教育学校のみが存在するが、東京都や神奈川県などには都・県立の中等教育学校も存在する。
 二つ目が、設置者が同一であり、かつ、併設中学校(この中学校への入学者選抜は存在する)からの進学の場合、高校入学者選抜は行わないものの、中学校と高等学校がそれぞれ独立した形で存在する形態で、併設型中高一貫教育と呼ばれるものである。愛知県では、東海中学・高校や名教附中学・高校などの私立・国立の中高一貫校でよく見られる(高校入試を受けて外部の中学校から進学することが可能な併設型中高一貫校が多いが、愛知淑徳・金城・南山は外部進学枠が無く、この場合は完全型中高一貫校とも呼ばれる)。
 三つ目が、既存の市町村立中学校と都道府県立高等学校の間で連携、高校入学者選抜を行わずに進学可能とし、6年間継続的・計画的に教育を行う形態で、連携型中高一貫教育と呼ばれるものである。愛知県では三河の山間部の公立学校に既にみられる形態である。
 今回、愛知県が導入を検討しているのは、上記の二つ目の形態、併設型中高一貫教育である。

1.3. 中高一貫教育制度の導入意図
 このような中高一貫教育制度はいかなる意図で導入されるに至ったのか。
 1997年の中教審第2次答申によれば、「ゆとり教育」が目指される中、6年間の一貫した教育を導入することで、生徒に受験圧力から解放されたゆとりある学校生活を享受させ、中等教育の複線化によって主体的な進路選択と多様な教育の機会の提供を図ろうとしたとされている(油布・六島 2006)。
 ここで注意したいのは、中高一貫教育制度があくまで「ゆとり教育」の流れの中で設計されたものであり、中高一貫校が受験エリート校化したり、受験競争の低年齢化につながらないように十分配慮するという旨の国会での付帯決議があるほど、エリート主義と安易に結びつかないように意識されてきたということである(大脇 2001)。大脇(2001)は、中高一貫教育に関する政策意図は本音と建前の分離から一貫性を欠いていると主張し、多様に輻輳化した政策意図と要因を次のように5つに大別している。

1) 教育の多様化の一種としての特色ある教育実現
2) 目的的で効果的な教育の実現
3) 私立中高一貫校に対する競争力の回復(受験エリート校志向)
4) 学校と地域の連携強化による地域の振興
5) 中等教育制度の複線化への試行

 中高一貫教育というと、単にエリート主義に結びつける論調が多いが、実のところ、上記のように多様な政策意図・要因が絡み合いつつ、各団体・階層の利害関係を調整する形で導入が進められるというのが大脇の主張である。

1.4. 中高一貫教育の展開
 
1999年以降、中高一貫校は徐々に増え続け、2021年度時点では全国に740校の中高一貫校が存在している。全国の高校数(中等教育学校を含む)は4912校(文部科学省「令和3年度学校基本調査(確定値)」)であり、高校全体の約15%が中高一貫校ということになる。

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【図1】実施形態別 中高一貫校の設置校数の推移(愛知県HPより)

 【図1】を見ると、もっとも多い中高一貫校の形態は併設型であり、特に私立で増加が著しいことがわかる。公立では、連携型がもっとも多いが、その増加は頭打ちとなってきており、併設型が少しずつ増えてきていることがわかる。公立の中等教育学校または併設型中高一貫校を設立した都道府県数は、現在、41にのぼっており、愛知県はこの数字を前面に出しながら、自県が残りの6県であることに対して焦燥感を漂わせている。
 しかしながら、愛知県において公立の中高一貫校が長らく設置されなかったのには、おそらくもっともな理由が存在する。俗に「公立王国」と呼ばれる愛知県においては、わざわざ公立の中高一貫校を置いて生徒を呼び込む必要がなかったという理由である。これに関しては、公立中高一貫校拡大の規定要因分析を行った濱本(2012)が、私立中学校のシェアが高い都道府県ほど、中等教育学校や併設型中高一貫校の設置が加速することを明らかにしている。大脇が示した中高一貫教育制度導入の政策意図の3)に挙げられている通り、「私立中高一貫校に対する競争力の回復」が実際に中高一貫校設置に際して大きな影響を及ぼしているのだ。

