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絵本のこと

5年前、初めて出版させて頂いた本は絵本でした。

私にとっては思いがけないことでしたが、出版社からお誘いを頂いた時は、驚きと同時にとても嬉しく、即答で引き受けました。
しかし、制作は自分の力のなさと対峙する日々で、試行錯誤を繰り返し、何とかかんとかやっと作り上げたのが「野のはなとちいさなとり」(株式会社ミルトス刊)です。

できてみると、そう意図して作ったわけではないのに、私の小さな経験の中で気づいたことや救われたことが表れていて、物語を作るって不思議だなあと思ったものです。



とはいえ、初めての出版。
こんなものを世に出していいのか、何より予算をつけて出してくださる出版社に損害をかけては申し訳ない・・・という思いで、夜も眠れなくなったことを思い出します。

出版してからは、刺繍で描いた絵本という珍しさもあったのか、手芸誌や絵本雑誌などが取り上げてくださったりして、思ったよりも良い評判を頂き、ホッとしました。

絵本の個展や展示会で、直接寄せてくださる感想は何よりも嬉しいものでした。
ある方は「主人公の小さな鳥はまるで自分のよう」と短い絵本の言葉からも深く意味を汲んで下さり、1時間近くも話し込みました。
またある方は、大切な肉親を亡くしたばかりだったけれど、この絵本が心に響いて「いつも枕元に置いているの」とその写真を見せてくれたり・・・。

一昨年のデパートでの展示会では、涙ながらに感想を伝えてくださる方がいました。

つい最近は、4歳の女の子から、書き始めたばかりであろうかわいい文字でお手紙を頂き、私の心も熱くなりました。

何か人を感動させようと思って作った物語ではありません。
作る時にひたすら思ったのは、独りよがりになってはいけないな、こんな機会を与えて下さったのならば、それに応えうるもの作らないと・・・ということ。

だから不思議なのです。
ご感想を頂くたびに、どうしてこんな深いところまでわかってくれるの?と。


「心に響く」という事は、作り手の意図以上に、読み手の心が作用しているように思います。
絵本は、言葉の説明を超えて、思いが不思議に伝わるのだなとつくづく感じています。

自分の事を申し上げると、「人を励まし、慰める」という事がどうも苦手です。
元気をなくしている人をみて、何とか慰めたい思いがいっぱいあっても、どうもうまく言葉にならず、そして変に軽い言葉を言ってしまって後悔したり・・・。
そんなことが何度かあり、自分を見限ってもいました。

けれど、絵本には、時として人の心に触れ、慰め励ます力がある。
そしてそれは、人の目に触れないところで密かに苦しんでいる人や悩んでいる人にも、そっと寄り添う事のできる力。


一昨年、ある事を通して心に湧いてくるストーリーがありました。
数日、数週間、数ヶ月経つうちに、それは自分の中でどんどん膨らんでいき
何とかこれを形に・・・と今度は私の方からお願いして、今絵本の制作をしつつあります。
夏頃には出版させていただけるかなあ。

刺繍の作家として、おかげさまで忙しく仕事に追われる日々ですが、
絵本作りは仕事とは別のところにあるような気がします。

どうか良い本ができますように。
この本を通じて、また皆さまと繋がれますように・・・と今は祈るばかりです。

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