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闘いの日々

2008年頃の話です。

【Round1:女子高生】

日本語が伝わらないことが多い……。

いつも集団でわらわらやってくる女子高生軍団。(女子中学生軍団かもしれない)

付録付きの雑誌をお買い上げ。
付録は本誌にはさんであり、ひもをダイヤ型にかけてある。
◇ ← こんなふうにね。

ひもがバーコードをジャマしている場合には、ひもを切ってしまってから会計をする。
しかしひもの影響を受けない場所にバーコードがある場合、私はこう聞く。

「ひもはお切りした方がよろしいですか」と。

これは、
「この雑誌、買ってすぐに電車の中などで読みたいのだったら、ひもを切っておきますが、家まで、このまま読まずに持って帰るのだったら、中身がバラバラにならないように、ひもはかけたままにしておきます。どうなさいますか」
という意味の質問を、ぐっとコンパクトにまとめてあるのだ。

要は、
「あなたにとって、このひもはない方が都合がいいですか。それとも、あった方が都合がいいですか」
と聞きたいわけだ。
荷物の多寡や、天候の具合なども影響するだろうし、個人の意志があるだろうから、聞く。
とにかく聞く。
なるべく希望に添おうと思って。

たいていの人は、
「切ってください」とか、
「そのままにしておいてください」とか、
的確なお返事をしてくださる。

しかし、ある日の女子高生軍団、のうちの一人がこう答えた。

「どっちでもいいっす。ご自由に」

うーーーーー。
喧嘩売られているみたいだ。

こちらの方が、よっぽどどっちでもいいんですけど。

あなたの都合を聞いているんですけど。

女子高生軍団は、(やはりこの幼さは中学生かも)
「ご自由に、なんて言っちゃったよ!」
とかなんとか、自らの発言について店の外で演説していたらしい。
とても感じ悪いから、やめた方がいいよ、それ。


【Round2:パイン嬢】

毎週、毎週、毎週、毎週、毎週、毎週、毎週、毎週、どうでもいいようなくだらないことを聞かれるのに、ほとほと疲れ果てて、今日は何か聞かれたらこう答えようと決めていた。

「毎週聞かなくても、いつもと同じにやってくれればいいですから」

そう決めて待っていた。

15分も遅刻してきたパイン嬢は、そんな時に限って何も聞かずに、そそくさとコミックの袋詰めを始めてしまった。

今日発売の新刊コミックの梱包が開けられていないまま山積みになっているのに。

パイン嬢、書店勤務7年目です。

これは私の負けだ。
黙っているわけにはいかない。
しかし、なるべく彼女を覚醒させるのに効果的な言葉を選びたい。

「新刊コミック、先に開けて出してください」
と言った後で、
「いつもと同じ優先順位でやってください」
と付け加えた。

そもそも優先順位というものを彼女は理解していないのかも。
どんな時も、常にケースバイケースなわけよ。

パイン嬢はこう言ったの。

「そうですね。(私も)金曜日(の朝に入るようになってから)長いし~。 付録ばっかやってたから(他の仕事知らないんで)…… 覚えます!」

優先順位って覚えるものじゃないと思うの。
判断するものだと思うの。

覚えなきゃいけないような仕事じゃないの。

はさみでひもを切って、梱包を解くのって覚えなくてもできるよね。

「付録ばっかやってた」というのもね。
付録がたくさんあれば、もちろんあなたはそれをやってていいわけよ。
コミックは私が開けますから、あなたは付録を組んでてくださいな。

でも今日、付録ほとんどないでしょ。

そしたら、コミックを袋に詰めるより先に、今日来たばかりの荷物を開けるべきだって、たぶん勤めて3日目の人でもわかると思うよ。

厳しいイジメに耐えたり、サボり社員のフォローをしたり、いろいろあったけど、賽の河原で石を積むような、パイン嬢への指導……。
彼女と一緒に金曜に入るようになって2年4ヶ月。
初めてギブアップするかも。

書店員歴12年目です。

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