1.5. 中高一貫教育の現状と課題
 最後に、この20年間でシェアを拡大させてきた中高一貫教育が、現在、どのような方向に向かいつつあり、どのような課題に直面しているのかを整理していく。
 1.3で確認したように、中高一貫教育制度導入の意図は、中等教育における多様な選択を可能にすることと生徒を受験圧力から解放させることだった。油布・六島(2006)は、中高一貫教育制度導入7年目の段階で、こうした構想がどこまで実現したのかを調査している。
 それによると、多様な選択という面においては生徒らが中高一貫校に特色ある教育を期待する反面、学校側は教育内容というよりかは、個別指導などの指導方法の面において特色を出そうとする傾向が強いことが示されている。ここで指導と言った時に念頭に置かれるのは大学受験に関わる指導が多くを占めることになろうが、受験指導を以って特色とするような学校では教育の機会均等の理念を崩しかねず、公立学校(特に中学校は義務教育学校)としてのメンツにかかわる。中等教育というある程度高度な学習が可能となる時期において、6年間中断されることのない教育期間を持つ強みを十分に活しながら、教育内容においていかに特色を出していくかが課題となっている。各学校が独自の教育内容を強みにしたセールスポイントを前面に押し出しながら小学生に選択肢として提示できるようになって初めて、多様な選択が可能となったと言えるのだろう。
 受験圧力からの開放という面においては、生徒は中高一貫教育の魅力を「高校受験がない」などの「ゆとり」に見出しており、教員もまた高校入試の影響を受けないことを中高一貫教育の長所として認識していることが明らかにされている。受験圧力からの解放という側面はある程度実現しているようである。しかしながら、「高校受験がない」ことによる受験圧力からの解放は、解放された圧力が両端にしわ寄せされる懸念がぬぐえない。つまり、中学受験が必要となることによって引き起こされる受験競争の低年齢化と、高校入試がないことで学習のモチベーションが下がるといういわゆる「中だるみ」(=大学受験に苦労することになる)が課題となってくる。
 「中だるみ」問題に関しては正直自己責任な部分はあるだろうが、学校側も学習のモチベーションを保つ工夫を施すことで「中だるみ」を軽減していく努力は必要だろう。高校受験がないと聞くと、公立中高一貫校になじみがない私たちはなんとなく受験の洗礼を受けた学部生の方が「中だるみ」した内部生より賢いのではないかと思いがちかもしれないが、併設中学校を持つ京都府立福知山高校の卒業生に聞いたところ「内部生の方がデキるやつが多い」という。すべての中高一貫校がそうではないだろうが、「中だるみ」問題については私立大学の内部進学云々と同列に語らない方が賢明であることは間違いない。
 受験競争の低年齢化という課題については公立学校として注意を払うべきものである。Müller and Karle(1993)らが「親の意思決定が強く影響する幼い段階ほど階層的な要因が強く働く」という説を提示しているように、12歳の段階での進路選択は出身階層によってその選択肢の幅が規定されてしまう側面が強い可能性があり、エリート主義的な言説と結びつきやすい。つまり、公立中高一貫校は公立の義務教育学校でありながら階層構造の再生産に加担する機関となり得ると批判されても仕方がないのである。ただ、これに関しては興味深い研究結果がある。国私立中学校への進学に対して出身階層の影響力が存在するのかどうかを調査した濱本(2015)は、①国私立中学校進学に対しては出身階層の影響力が存在し、②その効果の大きさには高校以上の段階と比較して暮らし向きが大きく影響しており、父職や父学歴はそこまで大きくは影響しないということを明らかにしている。これらの結果からは中学受験という進路選択は「お金の問題」としての性格が強いということがうかがえる。そうであるならば、国私立中学校に比べて学費がかからない公立中高一貫校は逆に階層再生産機能を打破する可能性を秘めてはいないか。
 ベネッセ教育総合研究所が2012年に実施した「中学受験に関する調査」では、上記の考察を裏付ける興味深い結果が現れている。

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【図2】第一志望別世帯年収
(公立中高一貫校・私立中学校志望の世帯については前述のベネッセ教育総合研究所の調査より、全子育て世帯年収については内閣府による「平成20年度 少子化社会対策に関する子育て女性の意識調査」よりデータを引用し、図は筆者が作成。ベネッセの調査では首都圏のみが調査対象となっている)

