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Youtubeの再生履歴を家族に見せられるか問題


2歳の息子にせがまれてFirestickのリモコンを操作すると、リビングのテレビ画面いっぱいにYoutubeの再生履歴が映し出される。原色で縁取られた文字の躍るサムネイル、〇〇をうたってみた、有名アーティストの何千万回再生されたミュージックビデオ。

我が家のFirestickは夫のアカウントで契約しているので、リビングの画面には夫が通勤中や就寝時にスマートフォンで再生した履歴がずらっと並ぶ。そしてそれらを目の当たりにするたびに、彼に対する尊敬の念を新たにするのである。一体どうしたら、こんなにためらいもなく、再生履歴を公開できるものなのか。

みなさんは、自分の家族に、YouTubeの再生履歴を見せられますか。


私だって、別にいかがわしい動画を見ているわけじゃない。でも、自分の再生履歴はどうしても見せられない。友人に平気で「いやー、昨日Youtube見すぎちゃって」とか「〇〇の動画見ちゃった」とか口に出せるのに、それでもあの画面を見せるのはものすごく恥ずかしい。いったいこの気持ちは何なんだろう。


とりあえず自分で自分の再生履歴を見返してみるかと思ったのだけれど、そもそも自分で見るのがつらい。恥ずかしい。
息子が寝静まった寝室で、ひとりで布団を被ってスマートフォンをにぎりしめながら、やっぱりやめようかなあと悩んでいる。そもそも今日、YouTubeで何を見たのかなんて、ほとんど覚えていない。

勇気を振り絞って、「最近視聴したコンテンツ」欄をスワイプすれば、まあ出てくる出てくる。宇多田ヒカルのYoutube特別配信→K-POPアイドルのドキュメンタリ―→某バラエティ番組で俳優二人がはしゃいでいる様子→その片方が出ているドラマの予告編→もっかい同じバラエティ番組に戻る→もっかいドラマ予告編→そのドラマに出ている別の女優さんの映画予告編→似た内容の映画予告編…


あまりにも短絡的な思考回路が暴かれてしまう再生履歴を目の当たりにして、愕然とした。自分の趣味が平凡かつミーハーなのは元々知っている。そうではなく、なんというか、この連なりそのものが生々しいのである。自分がどんな順番で、毎分毎秒どんなものをスマートフォンで見ているのかをつまびらかにされるこの感じは、YouTubeの誘導にまんまと操られている部分も含めて、妙な生活感を帯びている。


まさか、過去の恋愛をあれこれ語るよりも、自分がスマートフォンで何を閲覧しているかのほうが恥ずかしいと感じる日が来るなんて、思いもしなかった。
もしかしたら私たちは、今日自分が何にどれだけ時間を費やしたのか、わかっているようなつもりでいて、全然わかっていないのかもしれない。めちゃくちゃ忙しくて仕事ばっかりしているつもりでも、実はたくさんYouTubeを見ていたりするのかもしれない。ビジネス本にはそれを見える化しろとか書いてあるけど、見える化なんてしたら生きていくのがしんどくてやっていられないのかもしれない。


それはYoutubeだけにとどまらない。スマートフォンで何かを検索した後、誰かが私の検索履歴を見る機会なんてないのに、恥ずかしくなって履歴を消去してしまうことがある。この検索の痕跡を残しておきたくない。自分がこの1時間、貴重な1日の24分の1にも当たる時間を、ふるさと納税での果物と肉、泊まりもしない温泉旅館の間取りや露天風呂の泉質、そしてMIU404の予告を何度も見て身悶えすることに費やしているなんて。時代の奴隷すぎて見ていられない。

インスタでキムタク一家をチェックしているのは公言できても、まずキムタクのアカウント→静香は何かしてるかなと思って静香→ついでにココミ→ここまできたらコーキ→もっかいキムタクからのココミ→静香のストーリーからキムタク3度目、という流れを自分で記録として目にするのは、やはり恥なのである。


別に、何を目にしているかによって、その人間の中身は全然分からない。夫の視聴履歴を見たからと言って、夫がその番組に賛同しているということにはならないし、そのアーティストが大好きということにもならない。もしかしたら嫌いかもしれない。暇な時間があるからじっくり見ているのか、疲れ果てて眠りこけた中でただ流れているだけなのか、何もわからない。

そこにあるのは、確かにその番組がスマートフォン上でその順番に再生された、ただそれだけのことなのである。そんなの知っている。わざわざ誰かに明かされるようなものではない、消えてなくなる時間の連なりだからこそ、なんだか生々しく感じるのかもしれない。


そんなことを考えていた矢先、スマートフォンにAmazonアプリからの通知が表示された。どうやら頼んだ商品が出荷されたらしい。タップしてみると、夫が注文したと思われる香水が現れた。
それは、だいぶ前に夫と同棲を始めたころ、洗面所のよく見える場所に置いてあったメジャーなブランドのものだ。夫は周りに漂うほどシュッシュする人間ではないので、その香りというよりも、毎朝目にしていた瓶のフォルムが懐かしい。そういえば、来月から仕事の環境が変わるから、香水でもつけちゃおうかなーと恥ずかしそうに言っていた。ふーん、これにしたんだな。

私はふと思い立ち、普段はあまり見ないAmazonアプリの注文履歴ならぬ、閲覧履歴をたどる。一度でもタップした商品がずらっと並ぶページだ。どんどんスクロールしていくと、夫が検討したらしき香水がいくつも出てきた。最後までスクロールする。うん、あった。やっぱりあった。ドルチェアンドガッパーナ。夫がこれを本気で買おうかと悩んだのか、おすすめで出てきた表示をタップしただけなのかは、やはりこの履歴だけでは謎のままである。

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