相対音感は人間らしいコミュニケーションのため

辻康介先生のソルフェージュの補講で、大島俊樹さんの「階名唱(いわゆる「移動ド」唱)77のウォームアップ集 」を使うことになりました。

 その1 回目のこと。表紙に「あおげば尊し」の楽譜が印刷されており、階名と音名が書いてあったので、まずはウォームアップがてらこの曲を階名(移動ド)で歌ってみました。

受講者の中にピアノが上手で、「ピアノのGの鍵盤の音を聞くと、『ピアノのソ』の音にしか聞こえない」という感覚(いわゆる絶対音感)を持っている方がいるのですが、その人にピアノを弾いてもらいました。この方は私たちが階名で歌っても普通に弾くのですが、先生に「君も階名で歌いながら弾いてみて」と言われると、とたんに混乱して弾けなくなる。「では、階名を歌詞だと思いながら弾いてみて」と言われると、歌いながら弾ける。

他にも絶対音感を持っている人がいて、「では、この音は何?」とランダムに音を鳴らすと当てる。私は絶対音感は持っていないけど前後の関係で当てる(というかカンで当てている?)。しかし、絶対音感の有無にかかわらず当たる精度が高いのは、4声部の合唱での音域程度。そしてあまりにも低い音、高い音だと誰もわからなくなる。

それで、絶対音感は限られた範囲での感覚だという話になりました。
私:「絶対音感が本当に必要なのは動物ですよねー。鳥などは自分の仲間とそれ以外を聞き分けないと生き残れないけど、人間はどんな赤ちゃんが泣いていても赤ちゃんだと思うし、猫や犬も種類は違うけど猫や犬の鳴き声だと思うし、そして、人間の赤ちゃんと猫と犬の声は違うと感じるというように、相対的に区別できるように進化していったというか」

先生:「そうなんだよ、特定の周波数しか出さない動物もいて、自分の仲間と敵を区別するように絶対音感があるけど、人間はもっと複雑なコミュニケーションをするから。多分最初は唸り声とか歌から始まったんじゃないかな?発した音の前後関係を相対的に認識して『こういう音の関係の時はこういう意味・気持ち』など、(無意識で考えながら)コミュニケーションを取るようになったのかも」

この会話をしながら、「人間は複雑なコミュニケーションをする」というのが心に響きました。人間が絶対音感から相対音感(音感に限らず物事を相対的にとらえる能力)を得る方向に進化していったのは、人間らしいコミュニケーションをするためというのが、ものすごく腑に落ちたのでした。そして、思いがけず進化論的な話ができて、ちょっとうれしかったりしました。

といっても、この場にいた誰もが絶対音感を持つことに否定的ではなく(絶対音感を持っている人ばかりなので、恩恵も苦労もよくわかっている)、「子供を見てると、子供はすぐ覚えるから絶対音感は自然に身についちゃうんだよね」という言葉にみな共感していました。

絶対音感と相対音感の違いを感じながら学ぶソルフェージュ、ますます楽しみです。

【ご参考】Salicus Kammerchorを主宰する櫻井元希さんが、大島俊樹さんのこの練習本の意図するところを説明してくださっています。「ドレミのマップを体にしみこませる」こと。これを読んだらドレミファソラシドを正しく歌えるようになりたいと思うこと間違いなしです!