 【図2】を見ると、公立中高一貫校を第一志望とする世帯は、私立中学を第一志望とする世帯に比べて、全子育て世帯に近い年収分布であることが一目瞭然であろう。小林(2013)は、こうした世帯年収分布に加え、両親の学歴などを加味しても、公立中高一貫校を志望する家庭は「典型的・一般的な世帯」と指摘している。公立中高一貫校は、学費が安いことはもちろん、学力検査ではなく適性検査によって入学者選抜を行うことが多く、そのため私立中学校を受験する時のように塾代に多額の費用をかけずに済む。こうした点から、公立中高一貫校は普通の家庭の子どもの選択肢として根付き始めているのだ。
 実際には、公立中高一貫校へ進学するという選択肢が保護者の頭の中に存在するかどうかによって子どもの進路選択の幅は狭められてしまうのだろうし(それは往々にして出身階層の問題に帰結する)、選択肢の問題をクリアしたとしても通学費や通学上の安全・治安の問題などによって再び階層差の影響力が強まることは十分に考えられる。小学校教員による進路指導や通学費補助などの取り組みでできるだけ階層の差を縮めていく必要があるだろう。また、小林(2013)は首都圏の公立中高一貫校を中心に、その受検者が公立中高一貫校を私立中学の併願校として受ける傾向が強まってきており、公立中高一貫校の受検のあり方が次第に私立中学化しているとも指摘している。「公立王国」としての愛知県が公立中高一貫校をどのように受け入れるかは未知数であるが、単に今まで私立中高一貫校に通っていた富裕層の選択肢としてしか機能しなくなるようであれば、それを県が設置する積極的理由は薄まるだろう。あくまで「公立」であることの矜持を持ちつつ、今まで中高一貫教育にたどり着くことができなかった、可能性を秘めた子どもたちに向けての選択肢となることを強く意識した制度設計が望まれる。

2. 愛知県での計画概要

 県立高等学校への併設型中高一貫教育制度の導入に関する概要については、愛知県教育委員会のホームページに詳細に記載されているので、詳しくはそちらを参照されたい。ここでは、重要な箇所をざっくりとまとめて記す。

2.1 愛知県における併設型中高一貫教育制度導入のきっかけ
 そもそも愛知県において公立中高一貫校の議論が出てきたのは、昨年12月に策定した「県立高等学校再編将来構想」がきっかけであったという。

 この「構想」は少子化による生徒急減期を見据えた愛知県が今後県立高校をどのように再編していくかということを示したものなのだが、その策定にあたって県内の全校長から意見募集を行ったところ、寄せられた意見の中にあったのが中高一貫教育制度導入の提案だったという(4月の明和会総会常任幹事会における小島寿文明和高校校長談より)。
 前章で述べた通り、愛知県では公立信奉が強かったため公立中高一貫教育制度の導入は今まで計画されてこなかったのだが、近年、愛知県においても私立中学校人気が高まってきている。2022年度の私立中入試では、過去7年で最多となる志願者数を記録したという(中日新聞 2022.4.7)。少子化による生徒急減期の到来と私立人気の攻勢、特色ある教育の要求などが合わさる形で、県は昨年度後半より中高一貫教育制度導入の検討を開始し、おそらく12月の「構想」策定には間に合わなかったものの、候補校の目星もつけてこの春発表となったのだろう。
 これは余談であるが、とある他県の元校長経験者に話を聞いたところ、こうした計画の発表には公には言えない理由やきっかけが必ず存在するという。少子化や私立人気といえば聞こえはいいが、実際のところ、海部・尾西地域の高校統廃合のパブコメで散々叩かれたことで県立学校に進学する生徒の早期囲い込みを図り私立流出を抑え、統廃合のダメージを軽減させる必要がある(だからこそ津島が候補の1つ?)との意識や、公立中高一貫校が必要とされるような「アクシデント」、今回の場合は私立中高一貫校生による東大刺傷事件が最後の一押しになっている可能性がある。
 現時点では決定事項ではなく検討事項であり、4月中に検討委員会を立ち上げて10月までに具体的な導入可否・計画の策定に取り掛かるという。
 これも余談だが、この計画については明和高校の職員もプレスリリースの日の朝まで知らされていなかったという。まさに水面下で検討が進んでいた。

