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僕にとっての「スター」だった熊代聖人へ

2022年シーズンが終わり、ライオンズの熊代聖人に戦力外が告げられた。来シーズンから二軍の守備・走塁コーチに就任するという。

熊代は、派手さはないものの一定レベル以上で内外野をこなせるユーティリティー性と、バントなどの小技を確実に決めることができる器用さが評価され、バックアッパーとして一軍での地位を確立していた。

また、試合前の「訓示」で知られるようにムードメーカーとしても貴重な存在だった。

とても僭越なことではあるが、40歳を超えたサラリーマンである僕は、なんとなく熊代に自分のキャリアを重ねて考えてしまうことがある。そして、それはいつも「熊代はいつスターであり続けることをあきらめたのだろう」という疑問と対になっている。

◆◆◆

愛媛県立今治西高校時代の熊代聖人は、間違いなく「ヒーロー」だったと思う。在学中は3度にわたり甲子園に出場し、最後の年はエースで4番を務め、ベスト8進出に貢献した。

実際に、僕は「西武ライオンズの熊代聖人」は知らないけれど、「今治西高校の熊代聖人」なら知っているという野球ファンに何度かであったことがある。それだけ高校時代に残したインパクトが大きかったのだろう。

それに比べて、プロに入ってからの熊代のキャリアは決して順風満帆とは言えなかった。2014年の伊原政権では、積極的に起用されたもののスタメンに定着することはできず、徐々に出場機会が限定されていく。

2015年以降は、いわゆる「便利屋」として生きることを強いられ、内野はもちろん時に捕手、2軍で投手が足りない時にはブルペンにすら入ったことがあったという。

ドラフト同期である秋山翔吾も、2018年優勝時に、その立ち位置の変化を以下のように表現している。

 ◎西武・秋山が、前夜の祝勝会で顔まねをされた熊代に愛情を込めて。「同期入団で“レギュラー獲ろうな”って言ってやってきたけど、8年たって、方向性と立場もだいぶ変わってきたなと…。まあ、ああやって目立ってくれるのはうれしいですね」
https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2018/10/02/kiji/20181002s00001173077000c.html

かつて「ヒーロー」だった選手が、化け物ぞろいのプロの世界に入り、便利屋として活路を開いていく。一見すると、それは当たり前の選択であるかのように思える。

ただ、やはりそこには葛藤もあったのではないかと思うのだ。なぜなら自分もそうだからだ。

僕は、普段WEB系の編集者として働いているが、自分で文章を書いたりするのも好きだったりする。しかし、ここに至るまでに「WEB上で文章を書く」という行為において自分は、トップに行けないであろうことが何となくわかってしまった。僕は、SNSで「エモい」と評価されるような文章も書けなければ、身近な話題をバズる文章へと仕上げる能力もない。

だから、生き残るには自分が本来最も勝負したい分野とは別のリングに上るしかない。SEOの知識を身に着けたり、FP資格取得のために勉強したり、事業サイドの事情を理解するための努力をしたり…。

そんな自分の状況を投影しながら見る熊代のプレーには、本当に勇気付けられてきた。

もつれた試合で、ショートに入り無難に守備機会をこなす。

外野の守備固めで登場し、ファインプレーで試合を閉める。

代走に出て、シングルヒットで決勝のホームを陥れる。

その他にもバントや守備固め、代走などなど。。。

二桁を超えるホームランや3割を打てなくても、150kmを超えるボールが投げられなくてもキャリアを続けていくためには、「求められたところで求められる役割」をこなさなければいけない。

「決めて当たり前」が常に求められるポジションには、プレッシャーもあっただろう。それでも当たり前のように便利屋家業をこなし、チームを盛り上げる熊代の姿に僕は「プロフェッショナル」を感じて来た。そして、自分もそういうキャリアを歩みたいと思う。

スーパーヒーローになることをあきらめたとしても、「求められる役割を確実にこなす」「困ったときに、ベンチにこいつがいると助かる」、誰かにとってそんな存在になりたいと思う。

◆◆◆

前述したように、熊代は来年から2軍のコーチに就任する。

渡辺GMは「1軍は時間的に難しいが、ファームの監督、コーチには比較的時間があるので、外部のスペシャリストを招き、みっちり勉強してもらっている」と説明する。
(中略)
熊代コーチについても「今季もある程度1軍の戦力になっていたとは思うが、彼には現役引退後の勉強をどんどんやっていってほしいと考えた」と早くから指導者としての適性を見出していた。
https://full-count.jp/2022/10/19/post1296578/

僕のヒーローであった熊代と、ライオンズで夢の続きを見れることをうれしく思う。

「人生に後退はない。前進するしかない」

そう語ってくれたヒーローが育てた次世代のヒーローと出会える日を僕は楽しみにしている。

※画像はLIONSDinerで撮影したAR熊代聖人と僕

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