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季節は今日もそこにある

夏だな。

あれはまだ私がピチピチの20代、晴れた3月の昼下がり。バスを降りたその瞬間だった。風が吹いた。あったかくて、緑のような木漏れ日のような、丸いにおい。上手く言葉にできないけど、毎年やってくるあの「春」。どうもこんにちは、春です!って言ってる。私はその瞬間「春だ!!」と興奮し、早く誰かに伝えたくて、営業先の扉を開けたら挨拶もそこそこに、「今そこに来てましたよ、春!」と告げた。営業先のおにいちゃんは、なんそれ、人っすか?と笑ってくれた。

2021年7月1日。1年の半分がおわった。今年もアイツのせいでいろんなイベントが中止だ。強行されるものもあるけれど。私を含めた多くの人が、この1年はあっという間で季節感がないと言う。大規模イベントも中止だし、身内の小さなイベントすらも自粛せざるを得ないムードだし、これは仕様が無いのかも知れない。お花見も、夏祭りも、運動会も、卒業式も、ろくに出来ないんだから。

私だって例外なく、いろんなイベントが中止になった。でも日常はつづく。毎朝日の出とともに起きて、仕事して夕方家路につく。最近は徒歩で会社に行く。さすがにもう朝でも暑くて、我慢できずにマスクを口までずらした。そしたら、夏の朝の匂いがした。少し湿って澄んだ、なんとも言えない匂い。どうもこんにちは、夏です!って言ってた。マスクしてたら気づかなかった。今年も春は通り過ぎて、夏が来ている。みんなマスクしてるから気づかないんだ。季節は当たり前に今年も来ている。いつだってそこにある。帰り道もマスクをずらした。醤油の香りがした。緊急事態宣言が明けた街で、みんなが一杯やる時間だ。

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