2.2 中高一貫教育制度導入の候補校
 第一次の中高一貫教育制度導入候補校は以下の表の通り、明和高校、津島高校、半田高校、刈谷高校の4校である(表は愛知県HP「県立高等学校への併設型中高一貫教育制度の導入の可能性の検討について」より引用)。

スクリーンショット (2)

※1 高校の1学年の学級数(中学からの内部進学者と高校からの入学者の合計学級数)は2022年度の募集学級数を記載。併設中学校の開校時における高校の募集学級数は今後検討。
※2 明和高校音楽科への中高一貫教育導入の規模等については今後検討。

 地域のトップ層校ばかりが並ぶが、あくまで「第一次」導入校であり、この「試験導入」がうまくいったと判断されれば、今後も併設中学設置校は拡大していくだろう。また、他府県の多くの公立中高一貫校の事例と同様、高校における生徒数は、高校入試を経る外部生の割合の方が内部進学者に比べていずれも高く設定される見込みである。
 問題はなぜ「第一次」導入校にこの4校が選ばれたのかだ。県は、SSH事業や国際理解教育など、特色ある探究的な教育を実践している高校を候補として選定したとしており、中日新聞の報道では「特に中高一貫導入への希望が強い4校に絞った」とされている(中日新聞 2022.4.6)。しかしそれにしても見事に軒並み旧制中学由来の伝統校である。特色ある探究的教育など今のご時世どの高校でもやっているのだから、伝統校=進学校が選ばれるのはエリート主義的思想が働いているのではと思いたくもなる。ただ、筆者が考えるに、「試験導入」的に中高一貫教育制度を取り入れるにあたって、まずは進学校にという思考が働くことは仕方がない気もする。中学校を併置するのだから、学習に真面目に取り組める静謐な環境が整った高校を「試験導入」先として選ぶのは当然ともいえる。この考え方は普通科以外の実技系学科をどの高校に設置するかという問題と似ている。思い返せば、音楽科や美術科、被服科、食物科などは軒並み進学校に設置されていることがわかるだろう。
 では、そうした進学校の中でも明和・津島・半田・刈谷なのはどうしてなのだろう。ここからはかなり邪推でしかないが、そもそも愛知県への中高一貫教育制度導入提案では「都市部や人口減少地域など、それぞれの地域の特性にあった中高一貫校の設置」という意見が掲げられていた。注目すべきは、「都市部」と「人口減少地域」である。まず「人口減少地域」(かつ交通の便は比較的良い地域である必要がある)において、ある程度進学校として地域で認識されている高校をピックアップした時、候補として挙げられるのが津島と半田だったのだろう。事実、海部地域と知多半島南部の人口は減少傾向がみられる(愛知県HP「令和2年国勢調査結果速報」)。そして「都市部」においては一定数の進学校があるものの、三河で1校、名古屋で1校という地域的バランスは配慮する必要があったと思われる(尾張地区は津島と半田で2校消費しているため一宮などがここで除外)。三河では岡崎や時習館も候補に挙げられるが、各校の希望度や校舎建て替えの可能性などを考えて刈谷が選定されたのではないだろうか。最後に名古屋の1校であるが、候補としては旭丘、明和、瑞陵、千種のあたりになろう。こうしてみると、旭丘はOBと揉める(某市長の校舎建て替え座り込み運動を想起しながら)、瑞陵は理数科を設置してしまったなど、諸事情があるので、県庁からも近いし、同窓会も柔順な明和に白羽の矢が立ったのではと思っている(千種でもよかったと思うが、4校の中で1つだけ新設校なのも確かにおさまりが悪い。何より新設校だと前期中等教育を手中に収めていた経験がない←関係ない)。このように、選定された候補校を見るだけでも、おそらく、それぞれの候補校が地域との関わりの中で独自の目的意識を背負わされて中高一貫教育を導入していくのだろうということが読み取れる。

2.3 愛知県における中高一貫教育制度導入のねらい
 愛知県HPでは、愛知県における中高一貫教育制度導入のねらいについて、ゆとりのある計画的・継続的な教育指導と、中学1年生から高校3年生までの異年齢集団による活動を通して、以下のような教育を進めていくことが考えられると書かれている。

●「自分らしさの探究、創造・挑戦」
ア 新しい時代のイノベーションを創出する人材の育成
イ 知るを楽しみ、自らを高めていく
ウ 豊かな人間性と社会性の育成(ダイバーシティとSDGsの尊重)

