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重厚長大産業の凄みを感じる「トヨトミの逆襲」

日本を代表する自動車メーカー「トヨトミ」を舞台とする本作は、前作「トヨトミの野望」の続編にあたります。

「トヨトミ」という社名からわかる通り、モデルは誰もが知ってるあの会社。小説という体裁をとっているので虚実入り混じっていることは前提としても、いかにも「ありそうな」描写が読みどころです。

例えば、本作の中では多くのメディア関係者が、毎朝トヨトミの社長宅に伺い、その話を聞くという様子が描かれます。

東海新聞だけではない。どの新聞も経済誌も、トヨトミから大きな発表があるごとに、経済面を大きく割いて掲載する。ろくに検証もしない、ウラもとらない。とどのつまり提灯記事である。それが最大の広告主トヨトミへの「忠誠の証」なのだ。

実在の企業とメディアの関係がこのようなものかはわかりません。ただ、今の日本のメディア環境を考えると、この作品の中で描かれているとおりである可能性も高いなと思わされてしまうのです。

巨大企業のトップであることのプレッシャー

僕は、この10年ほどインターネット産業の片隅で仕事をしています。

新しい業界であるため、インターネット産業の経営者の多くは若く、フットワークの軽い人が多いように思います。経営者ですから、周囲には見えない重圧もあるでしょう。ですが、ネット業界の経営者の多くは、それほど悲壮感がないように見えます。

しかし、トヨトミのような巨大企業のトップともなれば、そうもいきません。日本経済全体への影響やステークホルダーの多さから、経営者にかかる重圧もハンパなものではありません。

為替が一円、円高に振れると、四百億円の利益が溶けるわけですからね。並の神経じゃ、経営できないですよ。

日本的な「ものづくり」企業は、時代の変化の中で「全盛期を過ぎたもの」として、メディアなどでは扱われます。

しかし、いまだに膨大な数の人間がそこに携わり、知恵を振り絞りながら、世界と戦っている。

GAFAとの争いだけが世界との戦いではない。そんな重厚長大産業の凄みを存分に教えてくれる作品です。

前作とあわせて読むと、倍楽しめると思います。


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