 全国の公立中高一貫校の教育理念や教育目標を縦覧していると、「社会のリーダーを目指す」や「国際理解」などの文言が目立つが、愛知県ではできるだけ独自の理念・目標を打ち出そうとしたようだ。特に、アに関しては、産業の盛んな愛知県ならではの特色ある教育目標となっている。この特色がただのお題目にならないよう、生徒に実感されやすい取り組みとして形になることを望むとともに、適性検査においても、この理念・目標に沿った力が測定できる出題を心がけてほしい。

2.4 今後のスケジュールと明和高校への影響
 今後のスケージュールに関しては、2.1でも少し述べた通り、4月に検討委員会と部会の立ち上げ、5月以降、第一次導入候補校における導入の可否、具体化検討、中学校の施設整備に向けた準備、10月末に導入可否が決まり、11月には「中高一貫教育導入計画(仮称)」案公表、パブリックコメント実施、そして12月に「中高一貫教育導入計画(仮称)」策定という流れになっている。
 すでに4月26日には、第1回県立高等学校再編将来構想具体化検討委員会が開催され、中高一貫教育制度導入に関して現場の校長らからの意見聴取が行われた。中日新聞(2022.4.27)の報道によると、会議では、中高一貫教育制度導入に対して前向きな意見が出る一方で、小中学校側からは「中学校に付属高校をつくるくらいの高校側の意識改革が必要だ」「小学校教育への影響が心配」という意見が出たという。また、毎日新聞(2022.4.27)の報道では、「子供の選択肢を増やすことは良い」という声がある一方、「(関東の例から)進学加熱の早期化や格差拡大が懸念される」「義務教育をどう考えているのか。各地域でしっかり検討が必要」などの意見もあったといい、ある導入候補校の校長は「海外大学進学を視野に(海外大入学資格の)国際バカロレア認定も一つの選択肢。小中の先生とも一緒に考えたい」と話したとされている(この校長がどの高校の校長なのかを考えたとき、刈谷っぽいなと思ったが、出席者の中に刈谷の校長がおらず、明和の校長がバカロレア認定を視野に入れている可能性が見えてきた)。県教委は7月に再度、検討委員会を開く予定だという(読売新聞 2022.4.27)。
 では、年末までに計画通り、明和高校への中高一貫教育制度導入が決まった場合、その後の明和高校はどうなっていくのだろうか。
 まず、中学生を受け入れるだけの設備が足りないという問題がある。附属中学では1学年2学級の設置が予定されているため、3学年で6学級分の教室が余分になければならない。明和高校には、多目的教室などの空き教室はいくらかあるにしろ、さすがに6学級増に対応するだけの余裕はない。加えて、中学校の教職員のためのスペースも必要となる。理科室等の特別教室については高校と共用することが可能だが、中学校にあって高校にはない特別教室が1つある。技術室だ。それから中学生用のクラブハウスも必要だろう。これらの施設を補うために、校舎の増改築が必須となる。調べてみると、ちょうど中高一貫教育制度導入の話が出る少し前に、明和高校の現北館の建て替えのニュースが出ていた。

 おそらく県はこの建て替え工事によって附属中学校に必要な設備を備え付ける予定なのだろう。2022年度中には業者選定を行い、2025年に間に合うように北館の改築を行うものと思われる。仮に取り壊しが必要になれば、2013年度から2014年度にかけて行われた本館東側建て替え工事の時と同様、運動場の隅にプレハブ校舎が建ち、2023年度ごろから一部生徒はプレハブ住まいということになると思われるが、今回はプレハブに移さなければならない設備が多すぎるようにも思われる。現地建て替えではなく、移転建て替えということも選択肢に入っているかもしれない。クラブハウスについては、現棟もかなり古そうなので、いっそのこと全部建て替えてはどうかとも思うが…(建て替えの際、資料散逸に注意されたし!)ちなみにDB(設計施工一括)とは、デザインと建築を同じ業者にやってもらう方式のことらしく、「これはいいものができるってこと?」と建築学科の妹に聞いたら「そうなんじゃない」とのこと。
 次に組織的な話である。先ほども登場した他県の元校長先生によると、附属中学校の教員選定が意外と面倒らしい。というのも県が管轄する中学校がないため、人事的にいろいろとややこしいのだという。はじめての公立中高一貫校ということもあり、優秀でやる気のある先生を集める必要があるだろうし、高校の教員をどこまで活用するのかという問題もある。平林(2019)によると、中高一貫校に「戸惑い」を感じる教員は高校よりも附属中学の教員に多いという。公立中学校と公立中高一貫校では組織構造が大きく異なり(得てして高校の組織構造に寄りがち)、中学校教員はそのギャップに「戸惑い」を覚えるのだ。また、平林は調査の対象としたどの学校にとっても、異校種の「教育内容の決定過程」が見えにくいことが課題となっているということを指摘している。ハコモノだけが同じになって、中身の組織はバラバラというのではまったく意味がない。前述の4月26日の会議の報道で「中学校に高校が附属するくらいの意識改革」が叫ばれた通り、現場の教員が中高一貫校として両者平等の意識を持ち、情報共有を積極的に行えるような組織にしていく必要がある。
 さらに組織の話は何も教員だけに限らない。PTA、部活、生徒会など、ありとあらゆる組織が中高一貫となる。計画が策定されれば、2025年にかけて一気に規約等の見直しが迫られ、中高の各組織についてどこまでを統一し、どこまでを分けるべきかの線引きを行わなければならない。一般的には、異校種間の生徒交流が可能な点が中高一貫校のメリットとして挙げられるので、課外活動などを中心に中高合同の活動が多くなるはずである。学校祭も中高合同の開催となるだろうが、その際の委員会の体制などは大きく転換が迫られるだろう。
 最後に組織の話の延長として、人間関係に及ぼす影響について触れてみたい。中高一貫教育の話の中で、筆者が一番気にしているのは実はこの部分である。論文もいくつか漁ってみたが、探し方が甘いのも手伝ってあまりいいものが見つかっていない。新川・藤咲(2013)は、2010年度に男女別学の県立高校から男女共学の中高一貫校になった高校の生徒にアンケートとインタビューによる調査を行い、中学生が入学することによって感じた変化を尋ねている。それによると高校生たちは、部活動や行事などで自分たちよりも「幼い」中学生たちとともに活動することに困難や戸惑いを感じており、高校生活を楽しみたい高校生たちからは中学生の存在が否定的に捉えられている傾向が読み取れる。この調査はサンプル数が少なく説得力に欠ける面があるが、こうしたことが明和高校でも起きる可能性は十分にある。
 そして、何と言っても外部生と内部生という差異から生じる人間関係の濃淡が気になるところである。それに関しては、大嶽ら(2006)による中高一貫校における内部進学者と外部進学者の交流過程を分析した論考が興味深い示唆を与えてくれる。それによると、内部生から外部生に対する印象はポジティブ・ネガティブ・無関心の大きく分けて3つあるという。ポジティブな印象を抱く生徒は、外部生との触れ合いの中でネットワークが広がることに期待を持ちつつもその交流はやや受け身がちであるという特徴がみられた。ネガティブな印象を抱く生徒は、外部生を侵害者としてとらえる傾向があり、自分たちが中学の3年間で培ってきたものとは相容れない個性を持った外部生に警戒心を抱いたり、今の(内部生同士の)関係性が崩れることに恐れを抱いたり、学校のしきたりを理解していない外部生を面倒に感じたりするという。無関心層は新たな人間関係構築に消極的であり、そもそも学校自体に馴染めていない可能性があると指摘されている。外部生から内部生に対する印象は、ポジティブとネガティブの2つである。ポジティブな印象を抱く生徒は、内部生自体というよりかは学校全体の雰囲気に対して肯定的な印象を持つ傾向が強く、ネガティブな印象を抱く生徒は、内部生のネットワークを目の当たりにし、その閉鎖的・排他的な側面を強く感じ取っている傾向がある。そして、内部生・外部生両者のネガティブ・無関心の印象については、教師や保護者、先輩など、周囲の者によるサポートが、その印象の緩和に効果的であると考察されている。ここからは、内部と外部の壁を作らない校風の創出と先輩による交流促進が、内部外部交流の大きなカギを握るであろうことが読み取れる。クラスに関しては、高校によっては最初から内部外部合同編成、1年生のうちだけ内部と外部でクラスを分ける、卒業まで完全別クラス(明和高校では内部生が2学級であるため、文理分けの関係上、内部と外部でクラスを分けることができるのは遅くとも2年生までだろう)と様々であるが、もし1年生の段階だけでも内部と外部でクラスを分けるということになれば、交流の主要な場は部活動や委員会ということになる。
 個人的には、中学3年生になっても最高学年にはなれず、高校1年生になっても後輩がいるという環境があまり想像できないなど、懸念点は尽きないが、ともかく人間関係については制度の改変に恐れを抱くのではなく、自身が(繋いできた校風が後輩たちに影響を及ぼし、その後輩たちが)制度に色を付けていく、つまり附属中学の校風に明和の色を滲ませていくことによって、併設型中高一貫校としてのデメリットを緩和し、メリットを最大限生かしていくことができると考えられはしないだろうか。と、外からぼやいてみても、これを実現するのはまだ見ぬ78期・79期たちなのだが…。

おわりに

 この問題、難しいのは、2.4で見たように附属中学校開校時の生徒・職員・保護者が大きなカギを握るのに、その当事者がまだいないことである。だからこそ、老ガイの出番だと思ってこんなにはりきって書いてしまったが、11月にパブコメを送ってみようと考えた人たちにとって何らかの参考になっていれば幸いである。ぜひ、引用した文献も読んでみてほしい(小林(2013)以外はCiNiiで読める)。
 最後に、ここまで考察してきたうえで、明和高校が公立中高一貫校になる(かもしれない)ことについて、筆者の感想を述べると「やるならしっかりやろう」である。明和高校は現状のままでもいい高校ではあると思う。その現状に大きな変更を加えるのであるから、反発があることもうなずける。ただ、県全体の中等教育行政を見たときには現状のままでは課題が多い。やらなければならないことをやってみるのに明和が選ばれたわけだ。ならばしっかりやってみよう。中高一貫校となって旧帝大の合格者が多くなるかどうか、そんなことはどうでもいい。小学6年生にとって魅力的な選択肢となり、掲げた理念・目標が実感できるカリキュラムが組まれ、卒業生が明和を選択してよかったと思えて初めて、改革成功である。やるならば、2025年が明和史上の一大画期として、100周年記念誌に華々しく記載されるようになることを願う。

参考文献
・愛知県HP「「県立高等学校再編将来構想」を策定しました」、https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kotogakko/kousousakutei.html、2022年5月1日最終閲覧
・愛知県HP「県立高等学校への併設型中高一貫教育制度の導入の可能性の検討について」、https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kotogakko/chukoikkan.html、2022年5月1日最終閲覧
・愛知県HP「令和2年国勢調査結果速報 -市町村別人口及び世帯数- (2020年10月1日現在)」、https://www.pref.aichi.jp/soshiki/toukei/kokuchou2020.html、2022年5月1日最終閲覧
・大嶽さと子, 石田靖彦, 山田孝, 石川久美, 吉田俊和「中高一貫校における対人関係に関する研究 : 内部進学者と外部入学者との交流過程」(『中等教育研究センター紀要』第5巻第6号、2006年)
・大脇康弘「中高一貫教育の批判的考察一構想の具体化と制度論的意味ー」(『大阪教育大学教育研究所報』第36号、2001年)
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・新川壯光, 藤咲智也「高等学校における男女共学化・中高一貫化に対する生徒の認識についての調査報告」(『東北大学大学院教育学研究科研究年報』第61巻第2号、2013年)
・濱本真一「公立中高一貫校拡大の規定要因分析」(『社会学年報』第41号、2012年)
・濱本真一「早期選抜における機会不平等の検討」(『社会学研究』第96号、2015年)
・平林朋之「公立併設型中高一貫校における教員の意識調査」(『東京大学大学院教育学研究科教育行政学論叢』第39号、2019年)
・ベネッセ教育総合研究所「中学受験に関する調査 [2012年]」、https://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=3275、2022年5月1日最終閲覧
・文部科学省「令和3年度学校基本調査(確定値)の公表について」、https://www.mext.go.jp/content/20211222-mxt_chousa01-000019664-1.pdf、2022年5月1日最終閲覧
・油布佐和子, 六島優子「中高一貫教育の現状と課題」(『福岡教育大学紀要』第55号、第4分冊、2006年)
・Müller, Walter and Wolfgang Karle 1993 Social Selection in Educational Systems in Europe, European Sociological Review, 9 ⑴ , pp.1-23.

2022年5月2日

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